実演
「あら……あらぁ……」
参加者たちの沈黙に対して、美田は困り顔をしてみせた。そして、キョロキョロと首を動かしてから、
「困っちゃたなぁ……みんな無言だよ……。まぁ、そうなるか、こんなシチュエーション、なかなか理解出来ないよね」
美田は突然、不貞腐れている一人の若い男の方を向いた。若い男も、急に目線を向けられて、狼狽している。そこへ、美田が言葉を続ける。
「だからさ!ここで実演してみせましょう!ね!ね!」
急におどけてみせながら、
「ほい!」
美田は先程、モニターに映っていた青いボタンを取り出した。
「さっき、私のヘアースタイルをディスったあの失礼なガキの番号は……えーとぉ……4027番か」
黒い油性ペンで、雑に『4027』と書く。
「よく見ていてねーー!今から、押すよぉーー、ほいっ」
ダァン……
館内の灯りが一斉に落ちた。
そして、数秒後、再び灯りが戻る。
「て……てめぇ………な……なななななんんんんんんんだだだ……ななななににししししたたたた」
司会者に絡んでいた4027番の男。
彼の顔色が真っ赤に変わった。
加えて、目の大きさと形が、ぐにゃりと歪み、白目が萎んで、遂には無くなった。
そして、頬がゆっくりと裂けていき、顎が垂れ下がった。
「出来損ないの宇宙人ってところかな?だけどね、正式名称は、『獄卒』と言います。一応、正式名称ですから、覚えておいてくださーい」
「皆さん!これが4027番の本性、獄卒の姿です!では、今から!こいつを燃やします!」
美田がまたビール瓶を取り出して、掲げた。
ただ今度の瓶には導火線が付いていた。既に火が点けられている。
美田が投げた火炎瓶は綺麗な放物線を描いて、4027番の頭部に当たり、割れた。
ポンッ!
4027番の全身は炎に包まれた。いわゆる、火だるまだ。
肉の焼ける臭いが漂う。
「きