第9話 異常
◆◆◆ 9話 異常 ◆◆◆
「それじゃあ初めから教えてくれるかな」
居間に場所を変更nた俺らは、警官二人と親父の三人から尋問を受けるように並んで座らされていた。
俺は地震のあった日の朝から今までの事を話した。
全部丸々と。
自分らの山だし、犯罪行為をしていた訳でもない。
山を管理するのは持ち主に取って当然だし、そこに野生動物が襲ってきたら、自衛の為に殺す事だって黙認されているはずだ。
大鉈は山での草木を切り払う道具であり、刀などの登録が必要な刃物ではない。
出て来たスライムモドキからは何かしらの解かす液体を吐く事から家を、家族を守る為に今日も狩り……いや、排除して来たと伝えた。
俊仁を巻き込んだのは俺が居ない時に家を守るのは俊二だと思ったからだと。
「このバカ息子が!」
ガツン!
久しぶりに頭にゲンコツが降って来た。
「何か変な事が起こったら俺に言うべきだろうが!」
「遅くなったのは悪いと思ってる。でも俺だけで対尾プ出来ると思った」
「俊仁を巻き込んでんだろうが!」
「うっ」
まじい、何も言えねえ。
「でも!俺は――」
「でもじゃねえだろが!反省しろ!」
「……はい」
大人しくなった俺から目を逸らした親父は、次に俊仁に視線を合わせる。
「俊仁!」
「はい!」
「お前もお前だ!何故直ぐに俺に言わん!」
「だって兄貴が――」
「だってじゃねえ!」
ガツン!
「いってええ!」
弟も同じくゲンコツを食らった。
「まあまあお父さん落ち着いて。じゃあこの書き込みをしたのは弟さんで、二人ともトンネルの中に入ったって事で間違いないね」
「「はい」」
「今から案内出来る?」
「はい、でもすぐ暗くなりますよ。電灯も無いし、道の無い山道ですよ」
「懐中電灯なら持ってる。今すぐ出ようか」
するともう一人の警官は無線機で玄関まで行って何かを報告していた。
「俺も行くからな、圭一が案内しろ」
折角帰って来たと言うのに、また出る事になった。
今度は夜を想定して頭にヘッドライトを付け、手にも懐中電灯を持ち、大鉈に手斧を持ったフル装備だった。
「俊仁。お前はあの棒を持って行けよ」
親父は俺に早くから鉈や鋸を持たせるが、俊仁に対しては少し甘く、刃物を持たせると怒る時があった。
なので2m程度の棒を持たせた。
元々、この地域では古武術として棒術などを習う習慣があった。
江戸時代の農民が広めたとされる古武術は、色んな流派に分かれているが、長い棒、太刀、槍など多岐にわたり、冨田流とか、冨田家で伝承された中条流剣術とか言われているが、教えているのはそこら辺にいるおっちゃんかおばちゃんである。
型の稽古から打ち合いなどもするが、子供の時はそれが楽しくて弟と一緒に習った記憶があった。
お前の型はおかしいと、いつもダメ出しを食らっていたが、楽しければ良かったのだ。その時は。
なので俊仁もそれなりに棒術は覚えているはずだ。
俺が先頭を歩き、弟を殿に歩かせれば、何も問題はあるまい。
「革靴で大丈夫っすか?」
大き目の懐中電灯を持った警官に聞いてみた。
「少しゆっくり行ってもらうと助かる」
「この時期マムシも出るから前の人の後を追って来てくださいよ」
薄暗くなる中、俺が先頭に立ち歩き出す。
次に親父、警官一人に最後は俊仁だ。
母も急いで牛馬の世話を終わらせ家に戻ってきていた。
「気を付けて」
「イェァー」
軽く手をあげて出発した。
出来るだけ蛇のいない様な所で、歩きやすい道なき道を歩いて行く。
まだ太陽は沈んでいないはずだが、直ぐにライトを照らさないといけなくなる程に山が暮れるのは早かった。
通常30分もゆっくり上がれば辿り着ける所を50分近くかけてトンネルの場所までたどり着いた。
小さいLEDライトでトンネルを照らす。
「ここがトンネルです」
警官もライトを当てて肩からぶら下げていた無線機で連絡をしだしていた。
「トンネル発見しました。直径3m程度、山の中で周りには民家らしき物は見当たりません。」
『了解、応援を向かわせている。状況写真を撮り、周囲の安全を確認し、対象を写真に収めるんだ』
「分かりました」
無線を切った警官はトンネル周りの写真を撮りだす。
そしてその内部も上から撮り、
「中を案内してくれないかな」
「いいですけど、結構狭いっすよ。滑らないように」
俺が先にトンネルに入り、次に親父、警官、最後に俊仁が入って来た。
「スライムモドキも撮るんでしょ。出来るだけ音を立てないようにしてください」
「分かった」
トンネルの中は昼間と変わらなかった。
日が暮れようが、日中だろうが、それ自体が発酵しているので昼夜は問わない。
後は出て来るモノが同じだと良いなと言う楽観的希望だけだ。
しかし、付いて来ていた警官は違った。
一目見ただけで異形な物を見るような顔で固まっており、まだ親父の方が緊張はしながらも、俊仁と同じような長棒を握りしめているだめマシだった。
時計を見ると既に午後6時前になっており、早く帰りたい気持ちで一杯だった。
カツッ カツッ カツッ カツッ
ゆっくりと歩く中、革靴の硬質な音だけが微妙に響いていた。
俺は山登り用のゴム底のゴツイスニーカーであり、親父も長年使っていたであろう山林用の安全靴、俊介はハイカットのスニーカーで、一人だけ違うのは仕方が無かった。
しかし、その靴音がいけなかったのか、10分も歩かない内にスライムモドキが二匹一緒に現れた!
「これです!早く写真を撮って!」
「ひぃッ!」
父の前に声を上げながら出て来た警官は、俺の隣で必死になって小型のデジカメを連射していた。
ピョンピョンピョンピョン
今までに見た事も無い速さで向かってきたスライムモドキに、俺は声を上げて警官を後ろに引っ張る!
「下がって!」
2mにまで迫っていたスライムを鞘から抜いた大鉈で、下から切り上げ、反転させた鉈を同じように上から斜めに切り裂く!
ビシャッ!シャッ!
後ろを振り向くと、地面に倒れそうになっていた警官を親父が受け止めていた。
「様子がおかしい。早く帰った方が良い。いつもと違うんだ、音を立てずに帰るぞ」
警官は目を見開きながら固まっていた。
やはり音か振動なのだろうか、急いで戻る後ろ三人組を背に、後ろ向きで緩やかな坂を上って行く俺は、襲って来るスライムモドキをトンネルから出るまで25匹も倒した。
僅か10分も経たない内にだ。
暗闇の中で光る星が見える位置で更に待つこと5分。
追加で辿り着いたスライムモドキ5匹を倒し、もう来ないだろうと思い、トンネルを後にした。
指を口に当てて静かに城と言う事を見せつけ、静かに言った。
「いつもはこんなに早く出てこないんだ。それに数が多すぎる。早く帰るべきだ。溶かされたくないだろ」
帰りは俊仁が先頭になり、転ばないように配慮しながら歩いたが、静かな山林の中でバリバリバリバリと派手な音が夜の山の中で聞こえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます