ダンジョンだと思ったらトンネルだった~ワームホールゲート闘いの神~
永史
第1話 始まりの声
◆◆◆ 1話 始まりの声 ◆◆◆
20XX年。
第三次世界大戦が終わった地球は、更なる進展を目指し、化学、物理、製造、コンピューターなどの分野で発展を遂げていた。その科学力は火星への有人探査が実施出来る所にまで。
幾つかの国や多くの人間を失いながらも、人間と言うこの地球で英知を極めた身勝手な性格と残虐性に富み、工業・化学と言う発展を
第三次宇宙開発の始まりだった。
そんな工業・科学の発展から離れた仕事も当然ながら残っていた。
日本の中の宮崎県高千穂町。
神話の国の一つとして県内外からの観光客で賑わう町ではあるが、過疎化は激しく、町の人口も一万人にも満たない人々は、主に農業や観光業で生活を行っていた。
その高千穂の町で俺、田村圭一は地元の高校をこの春に卒業し、家業である農業を半ば強制的に継ぎ、朝から晩まで働いていた。
「ねえ、何か頭がチクチクするんだけど」
この時期にしては珍しく昨夜も蚊が部屋の中にいたが、夜も早くから寝て、日の出と共に起きる事は当たり前の生活であり、牛の肥育や馬の繁殖農家をしている為に休みが無いのは分かっている。
分かってるんだが…
「気のせいじゃない?ママは牛と馬の世話をしに行くから。あんたもしっかりやんなさいよ」
「ういっす」
自分の事をママと言った母のエマは、アメリカ生まれであり、実家は昔ながらの牛農家。現代のカウボーイ一家だった。
日本の農業大学に進学し、ここ高千穂に実習で来た時にこの地を気に入り、牛と馬を飼っていた家に就職。そのまま親父と結婚した強者だ。
デカくなった今でもこの母には勝てない気がする。
暗い内に農業展示場へと出向いた親父の代わりに牛や馬の餌をやりに、色々あちこちデカい身体をジーンズとチェックのシャツに押し込み出て行った。
頭痛の細かい事は気にするなと言う事だ。
細かい事を言う父に、おおざっぱな母。
これでよく夫婦が成り立っているなとは思うが、毎日家を出る時のチューは欠かさないようで、息子の俺が居ても平気でチューされると、俺の方が恥ずかしくなってしまう。
「ういーす」
母が作っていた外国人とは思えない美味い味噌汁を啜りながら卵焼きを頬張り飯を掻き込んでいると、弟の俊二が起きて来た。
俺に似ず、母の血を強く受け継ぐ俊仁は、モロにハーフ顔であり、見た目で判断される田舎では、虐められていた事もあったのだが、小さい時は兄の俺が、大きくなったら……俺よりもデカい体格を生かして鉄拳で黙らせて来た脳筋野郎だ。
ドンブリに飯を入れ、そこへ母の作った味噌汁を直に注ぐ。
今日は豆腐とワカメの味噌汁だ。
それを掻き込みながら切られていない卵焼きを太巻きのように食って行く俊仁。
俺よりもデカくなる訳だ。
「食い終わったら水に付けとけよ」
「うっす」
俺は食い終わった食器をシンクの中にある容器の中に漬け、出て行く準備をする。
まだ三月、高校を卒業したてなのに家の仕事の殆どを任されており、主に山の管理と畑仕事を行っていた。
暗い内に牧場のドアを開け、馬を外へと出し、牛に飼料を出して飯を食い、これからは山へ向かう所だった。
作業場から腰に道具を入れられる腰ベルトには長年愛用している小型のナイフや折り畳みの鋸、ベストには切りクズが入らないように透明のメガネを入れ、卒業祝いで買ってもらった大鉈を腰にぶら下げ、草払い機を持った時だった。
ズンッ!ギシギシギシギシ
「地震だ!」
古い木造の家がきしみながら音を立てて揺れる!
俺らが産まれる前には熊本の地震でこの辺りでも震度5を記録したらしいが、そこまでじゃなかった。
「震度5……4くらいか。俊仁!異常はないか?!」
「ないよー」
腑抜けた声が返って来る。
「俺は行って来るからな!ガスの元栓とか締めとけよ!」
「ほーい!」
身体はデカくなったが子供のような声を返してきた。
二歳年下の弟だが、最近は力でも俺を上回るようになっており、俺が守ってやらなくても大丈夫な事もあり楽になっていた。
最後に弁当と水筒の入ったリュックを背中に背負い、取り敢えず隣にある牧場まで行く事にした。
「母さん!こっちに異常は無かった?」
いつも世話をしている牝馬が近寄って来る中、首筋を撫でながら母に聞いた。
母は敷き藁を集めながら掃除をしている所で、手を止めて話してきた。
「こっちは問題ないさ。山鳴りがしてたから気を付けるんだよ」
「ああ、草払いしながら見て来る。まあ大丈夫だろ。」
「何かあったら電話しなよ」
額の汗をぬぐいながら笑顔で送り出された。
俺は裏庭から先に進み、それなりに多い気が覆い茂った山へと入って行った。
代々続く林業も行っているのだが、お金にならない杉の木を何もせずに放置する訳にもいかないのだ。
今日はこの辺り、明日はその次の場所と場所を点々と移りながら草を払い、枝打ちをし、将来に備えるのだ。
小学生の時から親父の後に付いて来ては山の事を学び、遊び場も山だったので、地形は黙っていても分かる位だった。
脛に当てた
辺り一面に草が生えた尾根に出て来た。
杉の木も生えておらず、日当たりが良い事から草もこの陽気に当てられ成長でもしたのか。
「今日はこの辺にするか」
朝から続く変な頭痛の事も忘れ、草払い機のエンジンを掛けて草を刈ってゆく。
薄暗かった山も朝日が当たりだし、野鳥の鳴き声が響き出す。
他県などから来る観光客はこの幻想的な自然や高千穂峡の転生降臨の場を見にやって来る。
だが、人が中へと入って整備をしないと、森に返るだけなのだ。
だが、高校を卒業して圏外へと出て行く同級生も多い中、こうして自然にまみれる仕事も悪くないと思っていた。
動物も好きで自然も大好き。
何しろ山に入ると毎回何かの発見が待っている。
規模は小さいが
母から受け継いだこの精神をもって、野生動物という蛇やイノシシと共存しながらも戦う精神がないと山では生活できない。
自分の身は自分で守らないと生きて行けれないのだ。
そんな事を思いながらも回転する刃を左右に振りながら大きく育っている草を切り払っていた。
ピチュン!
明らかに草を切ったとは違う音と共に液体が派手に飛んで行く!
朝露に濡れたビニール袋でも切ったのかと思った、その時だった!
『初討伐に成功。データーリンク登録…地球で初めての初討伐を発信・共有します』
「え?」
脳内に響く知らない声。
そして一瞬の間をおいて同じように続く脳内に響く声!
『地球外生命体の初討伐に成功、現在の状態では、地球上に展開された亜空間トンネルより湧き出る
「…………誰?!なに事?」
これが地球人最後の日と呼ばれる日の始まりであった。
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