第12話 長い夜③
◆◆◆ 12話 長い夜③ ◆◆◆
「なっ!何だこれ!」
「一応非常事態中なので、軽く接収しました。グラウンドだけですがね」
久しぶりに来た高校のグラウンドには、煌々と明りが灯り、双発ヘリのチヌークともう一機の大型ヘリが停まっていた。
そして各種テントが張り巡らされ、20人程度の軍人が動いている。
「ああ、体育館も作戦会議用に摂取しました。やろうと思えばご自宅も接収出来るんですがね。御迷惑かなと思って行ってないんですよ」
「それは脅しですか?」
明らかに脅しじゃねえか!
「いいえーこれ位の事は出来ますよと言う能力の開示です。あ、戦時中じゃなくても問題ないですから。現在は特別作戦実行中ですので、やろうと思えば陸海空同時作戦で早期警戒機を飛ばし、地上には戦車と高機動車を展開、新田原からF35B、通称ライトニングⅡを支援機にして地上軍支援にコブラを配置、日向灘に展開させた打撃艦隊からのミサイルで一掃し、パラシュート部隊で制圧って感じも出来ますが。どうしましょうか?」
「分かったよ!何を手伝えばいいんだよ!」
取り敢えず体育館にでもと言われ、大人しく体育館へと入って行く。
中は幾つかのブースが出来ており、その一角に入れられた。
「まずは、敵性生物の事を。知っている事を全て話してもらいましょうか」
正面には岡田。左右には知らないおっさん。そして橋には秘書なのか、パソコンを広げてこちらを見ていた。
「じゃあ、まずはスライムモドキについて……」
こう言うのを用意周到、大人げない、無言の圧力とでも言うんだろうな。
この政府の犬め。
俺は大人しくスライムモドキ、サソリモドキの事を話した。
その姿形から行動、心臓みたいな魔核がある事を。
スライムモドキには打撃耐性があり、刃物では斬る事が出来ると、それはサソリモドキも同じであったと。
この岡田は大人しく聞いていると思えば、刃物で切った感覚はどうだったとか、硬いかどうかなど俺の感覚も聞いて来た。
悔しいんで、魔核でエボリューションしたとは教えなかったが。
非化学的な事なので大丈夫だろうと思っていた。
持って来た大鉈や手斧を見せると、どこかへと持って行かれてしまった。
そこで一旦休憩にしようと言われ放置プレー。
監視も付いていない様子だったので、しれーっと帰ろうかと思ったが、帰る家なんて初めからバレてる事を思いだし止めた。
グラウンドに出ると夜10時になろうとしている中で何処からともなく良い匂いがしているのに気が付いた!
これだ!
俺は鼻を頼りに美味しそうな香がしているブースを発見!
兵隊が並んでいる中、最後に並んだ。
皆トレイを持ちご飯や汁、オカズを乗せてもらっていた。
「え?あんた誰?」
配給係の人に怪しまれる。
「はい!田村2等陸士であります!大盛りでお願いします!」
思わずさっき言われた階級を思い出し咄嗟に言った。
「ああ、お客さんね。大変だろうけど頑張ってな!」
オカズの肉は大盛りにならなかったが、ご飯は大盛りにしてくれた。
そして隣のブースで迷彩服が食べる中、一人黙々と遅い晩飯を食べた。
「よお、君が噂の討伐者だろ?」
もう少しで食べ終わる時、一個離れた席で食べていたゴツイ20代後半らしい男が声を掛けて来た。
「噂かどうかは知らないけど。討伐者なんですかね?」
「俺も非番で実家に帰ってたんだよ、この高千穂に。すると聞こえるじゃん初討伐とか、選ばれし者とか。初めは頭が狂ったかと思ったぞ」
「ああ、アレが聞こえたんですね。分かりますよ、俺も何が何だか分からなくて誰にも言えなかったですから」
こいつもあのアナウンスが聞こえた者の一人だった。
「で、エボリューションって奴を体験したの?」
「まあ一応ですけど」
「体のレベルが上がったとか、力が大きくなったとかか?」
「そんな感じっすね」
「じゃあ…………」
それだけ言うと、食べ終わった所を見ていた男は俺の隣に座り手を差し出した。
「ギュッと握ってみてくれ」
「握力っすか?」
ニイっと笑みを浮かべるデカくゴツイ手を握った。
徐々に握る力を強くしていく。
「お~お~まだ上がるのか」
「多分100kgは超えてますよ、まだ大丈夫ですか?」
「おっおっおお、無理、限界。割と細いけどやっぱりスゲーなF?E?」
「一応Eランクの途中ですよ。エボリューションって終わるまで時間が掛かるんですよ」
「マジか。やっぱゲームと違うな」
「それは俺も思いました」
男は握っていた手が痛かったのか何度か手を擦っていた。
「まあ、色々聞かれると思うが、情報不足なんだ。分かってくれると助かる」
「分かりました」
この男みたいに協力的だとこっちも腹を立てずに済むんだけどな。いきなり高圧的な態度を取られると、こっちも身構えるよね。
「じゃあ俺は備品の確認に行くから、また後でな」
「はい、分かりました」
ん?また後で?
