第14話 彗星の余波
◆◆◆ 14話 彗星の余波 ◆◆◆
俺は遅い帰宅だったが帰宅して親父と少し話をし、爆速でベッドに転がり込んだ。
10時頃まで惰眠を貪り、キッチンへ行くと誰もいなかった。
「まあ、いる訳ないか」
冷えた味噌汁を沸かし、茶碗に入れたご飯に味噌汁をぶち込む。
必殺猫まんま朝食の出来上がりだ。
サラサラと取り敢えず栄養補給を軽く行い、春休み中の俊仁に任せ、インスタントコーヒーを入れながら居間のテレビを入れてみた。
朝のワイドショーは終わっていたが、情報番組終わりにニュースを見ていると、トンネルの話や首相の会見の様子が出ていた。
「やっぱりマジかよ。うちって余りテレビを見ないからなー」
ついでに言うとスマホは持っているが、電話とメッセージのやり取りしかしない為、持っているだけ損だと俊仁によく言われている。
少し寝不足の頭でボーっとしながらテレビを見ていた。
精神的疲れと寝不足、そして腹に暖かい物が入った事で少し眠気がきた。
頬杖を付きながらうつらうつらとしていた時、スマホが突然大きく変な音を立てだした!
「うおっ! エリアメール?!」
ほぼ同時に付けていたテレビにも緊急速報の音とテロップが出て来た!
『西日本から日本海へ向けて彗星の欠片が降り注ぐもよう。住民は丈夫な建物や地下に避難してください』
「は?!そんな物この辺にはないぞ!」
慌てて外へと出てみると、近くにいたのか俊仁が駆け寄って来た。
両親も牛小屋や馬房から外に出てきて空を見ている。
「兄貴!何これ!?」
「俺も詳しくは知らん。後10分後らしいが……」
「どこに逃げる?!」
「逃げ場なんてこの辺りにはどこにもないさ……」
「隕石の予測は出来なかったのかよ」
それから言葉も無くみんなで空を眺めていた。
ソロソロ10分が経ち、何も無いと思っていた頃、白い尾を引いた物が空にいくつも出て来た。
「来たぞ!」
それはほぼ東から西へと飛んでおり、明るい日中でもはっきりと流れ星のように見えていた。
無数に流れる彗星の欠片。
その速さは徐々に早くなっていき途中で消えていくのだが、高い高度で流れる彗星以外でその一つが明るく光りながら北西の方に消えていった。
「落ちたか?」
「マジかよ」
地響きや音も無く、本当に落下したのかも分からない感じだった。
「少し離れてたと思ったが」
「海じゃねえの?」
「まだ飛んでるな。アレは中国かな」
「トンネルと何か関係あるんかな……」
空は少しづつ雲も出ていたが、何事も無く無事で良かったと思っていた。
このままサボる訳にもいかず、服を着替えて仕事を始めた。
馬や牛の世話をしながら畑で作業を行っていく。
ところが、1時間少し経った昼前になると、サイレンを鳴らしたパトカーがやって来た。
馬や牛は神経質なんだから静かにしろよ!
怒鳴りたくなったが、案の定、俺の所にやって来る。
「圭一さん。軍隊から緊急要請です!」
「一応未成年だしね。親父に言ってよ」
牛小屋を指さすと、直ぐに警官は小走りで向かう。
あの直ぐ後なので、何か嫌な予感がしていた。
「お父さんの許可は得ました!フル装備でお願いしますだそうです!」
「昨日の今日だぞ。休ませてくれないの?」
「私達は軍からの要請でして……」
申し訳なさそうに行ってくる警官だが、裏山のトンネルが落ちついている以上、人助けは行わないといけない。
穿いていたLeeのジーンズとネルシャツのまま、脚絆に大鉈、手斧の装備を行い、ウエストポーチに財布とスマホ、タオルを入れ身に着ける。
一応念の為にヘッドライトを詰め込んだ。
水筒は……あっちで水ぐらいは出るだろう。
ついでに昼も貰えば良い。
「準備出来ましたよ」
「直ぐに乗って!」
言われるがままに小型パトカーに乗り、サイレンを鳴らしながらひた走る。
行先は学校であり、テレビでしか見た事の無いヘリと言うか、双発の飛行機のような物がグラウンドに待機していた。
「待ってたぜ。さあ乗って!」
案内してくれた男は、昨夜飯時に一緒に少し話した男だった。
後部ハッチから乗り込み、胴体の中の体面座席のシートにベルトで固定される。
「また長崎ですか?」
「いいや、山口だ。オスプレイならあっと言う間さ」
「や、山口?!」
キュ――ンとエンジンが唸る音がして窓の外の上向きになったプロペラが回りだす。
「直線で170km位だから30分弱で着くかな。」
「山口まで30分!?何キロで飛ぶんですか?!」
「多分時速400キロくらいだろ。ジェットじゃないしな」
話をしている内に轟音と共にオスプレイは垂直に飛び出していた。
そこからプロペラが徐々に傾き、水平移動を始める。
飛行機で東京に行った事はあるが、アレは旅客機。コレはプロペラ軍用機。
騒音もそうだが、ひょっとして俺だけの為にコレを動かしているのか?
晴れていた天候は徐々に悪くなり、窓には雨粒が当たるようになっていた。
だが、そこは軍用機。進路を変える事も無くそのまま突き進むのであった。
「そろそろ着陸するぞ」
中学の修学旅行で一度来たカルスト台地には着陸マークも様なモノが描かれ、誘導員と思える人が誘導していた。
爆音の中地上に降り立つと横のハッチから外へと連れて行かれる。
タタタン タタン タタタタタタン
時折り銃声が聞こえる!
一体何が起こっているのか!?
高機動車に乗せられ草原から道へと乗り込み先を進んで行くと、行って見たような場所に連れて行かれる。
秋吉台、秋芳洞だ。
車を降りるとテントブースで待っていたのは岡田さんだった。
「やあ、待ってたよ」
「待ってたじゃないですよ!これは何が起こってるんですか!」
殺気よりも近くで銃声が聞こえていた!
「いやー待ったね。少し前の彗星の欠片がこの大地に落ちてね。振動で鍾乳石が崩落したんだ。鉄板とコンクリートで固められていた岩が剥がれ落ちてね。中から大量のスライムだっけ?あの粘体が溢れてきたんだ。知ってる者に指示を扇ごうと思って圭一君を呼んだんだよ~」
「よ~じゃないでしょ!」
「圭一君、指示を出してもらえるかな?」
「素人が軍人に指示を出せる訳ないでしょうが!」
「ケチだな~じゃあ少し現場を見てもらおうか」
椅子を立って歩き出す岡田さん。その姿はさっきまでの頼りない言動じゃ無く、キリッとした背筋でスタスタと歩いていた。
秋芳洞入口には軍隊が三列にて構えていた。
一番前にいる列が鉄板が斜めになって役に立たない場所から溢れ出えて来るスライムを撃ち、弾が無くなれば後ろの列と交代している。
「岡田さん。サイレンサーはないんですか?」
後ろに居た岡田さんに聞いてみた。
「音で寄って来ると?」
「検証はしていないですが、してみた方が良いかと」
「全隊員に装着させると少し時間が掛かるが」
「それまで俺が押えます、出来れば銃剣も付いてた方が良いかもしれません」
「全員には時間が足らん。後方支援はいるか?」
「…………中の広さはどれくらいですか?」
「直径6m位か」
裏山の倍か。
「若い者中心に三人一組で幾つかグループを作って下さい。ひょっとしたら進化するかもしれないので、進化したら強い痛みで動けなくなるんです。その為に余った人が担いで帰らないといけなくなりますから」
「…………聞いてないな、圭一君」
「聞かれた事しか言ってないですから。隠してはないですよ」
「それもそうか。で?」
「俺がある程度先まで討伐しますから、その内に静かに鉄板を直す準備をしてください。ところで、スライムモドキ以外には何か出てきますか?」
「いや、報告にはスライムだけだ」
「ならば、入り口付近のスライムをある程度払ってもらえれば、後はやりますから」
「よし、それで行こうか。少し待ってくれ、人選する」
岡田さんは後ろで待っていた兵士に何か言いだした。
俺も、一応刃物を抜いて刃こぼれなどを確かめるが、殆ど柔らかいスライムばかりを斬った刃物は綺麗なままだった。
誰も周りからいなくなったので財布から出したお金で水のペットボトルを出して一口飲んでウエストポーチに押し込んだ。
「人選出来ました!」
「圭一君、準備は?」
「いつでも行けます!」
「一斉射撃する。終わったら突入してくれ!」
現場責任者か?
