第17話 初仕事

◆◆◆ 17話 初仕事 ◆◆◆



「見えてきたぞ」


 デニスが言っている方向の窓を見ると、眼下に広がる巨大な駐屯地が見えて来た。



 第三次大戦後に新設した滑走路や、停泊している巨大な空母が見えていた。


「第七艦隊主力空母、ドナルド・トランプよ」



大戦では前の主力空母であったロナルド・レーガンは大陸からの巡航ミサイルで大破しており、新造したトランプが現在の主力空母であった。

そして奇妙な形のフリゲート艦やイージス艦も見えている。



アメリカ太平洋艦隊が停泊する港近くにある滑走路横にオスプレイが着地した。


「Go!Go!Go!Go!」


シートベルトを外すなり、いきなり走れと合図が出た!


後部ハッチが開けられると、走りだす二人の後を追っていく。

そこにはデカい飛行機が……

やはり後部ハッチを開けて数人の兵士達が待っていた。

貨物機だっけ?C-17?



「Fly right away!」(直ぐに出る!)


デニスが声を張り上げ後ろから乗り込むと、貨物機の中にはハンヴィーと言う高規格多目的車、民間ではハマーと呼ばれているデカいジープが四台も格納されていた。


ハッチが直ぐに閉じてキュイーンとジェットエンジンが始動する甲高い音がしだす!


滑走路へ向けてタキシングしていく貨物機。他にも6名の隊員が席に着いていた。

シートベルトを装着し、あっと言う間に地面を離れていく。



「これからどこへ?」


「富士よ。富士演習場」



水平飛行を始めるとマリアが席を立ち、ボックスから同じ様な制服を持って来た。



「今の内に着替えておいて。圭一の待遇が決まったわ」


「なんそれ?二等兵じゃないの?」


「エグゼクティブ・アドバイザーよ。戦闘服にもバッチが付けられてるわ」


貰った襟には、『Executive Adviser』と布が縫い付けられていた。



「そう言えばマリア達には階級が付けられてないけど」



「私達はシールズだから万が一を考えて階級などの個人が特定される物は付けられてないわ。圭一はスペシャルな人だからね。戦場も行かないし、名前も階級も付けてないと軍に怪しまれるから」


「そう言う事ね」


来ていた服を脱ぎ、代わりに新しく貰った服を着て行くが、前に立っていたマリアが腹や胸を触って来る。


「何か?」


「筋肉も普通なのよね。弟みたい」


身体を調べているのか、あちこち触って来る。ついでに敏感な所も触り、フフフと笑みを浮かべていた。



「You can put it in your big ass」(デカいケツに入れても良いぜ)


反対側に座っていた海兵隊か、シールズのような隊員からヤジが飛ぶ。


「Shut up!」(黙れ!)

「興味があるなら良いわよ。圭一は私の好みだから」


「マリアは良い隊員だが、気に入ったなら抱いてもいいぞ」



マリアもデニスも言い放題だった。

これが大人か…………

アメリカだからなのかな。




流石ジェット

富士までは1時間少しで着陸した。

そこからハンヴィーを出してそれぞれ二人組になって出発していく。




「何か大事になってません?こんなにアメリカが介入してくるなんて」


助手席に座っているデニスに聞いてみた。



「ああ、大事さ。今や日本だけの問題じゃない。このトンネルはアメリカにも出ているんだ」


「え?」


「ハワイはニイハウ島、コロラド川グランドキャニオン入口、イエローストーン国立公園、エバーグレーズ国立公園の大湿原、ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園の湖畔、カナディアン・ロッキー山脈自然公園麓……現在分かっているだけでこれだけあるんだ。それ以外にも他の国にも出来ている。だが、エボリューションを確認出来ているのは、圭一と弟の二人だけだったんだ。アメリカはもちろん銃を持っている人が多い。だから銃で対応していたのがダメだった。誰もエボリューションしないまま封鎖してしまったんだ。後ろから付いてくる隊員は全てNavy SEALsだ。此処での経験を持ち帰り、本国で指導・殲滅の力として戦う。

だから俺らは本気だし、圭一はアドバイザーなのさ」



「……だからなのか。俺に武器まで渡して米軍に入れられたのは」


「ああ、だが少し失敗したんだよ。圭一の弟が掲示板に書き込んだのが」


「それはどういう事ですか?」


「インターネットは全世界で見られる。そして討伐した事を全世界へ発信してしまった。もしかするとどこかの国のスパイが来る可能性があるんだ」


「それじゃあ!」


「守りは日本軍が担当している。幸い日本人は他のアジア人の見分け方に精通している。俺らアメリカ人では、日本も韓国も中国も分からない」


「最近は俺らでも難しいですけどね」


「だが、俺らよりは理解しているだろ。トンネルばかりを見ていると見せかけて、家の周りにもカメラは設置しているんだ、しかも都会ではない少数の住む集落。部外者が来れば一発で分かるさ。掲示板も今頃は国からの命令で削除されてるだろう」


「それは知りませんでした」


「そんなもんさ」



 割と直ぐに現場に着いた。

登山道に入る道の側だった。近くには点々と民家やお店もあり、既に避難していると言う。

車のまま日本軍の待機している中をゆくりと突き進む。


そしてゆっくりと見えて来たトンネルを塞ぐ大きな鉄板。



「見てみろ、これが日本最大のトンネルさ」


まるでビルのように広く大きな鉄板が見えていた。



「直径約15m、入れようと思えば戦車だって入る大きさだよ」


マリアが追加情報を伝えて来た。


「こ、こんなに大きなトンネルが……」



「演習場が近かったから良かったんだ。日本軍も捨てたもんじゃ無かったさ。避難誘導、粘体生物の殲滅、そしてトンネルの封鎖までを丸一日で終わらせたんだからな」



「さあ、作戦会議よ。行きましょう」



車をトンネルの前、50m程度の所で止め、車から降りて歩き出す。

俺も付いていくように歩いて行くと、プレハブ住宅のような簡易的な建物が建てられてあった。

そこへと入って行く二人に合わせて中へと入る。

そこが会議室だったらしく、軍服を着た人が20名以上も座っていた。

胸に勲章を付けた人や、50歳杉の偉い人もいるように思える。


その会議室の端に並んで座る俺達。



「さて、全員揃ったので、この異生物殲滅作戦の概要を伝える。作戦開始は明朝〇七〇〇時。日本の陸軍とアメリカシールズの共同作戦だ。バックアップには海軍、空軍を使う事もあり得る。

前例がない事なので柔軟に対応する予定だ」



軍人のお偉いさんだと思われる人が壇上で話を始めた。



「殲滅作戦って。俺みたいな進化した人が入るんじゃなくて、武器で持って突入するんですか?」


「ああ、協力な武器、火器を使って突入する気みたいだな。これをどう見る?」


「危ないと思います。最低でもFランクか、Eランクになっていないと。出て来た奴は二種類ですが、それ以上の奴が出て来る可能性があります。あのサソリモドキだって鉈の当て方が悪かったら弾かれるんですよ。斜めに当たれば銃が効かない事も想像できるし、それ以上のモノが出てきたらどうするんですか?」


「俺もおう思っている。だが、日本は早急に対応したいらしい。じゃあ初仕事だ、アドバイザーとして思った事を言うんだ」


「え?」



「少しいいかな?我々シールズから提案がある!」



デニスは話を続ける司会進行を遮り立ち上がって止めた!

おい!マジかよ!



「話しの途中であるが、何か?」


「我々シールズは殲滅作戦に反対する。その理由は海兵隊エグゼクティブアドバイザーである圭一より提案がある」



「では言って見てくれ」



俺らを睨む壇上の男。



「圭一、思った事を言え。遠慮する事はない。失敗すれば何十人も死ぬんだぞ」


背中を叩かれ、デニスは席に座った。



ええい!言えば良いんだろ!言えば!



俺は席を立った!


一気に視線が俺に集まる。

こんな視線が集まった経験も無かったが、何十人も死ぬと言われた。

だから俺の考えている事を言おう!



「今紹介された田村圭一です。先ずは俺の家に出現したトンネルで湧いたスライムモドキ……ここではその粘体生物の事を言いますが、その説明から始めます。


そのスライムモドキと戦った事で思った事を言います。先ず、その生物に人間が撃ち出す打撃では倒す事は出来ませんでした。なので倒す為に使った得物は刃物。俺の場合は仕事で使う大鉈でした…………」



 俺は倒したスライムからサソリの事までを伝えた。


サソリに関しては、外骨格が硬い事、狙った場所を外れると、丈夫さが取り柄の鉈の刃が欠けた事。

トンネルの先は何となくだが長い事を考えても、まだ強い奴が出てくる可能性が高い。


それを考慮して脳内に流れるアナウンスの事や、進化の事を話した。


突入するのは、全員がFランク、又はEランクになってからでも遅くないと。



「では、君の考えではどうするのが最適なのかね?」


人を殺しそうな感じで俺を見て来る男がいた。



「今回は進化する事を最優先に考える事が一番だと思います。山口の件では十数人が進化しているはずです。

身体能力・機能。相手の能力や習性を調べる事、少しでも生身でも異変に対応できる人を増やす事が最優先だと思います。何故急ぐ必要があるんですか?」


「…………では、その線を考慮して案を考えよう」



苦み潰した顔で別の草案をそれぞれだして行く。

一応殲滅の突入は止めた感じになっていた。



「こんな感じですかね」


「良いんじゃないか?俺も賛成するぜ。22歳になったらシールズの試験に来たらどうだ?受かると思うぜ、アメリカ国籍を取って」


「俺に戦争は向かないですよ、牛や馬の世話の方が合ってます」


「そうか?」


「今度家に行ったら馬に乗せてよ、久しぶりに乗りたいわ」



話に割って入って来るマリア。


「それは母に言ってくれ。管理しているのは母だから」


「同郷らしいし、気が合いそうね!」




会議もそっちのけで内輪だけの話をコソコソしていた…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る