まだ何かあるのか?
そう思って食器などを下げると、一人の兵士が呼びに来ていた。
「田村さん。岡田1等陸佐がお呼びです。来ていただけますか」
先を歩く兵士について行くと、そこはさっきの体育館だった。
「やあ、田村君、ここのご飯は割と行けるだろ。金曜日はカレーなんだが、これまた絶品なんだ。是非カレーも食べていきなよ」
「…………金曜まで居ろと?」
「ふふふふ、どうかな~」
やなこったい!大体今日は日曜日、後5日も此処にいろと言うのか?
「あ、これ返すね。刃に着いた成分を分析させただけだから。よくこんな市販品でやれるね~うちの軍ならカーボンスティールの銃剣もあるよ。小銃から高射砲、戦車の榴弾も撃てるし、楽しいぞ~」
「俺は農家ですから」
まだスカウトを諦めてないんかい!
「そうだった、少し君の意見も聞きたいんで、場所を移動しようか。ちょっと先だから付いて来て」
そう言う岡田さんの後に付いていくとそこはグラウンドのヘリの前だった。
「ちょっと中に入って見て」
言われるようにゴチャゴチャしているヘリの中へと入ってみた。
「はい、此処に座って、コレは前で止める。じゃあお願い」
言われるがままにシートに座り腰にベルトを止めると、
ウィイイイイイイイイイン
といきなりエンジンが掛かった!
「ちょっと!どこに行くんですか!」
「いや、ちょっと先だから、直ぐ着くから問題ないよ」
「ちょっと!スゲー回転してるって!ああ!飛ぶ!飛ぶ!飛んでるって!」
こうして俺は騙されるように初めてのヘリに乗せられ、高千穂の地から離れていく事になった……
「ちょっとどこに行くんですか!ちょっと先じゃないでしょ!」
「そんなに掛からないって。折角だから遊覧飛行を楽しもうよ」
「むぅ……って言うか真っ暗だし。見える訳ないじゃん」
「そんなに腹を立てると長生き出来ないよ、リラックス、リラックス」
「ッ!」
ああもう!
飛んでしまったら勝手に降りられないじゃん!
こいつ、口が上手いと言うか、騙すのが上手いと言うか……
ちょっとって一体どこだよ。
真っ暗な空を俺は真っすぐ何処かへ飛んで行く。
お国の為と言うのが嫌と言う事ではない。
他の人を助けると言う事が嫌な訳ではない。
言い包められて何となく動かされているのが気に入らないだけなんだ。
うるさい機内でヘッドフォンを付けられ、眼下は何処まで行っても漆黒の闇。
俺は何もする事なく次第に眠たくなり、そのまま眠ってしまった。
「さーて、付きましたよ。起きて下さい」
軽く仮眠をしたのかバチッと目が覚めた!
気分も爽快で体調もバッチリだった。
「ここは?」
ゆくりと降下していくヘリの中、外を見ると誘導灯の明りなのか、ヘリの離発着らしき所が見えていた。
「長崎県ですよ。大村駐屯地。長崎はいつも雨だったと言いますが、晴れていて良かったですね~」
なんじゃそりゃ。そんな事があるかい!
