第19話 集団進化とランクアップ

◆◆◆ 19話 集団進化とランクアップ ◆◆◆



 数日前…………


 早田防衛大臣は内閣総理大臣である朝田より内密に連絡を貰っていた。


「……と言う事で、警戒態勢は介助だ」


「…………それは本当の話ですか?」


「私が嘘を言っているとでも?」


「いえ、話の規模が余りにも大きいもので。では、警戒態勢は解除。現在進められているトンネル探査は中止に――」


「いや、それは継続だ」


「継続?」



 話の内容を考えると中止になっていても変では無いと思っていた早田は、思わず声が高くなった。



「先鋒は最低限の情報しか与えてくれない。それにあちらも困っているらしい。幸運な事に我が日本と彼方では、私達の方が探索は進んでいるらしい。だから色々と絡んでいるんだろう。探索は継続!素材を内密に捕獲!専門研究機関を立ち上げ調べ上げるんだ」



 イヤとは言わさない重く思いの籠った言葉だった。

 先の大戦では要職にも絡めず、代々続く名門一家である朝田はこの件で結果を残そうと思っているのだろうと早田はピンときていた。


「では早急に手配し、探索を推し進めます」


「大陸の方でも忙しくなっているらしいからな、の事は頼むぞ」


「彼はシールズが張り付いてますが、念のために二重に護衛を解けていますので」


「では、それで頼むぞ」



 朝田はニヤつきながら電話を切った。

そのニヤつきが声に漏れ出ていた事を早田は電話口で分かる程に聞こえ感じていた。



国防総省ペンタゴンが動いている……か。しかも環太平洋に接する国にあのトンネルが出来たか。しかも我が日本が最大保有国とは、運が良いのか悪いのか。」



 早田は事務次官を呼びつけ、各方面の幕僚長を呼びつけるように指示し、戦時体制から局地的な警戒態勢に切り替え、陸軍内部に専門の研究機関を設置する事を決めた。


その代償が多く成る事を想像もせずに……




◆◆◆




「そろそろ後ろに流すぞ!」


 この件に関してもある程度話をしていた。

単純に後ろに見逃すと、最悪後ろから攻撃される恐れがある。溶解液の一撃が怖い為に、出来るだけ後ろは気にしたくない俺は、後ろの兵士達のレベルを上げさせる為に苦肉の策として少し離れた味方に斬らせる為にジャンプしたスライムモドキの下から蹴り上げる!


 こいつらに打撃耐性がある事等は分かっている!

蹴り上げたスライムは俺の上空を通り過ぎ、背後で警戒している隊員達の目の前に落ちた!


「くッ!」


迷彩戦闘服を着こんだ若い兵士が、特注だろうか刃渡り50cmはあろうかと言うサバイバルナイフ……いや、これは形状が似た片刃の剣を救い上げるように腕を振った!



パシャッ


軽い音と共に透明の膜を切り割き内用液を撒き散らす!

魔核を斬る事が出来なかった兵士は、ブリーフィングで教わった通りに足でその玉を踏み割った!


「次ぎ頼む!」



「じゃんやんいくぞ!」


兵士の言葉を待っていた俺は、合図と共にスライムを蹴り上げて行った。


それが五回目となった時、後ろから『ううッ』と言う声が聞こえ「大丈夫か?!」と慌てる声が聞こえだす。


離れた所に待機していたストレッチャーを持っていた兵士が駆け込みエボリューションした兵士を乗せて下がって行く。


「次ぎ頼みます!」


そして準備していた次の兵士が俺に声を掛ける!



 軍神作戦は始まった。

富士に集まった二個連隊総勢2000人はいる内、兵士の約1/3近くに当たるである240名を今日の内にエボリューションさせなければならない。

2分で一人、24秒で一匹殺す計算で1時間60分で30人、そのペースで8時間行わなければならない。


後でボーナスを踏んだくってやるッ!