肩にライフルを掛けていた。
三人程がライフルで撃っていた。
そしてその責任者らしき者が腕を伸ばすと、8人位が一斉に打ち出す!
少し軽めの音と共に、20式小銃から5.56mmNATO弾が一斉射される!
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
はじけ飛ぶスライム!
何なのか分からない水分が派手に飛び散っていた。
その射撃は、角度を変えてトンネル内部まで狙っていく。
打ち合わせでもしていたのか、横一列で角度を変え、内部に届くように狙い撃ちしていた。
「撃ち方止め!」
腕を横に広げた責任者が合図を出すと俺に視線を向けて来た!
「行きます!」
鍾乳石などの瓦礫を飛び越え、一気にトンネル内に入る!
後ろから追って来る音が聞こえるが、一々気にしてはいられない!
調子は今までで最高だったが、中に入った瞬間に転がっていた魔石を一気に十数個踏みつぶしながら大鉈を振る!
シュバッバッ! バシュッ ビシャッ!
湖のように下に溜まっているスライムモドキを一振り毎に一掃していく!
相手の動きを待っている暇などない!
先手必勝!地面から救い上げるようにバッサバッサと切り上げ、ジャンプして来た奴を上から切り捨てていく!
『討伐累積値が一定数に達しました。データリンクに登録……EランクよりDランクへ移行。全世界へ発信・共有し、これより
「うッ!」
『討伐隊一人の討伐累積値が一定数に達した為、EランクよりDランクへ移行しました。
亜空間トンネルより湧き出る
謎のアナウンスと共に聞こえる身体の痛み!
Eランクと同じように我慢できる痛みにホッとすると共に、その痛みに負けないように活路を開く!
「赤い玉は各自踏みつけて壊して下さい!誰か身体が痛くなったら速効で避難です!」
後ろも見ずに指示を出して行く!
押し寄せる波のように来るスライムモドキを確実に、そして鋭く斬り倒す!
身体の痛みはあるが、今の俺は絶好調だった。
大鉈の重さも殆ど感じず、蠢くスライムの動きが明確に分かり、一瞬でどういう動きをすればいいか判断に困らない。
自分だけ倍のスピードで動いている気がする!
「ううう……」
後ろで呻く声が聞こえた。
「直ぐに後退!進化した奴を抱えて戻れ!」
ジリジリと前進しながら援護している班を交代させていく。
「オラオラオラオラア!」
掠ったスライムからこぼれ出る魔核を踏みつぶし、スライムの集団を一匹残さず倒していく。
数十分も斬りながら進んだだろうか。
少しスライムの群れが少なくなってきた気がした。
「もう少しだ!次々に交代しながらグループを変えていけ!」
援護班とは名前だけだった。
零れ落ちる魔核を踏むだけの仕事。
遂に時間も13時を超えた。
スライムの集団も少なくなり、代わりにサソリモドキが現れるようになっていた。
スライムを避けるように壁などに張り付き、先に先にと進んでいる!
「逃すか!」
進化した動体視力で毒針の尾を曲がる箇所で斬り、腰にぶら下げていた手斧で胴体を真っ二つに切り裂く!