だが、着地すると掛かりの人がドアを開けてくれ、外へと誘導された。
「さあ、一応規則なのでね。これを被ってもらえるかな?」
手渡された物は迷彩柄のヘルメット。
「もう、此処まで来たら何でもしますよ。付ければ良いんでしょ」
ヘルメットを被り、顎にベルトを締めていると、そのまま背中を押されて待機していた高機動車に乗せられる。
別の同じ車と一緒に着いたばかりの駐屯地を出ると、車は走り出す。
長崎か~チャンポン食べたいなー本場のチャンポンってどんな味がするんだろう。
後は何があったかな?チャンポンしか思い浮かばないや。
「用事が終わったらチャンポン食べたいんだけど」
「ああ、チャンポンは良いですよね~ボクも好きですよ。うーん、終わった後……後ねえ…………前向きに考えましょう」
嘘だ。
前向きにって言ったって『無理でした』で終わるに違いない。
下手するとヘリで直行ってパターンの可能性もあるな。
この国家の犬め。
車は止まる事無く走っていた。
どんどん田舎の様な景色に変わり、人口が少ない田舎に来た頃には0時を回り、田畑や集落を抜けると仮説プレハブやテントの広がる軍隊の野営地だった。
「早速ですが、見てもらいたい場所があります。付いて来て下さいね」
柔らかい言葉とは違い、少し緊張感を持った岡田さんは、車を降りて歩き出す。
仕事をしていた兵隊はその岡田さんを見るとビシッと敬礼していく。
「ご苦労」
モーゼのように兵隊が道を開けて割れていく。
何だかんだ言っても偉い人なんだ。
岡田さんの歩いて行った先には、俺の裏山のような風景が広がっていた。
ライトで照らされた山の斜面にある鉄板。
勾配は急なので急斜面に立てかけられ、その隙間を同じようにコンクリートで埋めている。
カメラが数台監視しているのだろう、テントブースにはモニターにその鉄板が映し出されていた。
「ここが長崎のトンネル出現現場だよ」
モニターでは無く、ライトで照らされた30m程離れた場所を見た。
離れた所で発電機の回る音しかしない中、煌々と照らされる鉄板。大きさも家のトンネルよりも大きいのか、倍の6mはありそうな穴を塞ぐ大きさの鉄板が広がっていた。
何か胸がザワザワする気がする。
「ここはトンネルが出来て直ぐに入った民間人が行方不明になったんだ。それを助けようと入った消防レンジャーも出てこなかった。どう思う?」
「中に出てくる生物が家と同じならばスライムの液体でやられたか。それともサソリのようなモノにやられたとしか……」
岡田さんは腕組みをして俺を見ていた。
「見捨てようとした訳では無かった。追加の救助隊も入ったんだが、息苦しいと言う事で酸素ボンベを持って入った。すると、30分も行かない内に同じスライムが出てきて液体を掛けられ防護服とボンベが解けた。
そこから我々自衛隊に要請が来て国からの指示にて現場を網で壁を作った。念の為にドアを付けて。
すると出て来る出て来る。スライムの大群だ。国に情報を送ると、今度は鉄板で塞げと。
我らは国の指示でしか動けない。行方不明者は絶望的だと思う。だが、このまま監視を続けるには危険だと思わないか?」
岡田さんは俺に説明をしてくれた。
殆どテレビを見なかったんで、こんな事が起こっていたなんて知らなかった。
でも……
「鉄板の設置の際にスライムは出てこなかったんですか?」
「出て来たさ。君の所と同じで銃で撃ちながら設置したよ。でも報告であったように君の所のように溢れる程は出てこなかった。昼間だったからか、それとも音の静かな重機を使ったからか。判断は付かないが」
「何故、俺の山ではライトの電源にバッテリーを?」
「民家が近い場合に騒音になるからな。此処は近くに民家が無い事は分かっていた。発電機が煩いか?」
「分かりませんが、うるさい音は少しは中にも響いているかと。警官の靴音は中に響いていましたから。cちょっとアソコに近寄って見ても?」
「いいだろう。存分に見てくれ」
俺はテントを離れ、ゆっくりと鉄板の所へと歩いて行く。
何も変化は無い。手で触っても冷たい鉄の感触があるだけだった。
念の為にその鉄板に耳を付けてみた。
ブーン と微かな振動音が聞こえる。これは発電機の振動が伝わってるのか?
それに…………何か…………ザワザワしてる?
何か動いているような音がしているのか?
俺は鉄板から耳を離し、元居たテントまで戻っていった。
「発電機の動くような振動が鉄板に伝わってますね。バッテリーに変えた方が良いかもしれないです。根拠はありませんけど」
「ありがとう、早急に対応しよう」
「中には何かいますね。ザワザワした音が聞こえてます」
「液体で溶かして出て来る事はあると?」
「分かりません。可能性はあると思います」
「分かった。他の所にも指示を出しておこう」
岡田さんは、他の隊員に指示を出していた。
そしてそのまま今来た道を引き返す。
深夜1時位で、店なんか開いている所などない。
精々コンビニ程度だ。
そのまま大村駐屯地に帰還すると、またヘリに乗って高千穂へ向けて帰って行く。
チャンポンはお預けだった。やっぱりか、ちくしょう。
その日の朝方、内閣総理大臣である朝田成文は、地震の後に出来たトンネルが日本全国に7ヶ所ある事。そして長崎では中に入った民間人、及びレスキューが行方不明になっている事を発表。
この場所を立ち入り禁止区域にすると共に、陸軍が管理すると宣言した。
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