前から来るスライムを切り割き、合図と共に後ろに蹴り上げる。

間が空くと前に進み、ぞろぞろと戦線が伸びていく。

単純作業が意外な程にきつく、2時間が過ぎる時に一旦休憩を挟み、リュックから水の入ったペットボトルを取り出す。


浴びるように水を飲むが、視線は前から外さない。


飲み終わると同時に蹴り上げ作業が始まった。



 デカい穴だからか、スライムが途切れる事は無かった。

水を飲み、固形栄養食を食べながら剣を振る。

楽しみなんかはたまに腕時計を見て、針が進んでいる事が唯一の楽しみになっていた。




 もう、何匹倒して何匹後ろへ蹴ったかも分からない。同じような景色に同じような攻撃をしたのだろうか。

頭がボーっとしてきた時だった。



『討伐累積値が一定数に達しました。データリンクに登録……DランクよりCランクへ移行。全世界へ発信・共有し、これよりエボリューション進化します。エヴォリューション進化完了までの予定時間は25時間』



「うッ!」


 いきなり来た!

それに今までの軽い痛みでは無く、初めの痛みと比べれば軽いが、この前と比べると少し傷みが強い!!




『討伐隊一人の討伐累積値が一定数に達した為、DランクよりCランクへ移行しました。

亜空間トンネルより湧き出る集団地球外生命体暴走スタンピードの可能性は依然高く、地球人滅亡の可能性は高い状態です。選ばれし討伐隊は侵入する地球外生物の討伐を推奨致します』



後ろからの声がざわついている。

アナウンスが聞こえたのか?


更にタイミングの悪い事は重なって来た!

スライムばかりだった敵対生物の中にサソリモドキが混ざりだす!



骨の進化が始まったせいか、傷みのせいで鋭く剣を振る事が出来ない!

それでも気力で尾の針を剣で斬り飛ばす!

そして腰に付けた斧で身体を真っ二つにした。


限界だ。



「緊急事態!満足に動けなくなった為これから撤退する!」



そう言う事も分かっていたのか、ざわつく事も無く下がって行く音が聞こえだす。


剣を見ると少し刃が欠けていた。

すかさず新しい剣に持ち替え、迫って来るサソリモドキを撃退する!


知能は余り無いのか、殆ど同じように切られて死んでいくサソリ。



スライムとサソリの混合敵対生物を何とか倒していると、不意に声が掛かった!


「陸軍レンジャーです!殿しんがりを交代しに来ました!上からの指示です!」



 その声を聴き後ろを振り向くと、陸軍の明るめの迷彩戦闘服を着こんだ人達が5名立っていた。

背中には料理などを注文されて自転車などで配達する人が背負っているバックを一回り大きくした物を背負っていた。

そして腰には黒く塗られた大きなサバイバルナイフを手に持ち警戒している。

一般兵と違うのは、剣に色を塗っているか、塗っていないかだけに見える。



「じゃあ頼む!」



指示ならば任せるしかない。

俺は剣を収めてレンジャーの後ろへと下がった。


レンジャーは背中のバックを下ろしながら、その男達を守るように前衛二人が剣を抜いて互い違いに並んで殿を務めた。



何かやるつもりだという事は分かったが、自分の安全を考えていつもより痛い身体にムチを打つように撤退していく。

その際に更に陸軍兵士6名とすれ違ったが、俺を一瞥いちべつしただけでレンジャーの下へと進んで行く。



その後、暫くしてから銃声がトンネルの中に木霊していた。



 救護テントの中に並ぶ二百名近くのエボリューション進化して動けなくなった兵士達。

中には溶解液を掛けられてヘリで運ばれた者もいるという話だったが、最後に駆け付けたレンジャーと兵士はサソリとスライムの攻撃に会い、一人が手首を切られ、もう一人が溶解液を避けきれずに肩に当たった所から腕が?げ、合計三名が重症だったと聞いた。



 俺はこの犠牲者が多いのか、少ないのかも分からず、救護テントの中に入って行く。

200名以上の人が入っている乱立した救護テントの中からデニスを見つけた。


「よお、大丈夫そうだな」


「まあな、これで死ぬわけがないからな」



軽口を言っているデニスだが、その顔を苦痛に歪んでいた。


「俺が飯を食べさせてやろうか?」


簡易ベッドの横に置かれている水のペットボトルと蓋がされた弁当の様なモノを眺めながら言ってやった。



「一食、二食抜いて動けないような身体じゃねえんだ。圭一……覚えてろよ」


「残念、弱った時がチャンスだと思ったんだけどな」


「お前もエボリューションしたんだろ。アナウンスが聞こえたぜ」


「デニスよりも上になった感じだな。今までよりも更に能力が上がるように願ってるよ」


「ほざけ、直ぐに追いついてやるっ!」


「その時はまた突き放すさ」



 ペットボトルのキャップを捻り、口の横に持って行くと顔を横向きにして飲みだす。

俺も痛みの辛さは分かっているだけに仲間として出来るだけの事はしたい。

母に水と薬を飲ませてもらったなどと言うつもりは無いが……



「女じゃなくてすまんな」


「……お前と同じにするな。ちゃんといるぜ、佐世保にな」


「can't believe it!」(信じられない!)


俺がデニスに言うと、デニスは勝ち誇った顔で口角を上げ、ニヤリと笑みを浮かべていた。



「奥にマリアがいる。水でも飲ませてやれ。Mouse to mouseでな」


「弱った女性に出来るか!それだけ元気なら大丈夫だよな、また明日」



 その足で奥に設けられている女性隊員専用の救護テントへと向かった。

出入り口は一つしかなく、男と比べると出入口でのチャックも厳しい。

入室する際に名前と階級を書き、中に入る。


中は20名程が寝ているのだろうか、一人一人のベッドには衝立が掛けられておりプライバシー保護がされてあった。

男との差はなんなんだ?


歩いている看護師にブースの位置を聞き、案内してもらった。


「入りますよ……」


中は静かなままで、返事が無かった為にそのまま静かに入った。


マリアは寝ていた。


毛布は痛みの為に体動で捲れ上がり、迷彩柄のタンクトップが見えている。

その顔は苦悶に歪み、妙な色っぽさが垣間見えていた。


こういう時は何か持って来るべきだったのか?


ベッド横にしゃがみ、顔を覗いていた。

ややバタ臭い顔だと思うが、日本人が好むような細身の顔と茶色いウェーブした髪が、生きるマネキンの様な美しさを表していた。


そのウェーブした髪が頬に掛かっていたので、肌に当たらないように指先で横へと退けてみた。



その動きに気が付いたのか、マリアは目を開け俺の顔を見て再び目を閉じた。


「water……i want water」



ベッド横に置いてあるペットボトルを開け、細くて長い指に握らせようとするが、握ってくれない。


「起こして」


「wake me up」


細い声で起こしてと言ってきた。



俺は胸をドキドキさせながら首下から背中に手を這わせ、ゆっくりと起こして行く。

第一フェーズは骨の進化だろうから動かすと痛みが走る。俺も進化の途中で痛いんだが、それ以上に痛いはずのマリアの苦悶の表情を見ながら起こした。


「アアッ アウッ オオオオ ノー」


何か変なビデオを見ている感じもするが、そんな気持ちに成ったらダメだ。

弱ったマリアの背中に身体を割り込ませ、身体で背もたれになった。


マリアの手を握り、先ほどと同じようにペットボトルを握らせようとするが、握ってくれない。

痛みの為に息が荒く、俺よりも大きな胸囲が上がったり沈んだりしている箇所に目が釘付けになる。


男しか身近に感じた事も無く、女の手を握るのなんて運動会のフォークダンス位しか経験が無い俺にはハードルが高かった。


それでも


「water」


と言うマリアの口にペットボトルの口を上げると、ゆっくりだが飲み始めた。


喉がコキュコキュ言っているのが何か可愛い。


少し下を見ると吸い込まれそうなデスバレーが見えたのでトラップに掛からない様に視界から外す。


あちこち大きいんだが、意外にも細い背中にマリアの女らしさを感じ、我慢の限界が近づいてきた頃、マリアの口がやっと離れた。


俺は少し残念な気分になりながらもゆっくりとマリアを寝かせ、毛布を静かにかけてやった。


綺麗な顔と女らしい体つき、そして柔らかい香りにどうにかなりそうな気分を誤魔化す為、静かにブースを出た。

目を開けて見ているマリアに気づく事無く……



こうして軍神作戦第一日目が終わった。

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