第11話 長い夜②

◆◆◆ 11話 長い夜② ◆◆◆



タタタン!タタタタタタ!


闇夜に響く銃声が山に木霊する!



「あのバカ!撃ちやがった!」


一気に斜面を駆け上がり、近くに走る!



「やめろ!撃ち方止め!」


隊長の西田さんが後ろから大声を掛けていた。



「ひぃ! ひぃぃ!」


情けない声を上げて何も無くなったトンネルへ向けてトリガーを引いていたが、西田さんがトリガーの隙間に指を入れて、トリガーを引くのを阻止していた。


そして西田さんは安全レバーらしき物を切り替え、男に言った。



「もう何もいない。大丈夫だ。後ろに下がってろ」



男の背中を擦り、暫くすると男はため息を付きながら下がって行った。



「何かいたんですか?」


「いや、分からん。私が来た時には何も……部下が射撃を始めてすまなかった」


素直に西田さんは俺に謝って来た。

俺もソレを咎める事も無いと思い、受け入れる事にした。


「スライムモドキか何かが出たんだろ」


トンネルの縁に転がっていた小さい魔核を拾いあげた。



「これが俺達が魔核って言っている物だ。衝撃で割と簡単に壊れるから。それにこれを割ると煙の様なモノが出て来るから。取り扱いは少し丁寧に」


俺は手に取った魔核を西田さんへ渡す。


「これを頂いても?」


両手で渡した物を受け取る西田さん。


「部下の倒した戦利品だろ。持って帰って調べたら?」


両手の中に置かれてある3cm程度の魔核を慎重にテントへと運ぶ西田さん。


「そこまで丁寧じゃなくても大丈夫だから。ポケットに入れて下山しても壊れなかったから大丈夫だよ」


「あ、ああ……」


それでも西田さんは丁寧に運んでいた。





しかし、その銃声がいけなかったのか、5分もしない内にスライムモドキが出始めていた。


「28、29,30……31、32、33……34……35、36、37,38…………」



ピョンと飛んで出て来た瞬間に真横に斬る。

簡単なお仕事だ。


まるで飛び出るモグラ叩きのように次々に出て来るスライムモドキを斬り、魔核を転がして行く。

ええい、面倒だ。全部斬ってしまえ。


「51,52……53、54,55,56……57……58.59,60…………………………256,257……258,259,260…………」


中々途切れないな。

既に立ってもおらず、トンネル前にうんご座りの状態で鉈を左右に振っているだけだった。



そしてその状態が400匹を超えた。そろそろエボリューションが終わらないのに新たにエボリューションするかもと思い出していた。



バラバラバラバラ



空に一度聞いていた派手な音を撒き散らしながら何かが近づいてくる音がしだした。



「来たか」


「え?」


後ろで俺の様子を見ていた西田さんがぽつりと言った。



「準備開始!落下に気を付けて作業しろ!」


兵士の一人がライトを持って円を描いていた。

それが合図だったのか、激しい音を響かせ、下にサーチライトを向けた大型ヘリが近づいてくる!


双発だ、プロペラが二基ある大型のヘリコプターが凄まじい風と騒音を出しながら真上にホバリングしてきた。


「チヌークって言うんだっけ」


ボケっとして適当にスライムモドキを斬りながら上を眺めていた。



「降下よーし!」


「君!そこは危ないぞ!」


「いや!まだ出て来るし!」


「発砲する!いいか?!」


よく見ればヘリの真下には鉄板の様なモノがつりさげてある!

アレで蓋をするのか!


「OK!」


西田さんに許可を出し、後ろへと下がる!


タタタタン タタン タタタタタタン


銃からマズルフラッシュが光り、出て来たスライムがはじけ飛ぶ!


その間にも降下してきたヘリがぶら下げている鉄板がゆっくりと近づいていた。

光る棒を持った兵士が棒を振って誘導している!


静かに着地した鉄板が完全にトンネルに蓋をした!



「固定作業開始!」


繋いでいたワイヤーを取り外しいつの間にか作っていたコンクリートを持った兵士達がバケツを持って鉄板と地面の隙間を埋めるようにコンクリで埋めていった。



「作業はえー」


俺は現場の端で一人呟きながらサクサクと進む作業をただ見ているだけだった。


西田さんがぶっ放した銃でスライムモドキは一匹たりとも逃げ出していないのは確認していた。


後は帰って、風呂入って、追加の飯……カップラーメンでも良いか、取り敢えず食ってから寝るか!



