第8話 意外な訪問者
◆◆◆ 8話 意外な訪問者 ◆◆◆
早田防衛大臣はこの騒ぎが起こってからというもの、自宅へ帰られなかった。
防衛庁舎の仮眠室で寝泊まりを繰り返す毎日。
情報も目だった物が無く、動きようが無いと言うのが現実だった。
「大臣、ネットでトンネルの内部を知る書き込みをする者が現れ、騒ぎになっているそうです」
朝早くから机に座ってウトウトとしている大臣に、秘書官が恐る恐る伝えた。
「ネットの書き込み?デマじゃないのか?」
嘘かどうかも分からない物に頼る訳にはいかないのだ。
だが、一筋の光をこの時の早田は感じていた。
いや、頼りたかった。
「それが陸軍から送られて来た内部情報と酷使しているとの事ですが……」
事務次官はその手にペラ紙一枚を持っていた。
それを早田は日田来るように奪い取り見てみた!
「うぬぬぬぬ……警察庁へ協力を要請!サイバー班で掻き込んだ者を特定しろ!」
ネットでの情報戦は軍隊でも出来るのだが、民間人が使うネット操作は警察の方が一日の長があった。
同時に軍隊のネット部隊へも連絡し、海外からのジャミングや不正な潜り込みも捜査を始めた。
◆◆◆
夜中に
『骨格の
と聞こえた。
身体の痛みは無くなり、体内の痛みへと変わった。
多分身体の種類別に進化しているんだろう。
体内と言う事は内臓か?神経なのか?
チリチリする感覚が、誰かに神経を弄られている気がする。
俺は身体を丸め、傷みに耐えながら再び眠りに付いた。
寝ては起きを繰り返し、いつもの5時過ぎに目が覚める。
寝た時間も少し遅く、浅い眠りの中で痛みに耐えていた割には眠れた気がしていた。
「うっ」
気怠い身体を起こしチリチリした痛みの中でベッドを離れて顔を洗いに行く。
「おはよー」
御飯を食べだしている両親に混ざって俺もテーブルに着いた。
「顔色が少し悪いぞ」
父の田村剛史が声を掛けて来る。
「少し眠られなくて、問題ないよ。今日は山は少しだけにして畑をメインにするよ」
余り食欲も湧かなかったが、無理やり食べて味噌汁で流し込んだ。
朝は牛や馬の餌やりが待っている。
肥育牛が20頭、繁殖の馬が5頭いるが、奴らの朝は早い。
餌場に飼料や草を入れ、食べている間に敷き藁を集め、新しい物に入れ替える。
「body is not moving」
身体が動いてないと母が言ってきた。
「ノープロブレム。リトルパワーレス」
「don't overdo it」
「OK」
無理するなと言ってきた母に微笑んで返す。
母も微笑んでいるが、馬が心配そうに俺を見ていた。
一旦家に帰り、起きていた俊仁を引き連れ家の横にある畑に向かう。
畝を作る機械もあるんだが、そこまで大規模な畑ではないうちの家では人力だ。
スコップで馬糞を蒔き、鍬を使って鋤きこみながら土を混ぜていく。
昔から続く畑作業の中で俊仁が言ってくる。
「身体は痛くないのかよ」
「ああ、痛いけど我慢出来ない事も無い」
「初めのに比べてどれくらい?」
「3割……4割か?半分も無いと思う」
「それって結構痛いじゃん!」
「動けない事はないさ。初めのに比べればな」
「怖っ、バケモンかよ」
「人間だ。脳筋はお前だろうが」
「俺と兄貴は違う種類なんだってば。俺が脳筋なら兄貴は鉄砲玉の特攻野郎だって」
「これでも考えて動いてるんだぞ」
「はいはい、分かりました」
休憩を挟みながら午前中は畑をのんびりと弄り回し、午後はどうするかと相談しながら家に帰った。
飯を食い、少し様子を見に行こうと山……討伐装備を揃え、二人で山へと入って行く。
昨日まで軽かった身体が重く感じる。
いや……普通に戻ったのか?
トンネルへ向けて歩いていると、
『神経系統の
と聞こえた。
やはりそうか。
骨格、神経、次は内臓か?
