鳥井良治
戸波と男は、
出来る限りの速さで、段を次々と飛ばしながら、階段を駆け上がった。
2階について、しばらく廊下を走り、角を曲がって、複数の小部屋がある場所へ、
その内の一部屋へ入り、扉を閉めた、
「ちょうどいい棒があるぞ」
念のため、つっかえ棒をはめた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……」
そして、
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます」
俺は、息を切らしながら、なんども感謝の言葉を続けた。
「まぁ、ケガも無いようだし、良かったよ」
「あ、そうだ、お名前は?俺は戸波大和です」
「あぁ、鳥井良治だ。こんなときに言うのもおかしいけれど、よろしく」
40歳位の男性、作業着姿だが、丹澤の服とはデザインが違う。
胸ポケットに刺繍があった。
「双子櫓町役場……?」
「あぁ、山奥にある町の公務員だ」
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
温厚そうな鳥井の姿に、少し安堵する。
「そうだ、あの変な怪物は、獄卒だっけ……?正式名称は」
「はい」
「車みたいに走っていたから、車の獄卒ってところかなぁ」
「ここまで、追ってきますかね?」
「可能性はあるかもしれないな。だけど、暴走車みたいにいろんな所にぶつかっていたし、なにより、網を掛けてやったからな。ここまで追って来ると想定しても……少しは時間の余裕があると思うぞ。だから少し、休んで、息を整えよう」
「は、はい」
「あの投げたネットはどこから?」
「たまたま逃げ込んだ部屋に投網があったんだ。上手く投げられて良かったよ」
「もしかして、漁業関連の担当ですか」
「違う違う、うちは山奥の町だから、海も港も無いよ」
鳥井は苦笑いをしている。
「お?どうやら、君も落ち着いた様だから、どうする?安全のため、もう少し上の階に上ろうか?」
戸波はそれに頷いた。
部屋を出て、警戒しながら階段へ。
恐る恐る階段を上る。
「ここで3階……まだ上行くか?」
「は、はい、なんとなく、ですけど」
さらに階段を上がり、
4階までたどり着く、
廊下を歩いていると、
「どこのフロアも、同じ様なもんだな。照明は生きているけれど、備品とか、内装とか、準備が途中で止まっている」
「なんだか、ちょっと、変な明るさですよね、照明」
「多分、古い蛍光灯だ。最近はほとんどLEDを使うはずなんだけどな……」
「……!」
戸波は進行方向に人影を見つけた。
「……あれ?だ、誰かいます」
二人に緊張が走った。
鳥井が目を凝らす。
「いや、大丈夫だ。参加者の一人だ。獄卒じゃあないよ」
女がゆっくり近付いて来た。
「す、すいません、一人で逃げたん……ですけど、……怖くなって……ぐす……ぐ」
いきなり泣き始めた。
「お、落ち着いて、とりあえず、どこかに隠れましょう」
「こっちだ」
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