第2話 エボリューション
◆◆◆ 2話
『初討伐に成功。データーリンク登録…地球で初めての初討伐を発信・共有します』
「え?」
脳内に響く知らない声。
そして一瞬の間をおいて続けられる謎の声!
『地球外生命体の初討伐に成功、現在の状態では、地球上に展開された亜空間トンネルより湧き出る
「…………誰?!なに事?」
俺は周りを見渡すが、当然のように誰かがいるはずもなく、トットットットと響く草払い機のエンジン音が山中に響いているだけであった。
「地球外生命体?トンネル?スタンピード?討伐を推奨? 何それ?」
上下左右をもう一度見渡し、誰も居ない事を再確認する。
「異世界…魔物? そんな馬鹿な」
草払い機のエンジンを止め、暫くの間更なる声が聞こえないか立ち止まってみた。
だが、それから脳内に響いていた声が聞こえる事も無く、朝の山中はいつもと変わりのない様子に見えていた。
そしていつの間にかチリチリしていた頭痛が無い事に気が付き、その声がする直前に何か変な物を切った事を思いだし、草払い機の回転刃を見てみる。
「欠けてはない…何を切ったんだ?」
俺は切り倒れた場所を見てみた。
その辺りは朝露で湿っていたが、それ以上にその場所だけが濡れていた。
まるで水の入ったビニール袋を破ったかのように。
「ん?」
そしてその場所に転がっている赤黒い1cm程度の玉が転がっているのを発見した。
「まさか……な」
折り畳みのナイフを出して、その赤黒い玉を突いてみた。
カツンッ
軽い音と共にその玉は簡単に割れてしまい、中から粉の様な物が巻き上がった。
「まさか…小説とかアニメで出て来る魔物の核じゃ……」
田舎という事もあって、娯楽や遊び場なんて殆どこの地には無かった。
精々、テレビを見るかゲームをするか、本を読むのが毎日の娯楽だった。
細々とした小遣いではゲームなんぞ毎月買える訳でも無く、寝る前に読む小説が殆どの趣味と化したここ数年で、冒険心を煽る無料のネット小説や、通販で買うライトノベルで出て来る異世界で戦う魔物の中にあると言う魔石なる物を思い出していた。
鉄の燃えカスのような匂いを嗅ぎながら、ひょっとしてと思い、再び草払い機のエンジンを点火させる!
今度は慎重にゆっくりと草を刈って行く。
まるでそこに宝物が隠されているかのように。
すると、5分もしない内に見たことも無い大きな穴が空いているのが見えた!
「こんな穴なんて無かったぞ!ひょっとしたらダンジョン?」
大まかにだが、自分の敷地は覚えていた。
殆ど丸々の山が俺の家の山だったので、上った所なんて俺の家の敷地に決まっていた。
そして子供の時から遊び回っていた為、おおよその起伏や形状などは覚えているつもりだった。
だが、こんな物があるのを見た事は無く、聞いた事も無かった。
そこは地面にぽっかりと開いた穴であり、そこから斜めに地下へと続く穴が続いている。
草払い機のエンジンを掛けたままで固まっていると、中から信じられない物が出て来た。
ピョン ピチャ ピョン ピチャ ピョン ピチャ
薄い膜を被った直径30cm程度のモノ。
それはゲームの中や小説、漫画やアニメの中でしか見られないモノ。
しかもそれらで見るよりもベチャっと広がっていて盛り上がってはいない。どちらかというと仮想のモノとアメーバのようなモノの中間的存在。
だが、そんなモノがこの地球上にいる訳が無かった!
「スライム?……嘘だろ」
そのモノはフルフルと震え、3m程の離れていた俺に飛んで来た!!
「うっ!」
ピチュン!
反射的に草払い機を当てた!
一瞬にして膜が破けて中の水分がはじけ飛ぶ!
そして中にあった赤黒い玉がコロンと落ちた。
「スライムの核?! 嘘だろ」
魔石と思われるモノに回転刃を当てて一瞬で煙のように弾き、鉄が焦げた匂いと共に無くなってしまう。
それは紛れもない現実であり、その事実を理解するのに暫くの時間を要してしまう。
「まだい、いるのか?!」
周りの草を払って行く俺。
流石に洞窟のような穴に入っていけれるだけの心構えは無く、その穴を中心に周りの草を全て刈って行く。
「何もいない……か」
元居た穴の開いている場所の前まで来てしまった。
直径3m余り。誰かがくり抜いたように開いた穴は、そこに元からあったように穴が開いており、そこから斜めに穴が続いている。
「ひょっとしてこれがあの声が言っていた亜空間トンネル……ダンジョン?!」
未だに信じられないでいる俺だが、目の前には確かに見た事も無い穴がある。
それは紛れもない現実だった。
「ちょ、ちょっとだけなら…………」
俺はそのままスロープとなっている穴に一歩足を踏み出す。
少し急な坂だが、降りられない訳はなかった。
一歩…二歩……三歩…四歩…
急勾配の穴に入り、徐々になだらかになる下り坂に頭まで入った時だった。
ブンッ
電子音、いや、何だコレ。
映画などでライトセーバーを振った時に出る音のような効果音が小さく響いた!