筋力だけでは無く身体の全てが進化して行くと予想出来る。
多分、傷みで分からないが、筋力自体はFランクと変わらないんだろう。
「さあ、今日は軽く行こうか」
「ああ、俺だけじゃあんなの無理だぜ」
「何を言うか、Fランクになったクセに」
「人類初めてのEランクの兄貴に言われたくないな」
お互い視線を絡ませ合いながら中へと入って行った。
「でもエボリューションって厄介だよな。痛みさえ無ければドンドン先へ行けるのに」
「そこには何かシステムがあるんだろ。知らんけど」
先に進む俊仁の後をゆっくりと追う。
もちろん俺の大鉈は俊二に渡しており、俺は別のを持ってきている。
「いた!」
入って間もなくスライムモドキが現れる。
タイミングを図りながら俊仁が危なげなく真っ二つに切った。
「兄貴、昨日俺の部屋で魔核何個割った?」
「53……個か」
「って事は40個なら安全圏内だな」
「だな」
昨日夕方近くまで入って24時間も経ってないのに入口付近まで来ている。
2日放置したら山へと出て来るのか。
俺達だけじゃその内溢れさせるな。
どうにかしなきゃ。
俺が心配しているのはそこだった。
あの地震が切っ掛けになったのはどうでも良かった。
今は山に出てこないように間引くしかない。
だが、その内俊仁も学校が始まる。そうなると俺一人で対応しなきゃならなくなる。
出来るのか?
明日にはEランク全開で奥まで行って間引くか。溶解液があるからコンクリートで蓋をしても出て来るんだろうな。
何か良い案を出さなきゃ。
俊仁が狩りを行う中、俺は今後の事を考えていた。
俊仁も問題なくスライムモドキを倒しており、ただ着いていくだけの簡単な仕事だった。
「兄貴パス!」
少しボーっとしていたが、俊仁の声で前を見る!
そこには昨日のサソリモドキが俺らに向かって来ていた!
「普通病み上がりに任せるか?」
「だってキモイじゃん」
俺は俊二を手で退かすと、素直に後ろへと下がった。
腰にシューケースごと取り付けた手斧を取り出し、
カサカサ カサカサ
歩いたり、止まったりを繰り返しながら俺に近寄って来るサソリモドキ。
目が見えていないのか、俺が止まっている状態では特に警戒している様子も無く徐々に近づいていた。
そして奴が止まった瞬間!
右腰に構えていた鎌を右足を踏み込み真横に一閃!
少し遅れて左肩に抱えていた手斧を胴体向けて振り下ろす!
シャキッ! ドシュッ!
毒針が宙を舞い、2対のハサミが防御態勢に入っている所を潜り抜けた手斧が胴体を貫く!
魔核を一発で仕留めたのか、サソリモドキはパタッとハサミが地面に投げ出され、壊れた魔核が煙となって宙に消えていく。
「スゲーカッコイイぜ兄貴」
「得物が長いお前の方が有利だと思うが」
思っていたよりも身体が動く。少しの間だけど、傷みを忘れる位には集中出来たようだ。
「だってキモイじゃん」
「よく見てみろ、見ように依ってはイセエビにも似てるぞ。焼けば美味いかも」
「マジ止めろって!エビが食えなくなるじゃん!」
兄弟でバカ騒ぎをしながら先へと進んで行った。
身体は痛かったが、集中すると痛みも忘れるようで、それほど痛く無くなるのも良かった。
だが、軽く俊仁が20匹を討伐し、俺も5匹のサソリモドキを倒して家へと帰ると、そこにはパトカーが止まっていた。
時間は夕方四時。まだ太陽も陽を射していて父が警官
二人に玄関先で立ち話をしている所だった。
嫌な予感がする
「「ただいま」」
俊仁と一緒に玄関に向かうと、三人が一気に俺らに振り向いた!
「お子様ですか?」
30代と思われる一人の警官が上辺だけの笑顔で俺らに近寄って来た。
「はい、俺が長男、こいつが弟ですが。何か」
弟の俊二を見ると顔が引きつっていた。
そして警官はプラスティックのファイルケースからか紙を数枚取り出し俺らに見せる。
「ある掲示板のログなんだけど、これに見覚えは?」
見た所、有名掲示板の書き込みらしいが数か所赤ペンで掻き込みを浮きだたせていた。
「さあ、掲示板は学生の時に少し見ただけで掻き込んだ事も、最近じゃ見たこともないですよ」
「じゃあ弟さんはどう?」
俊仁の前に広げる掲示板のログ。
「………………何かあったんですか?」
俊仁はより顔を引きつらせていた。
「お前…………」
俺が睨むと俊仁は視線を合わせなかった。
そこに提示されていた紙には『Fランク』『エボリューションっ』『魔核』などの文字が見て取れていた。
お前、書き込んだな!
無言の圧力を掛ける。
俊仁もバレたと思ったのか、ダラダラと涼しい風が吹く中で汗を掻いていた。
「お前達、今までどこで何をしていた」
親父からの怒りが俺に伝わって来る。
「山だよ。俊仁に手伝ってもらってた」
「何をだ?そして何でお前に買ってやった鉈を俊仁が持ってる。で、このトンネルとはなんだ?」
「話せば長くなる。書き込みは多分俊仁だ。俺じゃない」
俊仁はショボン(´・ω・`)としていた。
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