第15話 思わぬ派遣先
◆◆◆ 15話 思わぬ派遣先 ◆◆◆
その頃、軍隊の提携している国立病院には次々に進化したと言われる兵士達が運ばれていた。
その数15名にもなっていた。
屈強な兵士達が動くのがやっとな状態であり、聞き取りでは皆が変なアナウンスが聞こえたと言っていた。
精密検査が行われ、定期健診時に取られたX線画像と比べ、採血、尿検査、便検査、脳波から視力に至るまでを調べられていた。
それは変異するまで25時間と言われている間、ずっと行われ、その時間が過ぎても継続して行われている。
「先生、これを見て下さい」
検査主幹である田所は、ドクターである田中先生にデーター一覧を持って見せていた。
「色々と変な所があるなあ。骨密度は変わらないが、強度が上がっている?血中飽和酸素濃度は減っていても身体の動きに変化がない?息苦しさも?見たこともない細胞が血中に入っているし、筋力は一律して30%増加ねえ。神経伝達速度も上がっているみたいだし、DNAも調べてみようか」
「これは学会レベルですよ!いや、人体の進化だ!この原因を突き止められるのなら悪魔にだって魂を売れますよ!」
「落ちつきなさい田所君。このデーターは軍管轄だぞ。勝手に調べる事はもちろん出来ず、最終判断は国家判断だからな」
「分かってますよ!でもこれはノーベル賞以上の衝撃ですよ!」
田所は興奮しっぱなしであった。
そしてその田所のデスクには、無傷で持って来られた2cm程度の魔核と呼ばれる物が、サンプルとして10個並んでいた。
◆◆◆
昨夜は遅くに帰った為、風呂に入るのも出来なかった。
なので、仕事終わりに入るお風呂は良いよな。
俺はウキウキ気分でお風呂のブースに向かった。
「田村2等陸士であります!」
何となく言わないといけない気がして係の兵士に向かって言った。
「ああ、君ね。聞いているよ。服がビショビショじゃないか、こっちで服などは用意するから今着ている服はあのカゴに入れてね。タオルは此処から取って行って、ボディーソープとシャンプーは中にあるよ」
「ありがとうござます!」
パンツまでビショビショで気持ち悪かったんだ。春の陽気とは言え、雨が降ると少し肌寒く……そうでもないが。
ハーフとあって奇異な視線で見られる事も多いが、入っている兵士は少ないらしく脱衣所は誰も居なかった。
一気に全部脱ぎ、綺麗に畳んでいたタオルを一枚取り、肩に掛けて中へと入る。
湯気が充満している中は暖かく、一人だけしか先客はいなかった。
椅子に座りシャワーを頭から浴びる。そのままシャンプーで頭を洗い、身体なども洗っていった。
そして鉄骨とブルーシートで作ったような簡易風呂桶に浸かる。
「ふい~」
骨がズキズキするが、少しは柔らぐようだった。
固まっている腕を揉み解し、浴槽の縁に頭を当てて首まで浸かった。
「お疲れさん。今日のMVP」
先に入っていた兵士に声を掛けられる。
その男の顔を見ると、どこかで見たような顔。
どこだっけ?
「ほら!グラウンドで飯を隣で食べていた」
俺が( ゚д゚)ポカーンとした顔で見ていたからか、
自ら説明しだす。
「あっ! そう言えば!すみません。何か忘れちゃってて」
ニカッと笑うと浅黒い肌に白い歯が目立ち、太い腕にお湯が流れていく。
服で見なかった身体が見えている。如何にも鍛え上げられた軍人と言う身体付きだった。
「良いって。いつも忙しいもんな」
「制服を着ていると誰が誰だか分からなくなって」
「だよな。俺も初めは名前を覚えるのに必死だったよ。熊井3等陸曹だ、よろしく」
「お願いします」
俺は風呂の中で握手をした。
階級に関しては全く分からん!3,2,1,と上がって行く事は分かるし、2等陸士と言われた俺は最底辺で、3等陸曹が俺よりもかなり上と言う事だけしか分からなかった。
「なあ知ってるか?俺も田村君の後方支援で一緒に入ってたんだぜ」
「え?ああ、後ろは一切見る余裕が無かったんで、すみません」
「いや、そんなつもりじゃなかったんだ。アレを見せられるとね、支援も何も必要ないって言うか、別人だよな。まるで鬼神のような動きだったよ」
「そうっすかね」
「ああ、分隊長もビビってたわ。そんな田村君にボーナスをあげよう。この隣は女子風呂だ。と言う事は?」
ごきゅっ
興味が無い訳じゃない。
いや、抑圧される田舎生まれなだけに解放した時が自分でも恐ろしい。
隣に裸の女子がいると思うと、変な所に力が入りそうだが、ズキズキする骨の痛みで冷静になれる。
「ふ~」
落ち着け、落ち着け、その作戦に乗るな。
「端を捲ればチッとは見えるぞ」
「むう……」
いや、マズイって。マズイマズイ。
これは見た瞬間にバレる奴じゃん!