下と横からの攻撃範囲が厳しい。
だが、後ろに逃すと俺目掛て銃弾が飛んで来る。
それだけは防がないといけない。
必死でスライムとサソリの混合敵を倒して行った。
「待ってください。息が、息が苦しいです」
トンネルに入って1時間以上が経過していた。
俺も初めは行きが苦しい思いをしていたが、鍛えている軍人が苦しむとは。
頃合いか?
「暫くここで防いでおく!全員撤退しろ!塞ぐ準備ができたら誰か一人寄こせ!」
急いで戻って行く隊員達を守る為に必死で頑張った。
20分……いや、30分も立ち止まって頑張っただろうか。
腕も疲れて棒のようになっていた。
だが、諦める訳にはいかない。
心の中では市民を守るヒーローだった。
だが、それも限界が近い。
腕が痺れてサソリの尾の隙間を狙っていたはずが、外れた!
ガインッ!
少し硬い外骨格に弾かれ刃こぼれしたのが見えた!
「くそッ!」
左手の手斧の重量で一気に胴体を半分に切り割き、少しづつ後退していく。
既に大群では無く、断続的な集団になっていた。
これなら先に進まなくても……
丁度その時、
「鉄板の準備完了です!下がって下さい!!」
女の叫ぶ声が聞こえた!
「やっとか!」
大鉈を戻し、手斧にカバーをして後ろへ走る!
腕は付かれているが、足は問題ない!
前を走る小柄な隊員へは直ぐに追いつき、後ろ襟を掴んで強引に両手で抱きかかえる!
「首に掴まって!」
今の身体能力は普段の倍はある!
このくらいの緩い坂なら女一人など問題ない!
一気に加速しながら俺らは出口を目指した!
ものの20分余りで出口にたどり着き、無くなっていた鉄板を見る間も無くジャンプして出て来た!
「閉じろおおおおお!」
待機していた兵士が合図を送る!
小型クレーンが一気に鉄板を運び、すかさずコンクリートで埋めだす!
そう言う係なのか、その作業は無駄が無く、とても速かった。
それを後方で見ていると、声が掛かった。
「あの……そろそろ下ろして頂けると…………」
「あ……すみません」
「いや、運んで頂いて……」
トンネルの興奮が冷めず、兵士を抱きかかえたままだった。
静かに地面に降ろすと、入る時よりも大雨になっていて、身体に迷彩服が張り付き見事なラインが浮き出ていた。
やべ、見ちゃダメな奴だ……
「いやー見事な作戦。救出劇でしたね~」
「おかげでヘトヘトですよ」
俺の側に岡田さんが来て残りの作業を見ながら声を掛けて来た。
その様子を見て女性隊員は一礼してどこかへ行ってしまう。
「中はどうでしたか?」
「スライムモドキの湖でしたよ。奥にはサソリモドキが沢山出てきて、斬り損ねて鉈も刃こぼれしましたからね。代用品位は貰えるんでしょうね。協力とは言ってもこっちも生活が掛かってますからね」
「陸軍に入れば先端技術の入った刀剣も手に入りますよ~どうですか?」
「岡田さんもしつこいですね。俺は農家なんですから」
「私はしつこいのが取り柄でして。まあ今回は一旦諦めます。刃物については後で係を向かわせますので、どういう物が良いか教えてあげてください。日本刀はマズイとしても……いや、イケるか?」
「長物はトンネルでは邪魔ですから。そんな物は要らないですよ」
このおっさんは、俺に日本刀を寄こす気か?!
手入れもしないといけないし、第一危ない。見た目も悪いし、そんな物は要らない。
「まああっちでお風呂もありますから、ゆっくりと浸かって考えて下さい。食事もどうぞ」
後方を指さす岡田さん。
そこには被災地などで活躍するお風呂の車があり、大きなテントブースでは温泉マークが張られていた。
「じゃあ取り敢えず風呂入ってきます」
「お金は取りませんので、色々と見て回って下さいね」
俺はウキウキ気分でお風呂へと向かった。
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