心配になり元来た道を戻る!
ブンッ
「あ、出られる、よな」
慌てて損したと思いながら、もう一度穴へと入って行く。
頭まで穴に入ると、今度は草払い機のエンジンが煩く、エンジンを停止し、耳を澄ませてみた。
何も聞こえない。
まるで、別の場所に飛んだみたいな雰囲気であった。
俺はエンジンを止めた草払い機をその場に置き、一歩一歩ゆっくりと足を進めていく。10m程先に進むと穴はそのままなだらかな勾配に変わるが、まだ先は続いていた。
そして入口から離れた事を後ろを見て確認する。
やはり直径は3m程度であり、ほぼ丸の形状の穴は足元まで同じであり、触っても硬くて土とは思えない手触りであった。
そして電灯もないのにその円形のトンネル自体がボワッと光っている事に気が付く。
明り無しでも大丈夫か。
もう、既にこの時には俺は確信していた。
このトンネルは異世界へと続くトンネルだと。
そしてこのトンネルを通じて異世界からスライムが来たんだと考えていた。
母は昔から言っていた。
『男ならば誰かの作った道を付いていかず、自分で切り払いなさい。そして人の為になる事をしなさい。男ならヒーローになるのよ』
そしてその言葉は俺の幼少期に影響を与え、ヒーロー物や戦隊物を見る事に影響した。
そして中学になると、農家の後継ぎがどうやってヒーローになれると?
取り得ず弟を虐める
その内、弟も強くなり、俺の出る幕は無くなっていたが、諦めた訳ではない。
取り敢えずその場がなくなっただけだと思っていただけであった。
そしてその場が此処に出現した!
ヒーロー圭一様の爆誕だ!
ハリウッドから映画化のオファーでも来ないかと、洞窟内を探索しだす。
穴は真っすぐでは無く、微妙に曲がりくねっていた。
そして妙に息が苦しく感じる。
酸素でも薄いのか?それとも空気が循環していないから酸素が足りないのか?
その時、辛うじて見える洞窟の先からピトン ピトンと湿ったような音を響かせジャンプしてくるスライムを発見!
距離とタイミングを見計らって俺はジャンプした瞬間に思いっきり蹴りを喰らわせた!
バチュッ! ベチュッ べちょんっ!
「なッ! 俺の必殺キックを食らっても大丈夫だと!」
蹴り飛ばしたスライムは天井にぶち当たりそのまま床にべちょっと落ちて来ただけであった。
そしてフルフル震えると、また移動を開始する。
考えろ。奴は打撲耐性が強いはず…弱点は魔法なはずだが…俺が使えるのか?
使える!!
俺は両手を前に出して開いた!
「ファイヤーランス!」
………………出ない。
「アイスジャベリン!」
………………
「エアーカッター!」
………………
「電撃だっちゃー!」
…………………………
チラ
思わず誰も聞いていないか後ろを振り返った。
だが、当然ながら誰も聞いていなかった。
フー
ならば刃物か!
卒業記念のお祝いにそんんな物をくれるのかという、大鉈を腰から引き抜きジャンプした瞬間!
右上から袈裟懸けするように叩き切った!
バチュッ!
膜が弾けるようにトンネルの壁にはじけ飛んだ!
ついでに中に入っていた魔石の様な物も壊れ、煙のように消えて行く。
「へへっ これでも剣道は得意だったんだ。チャンバラって言われてたけど舐めんな!」
水分と粉になったスライムに中指をオッ立てた!
この洞窟の中に入っておおよそ10m少しか。
俺は更に先へと進む。
よく分からない薄っすらと光るトンネルを頼りに進むと入口も見えなくなった50mは進んだところにもう一匹のスライムを発見した!
「チェスト!」
駆け足で近寄り大鉈を速効でぶち当て、一瞬で粉砕するスライム!
更に100m程進んだ所でもう一匹!
分かれ道も全くないトンネルダンジョンを進み、数100mは進んだ所でもう一匹が消し飛んだ!
『討伐累積値が一定数に達しました。データリンクに登録……ノーマルよりFランクへ移行。全世界へ発信・共有し、これより
『討伐隊一人の討伐累積値が一定数に達した為、ノーマルよりFランクへ移行しました。
亜空間トンネルより湧き出る
「は?」
また聞きなれない声が二回に分けて脳内に響く!
そして他へと発信されている情報らしき声が終わると同時に全身に痛みは走り出した!
「痛ッ いて……いたたたたたた!」
それは今まで感じた事の無い強烈な痛みとなって全ての行動を阻止しようとしていた。
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