大木剛優

――病院棟3階


柱の影に身を隠している二人の男がいた。


「……もう、いいんじゃねぇの?誰も来ないしさ」


男が屈んだ状態から立ち上がった。

そして、そのまま歩き出そうとしている。


「ちょっと、どこに行くんですか?」


「今の内に、武器とか食い物とか、探そうと思ってな。君、怖いなら、どっかに隠れていればいいよ」


「お、俺も一緒に行きます」


「あぁ、好きにして。ちなみに俺は大木、大木剛優」


「山城……です」


「声が小さいぞ!元気出せ!」


「今、大きい声は出せないですよ」


大木は、目に付いた扉を開けて回った。

その様子に慌てて、


「ちょっ、ちょっと!何か潜んでいたら、あ、危ないじゃないですか!もっと慎重に!お願いしますよ」


「バカだなぁ、お前。あの獄卒ってヤツが出てくるとでも思ったのか?」


「そ、そうですけど」


「まだボタンが押されたのは2回だけだろ、一人目は燃やされて、二人目はまだ1階だ。だったら、ここに潜んでいるわけねぇだろ!」


「あ……そうか……そう言われれば、そうです……ね」


大木は冗談めいた口調で言った。

「君は考えるのが苦手な様だな、だったら黙って、先生の言うことを聞いていなさいよ!」


「先生?」

山城は不思議な顔をした。


その後、大木が武器を見つけた。


「おっ!さっそく武器があったぞ!あはは、順調だぞ」


竹刀を持って嬉しそうにそれを眺めている。


「え!?竹刀!?」


「ん?何?その反応は?」


「だ、だって、竹刀ですよ。そんなものじゃ、役に立たないじゃないですか!」


「そんなこと無いって!俺は仕事でいつも使っていたからな、不思議な縁というやつだし、これ、使いやすいんだよ!」


「え?仕事で使うって?」


「さっきも言ったろ。俺、中学校の先生」


「え!?本物の先生?……だったら、仕事で竹刀使うって……剣道部の顧問なんですか?」


「いいや、俺は女子バレー部の顧問だよ。指導のときに竹刀を持ってやっているんだ」


「そ、そんなの、体罰じゃないですか!!」


「違う違う!竹刀では叩いたりしないよ、バレー部の子たちに気合いを入れるために持っているだけだって」


「それでもまずい気がしますけど」


「そう?」


大木は気にする様子も無く、別の部屋に向けて歩き出した。


ガラッ


そして相変わらず、強い力で引き戸を開けている。


「いないって分かっていても……怖いなぁ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る