フラグを立てるな、変な事を言うなよ!
「お、意思が固いな。まあ冗談なんだが」
冗談なんかい!
このクソが!俺の純情を弄びやがって。
「でも、隣が女子なのは本当だぞ」
「う……」
まあそうだよな、静かだけど。
と思った時、ザッバーとお湯が流れる音がした。
やべえ、可愛い子だったらどうしよう。
どうするも何も出来ないんだけど。
「田村君、彼女は?」
「いないっす!」
「俺もだ」
「いや、熊井さんって周りに女性隊員もいるじゃないですか!俺の所なんか近所にはばあちゃんしかいないんですよ!学校でもろくでもない一反木綿や、砂掛けババアみたいなのしかいないし!それに比べれば選びたい放題じゃないっすか!贅沢です!」
「そうか?」
そう言いながらザパーっと浴槽から上がって行く。
俺も温まった所で一緒に上がった。
「そうです!」
「俺にも好みがあるんだがな~って言うか…………田村君…………デカいな。ハーフだからか?」
「知りません!キモイから見ないで下さい」
「そうか、すまんな。俺も自信があったんだがな、高卒に負けるとは。まだ修行が足らんかったな。」
何の修行だよ。
熊本に修行の場所でもあんのか?
まあいい。
俺は身体を拭き、濡れた服を入れていたカゴを見ると、その上に服が一式用意されていた。
「おっ!準備……い……い……ほんとっ準備いいな」
用意されていたのは上下迷彩服だった。
しかもパンツやTシャツもご丁寧に迷彩柄だと?
階級章は付いていないが、ネームタグがきちんと付いてあった。
「いつから用意してんだよ。嵌められたか」
仕方なく穿き慣れないトランクスを穿き、Tシャツそしてズボンに上着を着て行く。
サイズは少し緩めのピッタリサイズ。
「用意周到って言うのか…………まあ靴までは用意してないだけマシか」
いつもの靴を履き、腰にはウエストポーチ、腰には大鉈と手斧を装着しブースから出た。
「一緒に飯食いに行こうぜ」
熊井さんと揃ってご飯を食べに行く。もちろん軍の配給係りの所だった。
プレートに炒飯とチンジャオロースが乗せられ、中華スープに杏仁豆腐が添えられている。
「何か餌付けされている気が…………」
「男だろ、気にすんな。なるようにしかならねえんだわ、レーションよりも中華の方が良いだろ」
「うぬぬ……あのマズイと噂の
嫌な事を忘れ、飯をカッ食らう。
和食と洋食ばかりなので、中華は久しぶりだった。
書き込むように食べていると、目の前にデカい男女が座った。
しかも白人だ!
嫌な雰囲気がしたので、一切無視して食べていると、俺の食べ方を凝視していた。
関係無いよと、食べ終わったトレイを持って返しに行き、外へと出ようとすると、案の定声が掛かった。
「Hey! Boy!」(おい少年!)
それでも無視して出ようとすると、2mはありそうな大男が前に立ちふさがった!
まるで壁だ。
しかも半袖の迷彩服から出ている腕がゴリゴリに太く筋肉隆々だった。
これは見せかけの筋肉じゃ無く、実戦で役に立つ筋肉なんだろうなと感じていた。
「チョット待てよ」
行く道を塞がれ、どうしようかと思っていると、横からデカい女…………身長は俺と同じ位だが、あちこちの肉がとても、日本人には真似出来ない肉を迷彩服に収めた女が日本語で言ってきた。
「いやー英語って訳分からなくてね。訳ワカメなんちゃって。」
同時通訳するように派手な美人顔の女が男に伝える。
「Don't be kidding」(ふざけるな)
それだけ言った男はグローブの様なデカい手で胸倉をつかんできた!
その手首を握り俺は力を込めて潰しに掛かる!
「Hey! I'm going to break it」(おい、壊すぞ)
力はEランクだが、全力で100kg以上はあるはずだ!
筋肉の付きにくい手首を握りしめるとミシミシと奴の骨が軋みだす!
「Forgive Now」(今なら許すぞ)
更に首を締め上げ、宙に上げようとしていた為、足を払い……いや、膝横を蹴り倒す!
「OH!」
力が緩んだ隙に、上腕筋の下の筋肉が付いていな箇所を殴る!
これ位で骨など折れやしないだろう!
手が外れた隙に後ろ手に捻り上げ、関節を決めた!
しかし男は関節を決められたままの状態で、立ち上がって来る!
クソッ体重の差か!?
すかさず、俺は後ろに回っていた腕の中に自分の腕を通し、反対の腕を相手の顎に通して両手を握り腕と首をロックする!
チキンウィングフェイスロックの出来上がりだ!
「Don't move……」(動くなよ)
かなり強く力を入れているが、そのまま男は立ち上がっていく!
さて、どうしようかと思っていたら、
「OK~」
と声を上げ、自由になった腕でタップしてきた。
「Are you a monster?」(お前は化け物か?)
文句を言い捨てながら関節技を解いた。
「It a good fight」
男はニカッと笑うと勝手に俺の手を取り、握手を始めた。
「やあやあ、仲良くなってるみたいだね。安心したよ~」
間の抜けた声を出して近づいて来たのは、案の定岡田さんだった。
「どういう事っすか?これがな痒く見えますか?」
「肉体同士でぶつかり合う。いいじゃないですか~その服も似合ってますよ」
「ハメた癖に……」
ニヤニヤと笑っている岡田さんに、この外国人達二人は敬礼をしていた。
それを見て岡田さんも敬礼する。
「紹介しよう。デニス・ワトソンNavy SEALs海兵隊付上級曹長と、マリア・ミラーNavy SEALs上級曹長だ。」
ネイビーシールズって、海軍の特殊部隊じゃなかったっけ?
そんな大事に?しかもアメリカ軍だぞ!
「彼らは日米安全保障協定で日本に駐在しているんだ。田村君は在日米軍に入隊してもらう」
「ふぇ?なんそれ?」
「いやーやっぱり刃物を所持していると法律が煩いんですよ~だから在日米軍の特別隊員として派遣社員になってもらって有事の際に出てもらおうと。もちろん安全保障協定で日本軍に出向も出来るので、常に二人と一緒じゃなくてもいいんだよ!
危険手当を含めたお給料も日本が出してるし、名前だけ!名前だけ在日米軍になれば刃物も持てるから」
「むうぅぅ…………」
農家と言い張っても給料が出るのは美味しい。
こう言う仕事をしている限り、金と飯は確保されていると同じ。
しかも何かカッコイイし。迷うな…………
「仕事がある時だけの派遣だよ~楽しいよ~戦車もヘリも飛行機も乗り放題!米軍の戦艦や空母もあるよ~外食は経費で落ちるし、刀剣も米軍だから問題なし!何ならライフル所持も問題なっしんぐー!」
やけに軽い岡田のおっさんから、シールズの男を見ると、ニカッと笑ってサムズアップしてきた。そしてもう一人の女は、身体の前で腕を組んで俺を見て微笑んでいる。その腕の所にはかなり巨大な、見た事も無い双丘…………
「前向きに考えてきます。一応未成年でしゅのでッ!」
あ、噛んだ
こうして、日米安全保障協定で初めての在日米軍海兵隊所属の派遣社員が誕生する事になった。
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