スタート

ピ――――――


どこからか、ホイッスルの音が響いた。


おそらく、合図なのだろう。


時計も無いし、スマホも取られているから正確には分からないが、

おそらく、今は午後、4時くらいだろうか……、


『イベント』が開始された。

本当なら、『ゲーム』が開始されたというのが正確なのかもしない。



でも、嫌だった。

こんな悪趣味なことにゲームと名乗って欲しくない。


ざわつき始める参加者。


そのまま椅子に腰かけている人。


立ち上がり、落ち着かない素振りを見せる人。


他の参加者に話しかける人。


……その中に、見つけた!彼女がいた。


「………さ……ん」


いつの間にか、また『喉が閉じていた』。


彼女は隣に座る男の参加者に話し掛けていた。


……。


親しげに話す彼女の姿が遠く感じだ。


話し掛けに行こうか迷っていたときに

突然、参加者の一人が急に立ち上がり、大声を上げた。


「皆さん、私の言うことを聞いてください!!」


作業着姿の男は、興奮した顔で、


「このイベントは異常です!違法です!ハッキリ言って犯罪だ!こんな犯罪行為に付き合ってはいけません!!」


その意見に少なからず同意した参加者たちが男の周りに集まった。


「とにかく、ここから動かないで、全員で話し合いましょう、ね」


およそ30人は参加者がいたはずだが、見ると6人程度、この場にいない様だった。

しかし、丹澤は興奮状態にあったためか、そのことに気が付いてはいない。


丹澤は冷静に振舞っているが、内心は必死に取り繕っていた。

そうすることで、恐怖を克服しようとしているからだ。


「皆さん、私の言うことを聞いてくれてありがとう。丹澤尚史だ、都内の引越しセンターで働いている」


丹澤は話ながら、胸のマークを指さした。


大柄の男がそれに反応する。髪はほとんど坊主で、タンクトップを着ているため、首筋の『7712』の数字がハッキリ見えてしまっている。

「あぁ、そのマーク。引っ越しのヤマナカだろ、CMで山の中までヤマナカーって歌っているやつだ。あんたそこの作業員か」


「それじゃあ、始めましょう」


「始めるって……言っても……」

「とりあえず、何が起こっているのかを把握しないと」

「やっぱり、テレビの撮影なのかな?」

「あんなの!!テレビで流せる内容じゃないよ!人が燃えたんだぞ」

「燃えたって……あんなの演出でしょ」

「本物の火だって!熱も感じたぞ!」


いつの間にか意見が二分されていた。


「そもそも正気を失わせる機械とボタン?そんな物、本当にあるのか?」

「実際、若い男が豹変したじゃないか!」


何人かは議論そっちのけで、

ファイルを読んでいたり、

自分の衣服(主にポケット)を調べ、スマホを探したりしている。

「くそっ!何でスマホが無いんだ!誰か、何とかして警察を呼んでくれ!」


「あいつらに、いつの間にか取り上げられたんだろ、今はじっとしとけよ」

「さっきから、何でそんなに余裕あるんだよ、あんた?」


口論に発展しそうな雰囲気の中、


一人の参加者が異変に気が付いた。


「あれ?……無い……無いぞ?」



「焼けた死体が無くなっている!」


そこへ、


「だから、あんなもの、やらせだからだよ!人の話、聴いてねぇのか?」


「やらせ?」


「あぁ、司会者とあいつはグルだ。決まった段取りをやっただけ!今頃、こっそり移動して、裏でピンピンしているぜ、きっと」


「な、なるほど……」


「今、小さい隠しカメラで俺たちの様子を撮影中かもな。しかし、腹立つよなァ……」

やらせを主張する男は、丹澤の方を向いて話し続けた。


「俺も丹澤さん、あんたと同意見だ。何もしない、これが最善の行動だ。そうすれば、しばらくしてスタッフが飛んで来るだろよ、謝りながらな」


……その一言で、場が落ち着きかけたそのとき、


ずっと椅子に座り、ファイルを読んでいた男がスッと立ち上がり、

意外な言葉を発した。


「俺は、そうは思わない」



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