戸波大和の視点と回想
目の前で起こっていることが、とても信じられない。
俺は、ただただ後悔していた。
全ては、『あの人』が置き忘れた、一枚の茶封筒から始まった。
◆参加者『8801』 戸波大和(となみ やまと) ゲームセンター店員
――3カ月前
――東京のとある駅近くのゲームセンター
今、起こっていることとは正反対の、平和で少し楽しい、回想。
俺は、ゲーマーと言えるほどの腕は無いし、毎日のプレイ時間もそれほど長くないが、それでもゲームが好きだった。ライトゲーマー?とでも言えばいいのか?良く分からないけれど……。
とにかく、ゲームに関わることがしたくてゲームセンターの店員募集に応募した。
面接中。妙に緊張して、何度も言葉を噛んでしまった……。
しかし、しかし、店長が俺の一生懸命なところを気に入ってくれたみたいで、おまけで合格にしてもらえた。
ここで一つ、うんちくだ。
今や、ゲームセンターはクレーンゲームセンターだと言っていい。
まぁ付け加えるなら、写真プリントシール機の売り上げも高い。
その一方、いわゆるゲームをプレイする、格闘ゲームやシューティングゲームといった筐体は数を減らし、この店でも隅に追いやられている(個人的にレトロゾーンと心の中で呼んでいる)。
その中に、個人的に気に入っているゲームがあった。
ガンシューティング『アバランチフォース』。
銃型のコントローラー使い、テロリストを射撃して倒していく名作だ。
お客さんに気持ちよく遊んでもらうためには、照準調整が大事で、そのために何度もテストプレイをする必要があった。そうしている内にいつの間にか愛着が湧いたのだ。手のかかる子ほどかわいいというやつである。
職場にも慣れ、仕事を楽しいと思えるようになって来たある日、
少し、変わったお客さんを見つけた。
トレーニングウェアを着た20歳位の女の人。
少し日焼けした肌。セミロングボブ(若干ショートに近め)の髪。
最初に見たときは、同じビルに入っているスポーツジムと間違えて入店したのだと思った。
彼女は、ガンシューティングゲームをプレイしていた。
途中でゲームオーバーになったのだが、それには原因があった。
集中して念入りに狙いを定めるから、射撃に時間が掛かり、敵からの攻撃を受けてしまうのだ。それが無ければクリアしていたかもしれない。とにかく、筋がいい。
気になったのは銃の持ち方。
すごく綺麗な姿勢だった。
それから、何度か彼女を店内(主にレトロゾーン)で見かけた。
俺は、つい気になって、掃除をしながら……こそっと……少しだけ、純粋に紳士的な気持ちで、彼女を見ていた。
そんなある日、両替機の傍で彼女と目が合った。
「店員さん!すいません」
「はい」
「両替と間違って、メダル買ってしまったんですけれど……なんとかなりませんか?」
古典的とも言えるゲーセンでのあるあるだ……。
「あぁ、申し訳ない返金は出来ないんですよ」
「え……」
「メダルを換金するのと同じになってしまうので、申し訳ないです」
「分かりました……」
まさにしょげているという顔。
俺は店長がいないことをさりげなく確認してから、
「あの……本当は駄目なのですが、特別に、1プレイサービスしますよ」
「え?」
「アバランチフォースですよね、プレイするのは」
「そうです、そうです……ん?」
「どうして知っているんですか?」
「あっ……」
「あっ!って言いましたよね!今!もしかして、店員さん私のストーカーさん?」
「ち、違います!ストーカーじゃありませんよ!」
「冗談ですよ」
「そうですよ。ただ気になって何度か見ていただけで……」
「え……やっぱりストーカー!?」
「違います、すいません、ですから、あぁ、もう、なんて言えば」
俺は焦った。焦りまくった。
「俺もこのゲーム好きなんで、遊んでいる人を見つけて、嬉しかったんです。この区画に置いてあるゲームは、人気が無いと、撤去されてしまうので、えーと、とにかく、嬉しかったんです。あぁ、信じてください」
「あははは、面白い店員さん。テンパり過ぎです。ハハハハ」
筐体を操作し、1プレイできる様にする。
「ありがとうございます」
「あ、そうだ。店長には内緒で」
「店長にバレたら、クビになる?」
「なりませんけれど、多分」
これがきっかけで、会うたびに話すようになった。
「私のことは、そうね……真冬さんと呼んでよ」
「真冬さん?」
「本名が綿引真冬だから、シンプルに真冬さんで」
……どう考えても、夏ってイメージなんだけどなぁ……
「歳はね、不惑」
「不惑……?え!?40歳」
「ごめん、ウソ、本当は不惑ハーフ」
「20歳だよね、あぁ、良かった」
「そういえば、銃の持ち方、きれ……上手いですよね」
「アメリカでね、本物を撃ったことがあるの。親戚が一人、向こうで暮らしているからね」
「思った以上に本格的!?」
「でしょ」
「真冬さん、ゲームオーバーになっても、絶対にコンティニューをしないですよね」
「だって、現実ではコンティニュー出来ないからね」
「あぁ、なるほど……なるほど?」
「美学だよ!」
時々、会話をする仲、連絡先はお互い知らない。
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