鹿島多恵

――病院棟4階の小部屋


扉を閉めた後、戸波は2階から持って来ていた、つっかえ棒をはめた。


すると、女が泣きながら話し始める。


「う……うぐ……私は、鹿島……多恵です……ぐ……うぐ」


30代前半くらいに見える女性、いかにもOLといった服を着ている。


「私は鳥井、かれは戸波君、鹿島さん、とりあえず、落ち着こうか」


「は、はい……」


鹿島は無き止んだが、いまだに肩を震わせている。


「そうだ、これからどうするか話し合うか?」


「は、はい。でも、あの美田って人の説明が足りな過ぎて、俺は、何をしたらいいのか、見当がつかなくて……」


「あぁ、そうだよな。あの怪しい男、大切な説明が無かったよな。ボタンの説明くらいだろ、話していたのは」


「はい。押すと賞金が貰えるとか……1000万も。しかし、押した人、死にましたよね。あんなの見た後で、押す人なんているんですか?」

鹿島が震えた声で答えた。

「人が……目の前で……飛ばされて……とにかく怖くて……あんなのが増えるって、考えると、もっと怖い」


鳥井が気まずそうに、

「うーーん、でもなぁ……多分、参加者の誰かは押してしまうかもな」


「え……だって、危険だし、悪いことですよね」


「危険だけどさ、もう、人がバラバラに分散しているし。目の前で変身させちゃって殺されるリスクは減ったわけだから」


「それは、そうかもしれないですね……」


鳥井は苦笑いしながら続ける。


「それに、人間、歳を取ると、お金の大切さ、というか、お金の必要性が、身に染みて分かる様になるからねぇ」


「お金の必要性……」


「どんな人生を送っても、お金ってのは、それなりに必要なんだよ。食費に家賃に光熱費にって、趣味とか息抜きにだって、お金が掛かるだろ、だから、あればあるだけ助かる物なのさ」


「だったら、鳥井さんもボタンを見つけたら……」


「いやいや、流石に私は押さないよ。これでも人並みに良心があるつもりだし、お金にはそれほど困ってもいない。だけどね、世の中には、お金を第一に考える人もいるだろうって、思っただけさ」


「納得できたような、出来ないような」


「まぁ、あくまで可能性の話、命が掛かっているんだから、最悪のことも考えておいて、用心しておこうってことだ」


「そうですね。用心しないと……死んでしまいますよね」


「うん。だから私はね、とりあえず、自分の番号が書かれたボタンを探そうと思っている」


「え?」


「万が一、悪い誰かに自分のボタンが押されたら、それこそ最悪だろ」


「な、なるほど」


「後は……武器の確保だな」


「武器……」


「護身用にね」

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