「我々はこの現場に残り、観察を継続しながら保護しますので」


トンネルのあった場所には鉄板が敷かれ、隙間をコンクリで埋められ、四方にカメラが仕掛けられ、少し距離を置いた場所のテント内にはテーブルにセットしていたテレビが、その様子を映し出していた。



「じゃっ 後は任せます。俺はこの辺で!」



ウキウキ気分で現場を後にする。


登って来た所には、蛍光テープが張られてあり、どこを通って来たか一目瞭然だった。

当然交代要員も来るんだろうから、道しるべは初めからあった方が良いよな。

あったま良いな~



サクサクと山を下り家の前まで来ると、見慣れないジープが止まっていた。


高機動車って言うんだっけ。

昔民間に販売していたメガクルーザーの軍使用だ。


「ただいま」


「お帰り。お客さんが待ってるぜ」


珍しく俊仁が出迎えてくれた。

そして玄関には見慣れない軍靴が……



居間に入ると二人の兵隊が待っていた。

40代後半と30代前半と思われる厳つい軍人だ。



「圭一さんですね。お待ちしておりました」


「俺は呼んだつもりは無いけどな」


「上手い事言いますね。少しお話をしたいんですが、ここじゃあれなんで付いて来て頂いても?ああ、御両親には了解を貰ってますから」



「逃げれねえじゃん」


「そう言う事ですね、外の車で行きましょうか」



俺は1分の滞在時間でまた家を出る事になった。



「で、武器は?」


「取り敢えずフル装備で行きましょう」


嫌な予感がして財布も持って行く。



デカい高機動車の後部に乗り込み聞いた。


「で、何処へ連れて行くんだ?」


「学校へ行きましょうか」


「学校?」


「ええ、高千穂高校。卒業生でしょ」


「どうせある程度調べてんでしょ」


「もちろん。弟さんの母校でもあり、この春圭一さんも卒業したて。学科は平均だが身体能力は学校一。まあ生徒数は少ないでしょうけど……弟さん思いで虐めて来た男子を力でもって解決して来た九州男児。ああ、お母さんは元アメリカ人でしたね。美人なお母さんで羨ましいですね」


「あんまり言うと親父にブッ飛ばされますよ」


「はははは、そうですね。今後は気を付けます。弟さんが褒めてましたよ。力では負けないけど、実践ではお兄さんが上だと。棒術を一緒に習ってましたよね。弟さんと一緒に」


「この地域の習い事みたいなもんだって。イノシシやサルも出るし、マムシも出るからね。自衛はしないと生きていけない場所だから」


「なるほど。昔の日本は自衛隊と言う呼称でしたが、アレと同じですね。自分を守る為と。弟さんはお兄さんの事を鉄砲玉と言ってましたが、怖いんですか?」


「あいつブッ飛ばす」


「上でも隊員を平気な顔で抑え込んだとか。一騎当千じゃないですが、お金を掛けて育て上げた軍人なんですがね。こりゃ参ったな。どうです?今から陸軍に入隊するとか?」



こいつどこまで知ってんだ?

ニコニコしているけど。


「俺は鍬や鉈を振っている方が似合ってるから」



「その鉈であの粘体生物をバッサバッサと斬ってたと報告が上がってますが。どうです?今入隊すれば銃も撃てれますよ?」


「一人勝手に撃ち出した奴がいたぞ。ありゃモノになるのか?」


「それはダメですねー後で西田君を叱っておきますね。車の免許も取りたてだとか。陸軍だったら牽引から特殊クレーン、戦車の免許も取り放題なんですよーいいでしょ。どうです?」


「スカウトに来たんですか?一応農家の跡取りなんですけどね」


「いや、君なら軍人の方が合ってますよ。初めは2等陸士ですが、直ぐに1等陸曹に上がれますよ」


「なんだそれ、シャア少佐みたいなもんっすか?」


「懐かしいですね。この前プライムの懐かしいアニメで放送してましたよ。私は地球連邦軍の方が好きですが」



「って言うかあんた誰っすか?」



「ああ失礼。私は岡田1等陸佐、この現場の責任者です。連邦軍で言えばブレックス准将程度、シャア大佐・・の上ですね。今度ともよろしく」


助手席から握手を求めて手が伸びて来た。


「……こちらこそ」


何か丸め込まれている気がするが、一応握手をした。



「にひひ、可愛いですね。その不貞腐れた所なんか」


「ほっとけ!」



車は勝手知ったる道を進んでいた。

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