車の獄卒

「さっきから、やらせやらせって言ったあんた……俺、さっき番号、見たぜ……7712番だよな」


「あ?てめぇ!何だ!?」

急に口調が荒くなる7712番の男。


「あんたみたいなヤツの言うこと、信用できるかよ」


「いい加減にしろ!見ず知らずのヤツが言うセリフじゃねぇだろ!あ!?」


「俺はお前の本性を知ったんだよ。だってな、俺が座っていた椅子の下に、置いてあったんからなぁ、7712番のボタンがよ!」


手にボタンを持っている。

確かに7712番と刻印されている。


さらに脇に挟んだファイルにも同じ7712の数字が見える。


つまり、男が読んでいた物は、美田が捨てたファイルではなく、

彼が偶然見つけた7712番の方だったのだ。



「7712番、ボタンの側にあんたのことが書かれたファイルがあったぜ。ハッキリ言って、あんた最低な奴だな」


「は!?だから!何、なんだっ、お前は!さっきからっ!」

7712番は怒り出す。


「泥棒はやっぱり語彙力が無いんだな」


「リレーアタックのプロだって?一体、何台の高級車を盗んだんだ?この悪党!」


「何で……そんなこと、知ってんだ!!」


「全部、ここに書いてある。小説風に書かれているから解り易かったぜ」


7712番が男に詰め寄る。

「おい!そのボタン寄越せ!」


それに焦ったのだろうか


「来るなっ!!」


と叫び、男は、ボタンを押してしまった。


「あ!!ぎゅっ!ぎぃっ!きゅっ!」

7712番は、短い、異様な叫び声を連続して叫んだ。

そして、全身が激しく震えている。立ったまま痙攣している様だった。


異様な雰囲気に、気が付き、何人かが逃げ出す。


「ざまあみろ、車泥棒!!」


「車、車?車、くるくるまくるまぐるまま、ママぁぁああーー」


バタンッ!!


床にうつ伏せの状態で倒れた7712番は、グッ、グッ、グッと小刻みに動いた。


ダンッ


数秒の停電


電気が付くと7712番の身体に異常が起こり始めていた。


両手、両足の関節が、パキッ、パキッ、パキッと折れていき、直ぐに人間の構造や骨格を無視してぐるぐると『とぐろ』を巻き始めた。


不格好なタイヤの、人間型の車だ。

これが7712番の獄卒の姿。


7712番の両目がまぶしいくらいに光り出す。まさにヘッドライトの様に。


「どういう原理だよ」


逃げ出さずに残っていた参加者たちは、目の前の光景に唖然とする。


ぎゅるるるるるるぅぅぅぅぅぅううううううう



声なのか音なのか、不気味な響きと共に7712番は動き出す。


生物としてありえない不自然な動きで、手足のタイヤが回転する。

本来なら出るはずの無い推進力で7712番は廊下の奥の奥へと走る。



あっという間に廊下をUターンし、ボタンを押した男を……、


ダーーーン


跳ね飛ばした。


男は天井すれすれまで飛んでから、


ゴグュ


男は頭から落ち、

鈍い音を立てて、床に激しく叩きつけられた。

交通事故だ。


それから一切、男は動かなくなった。

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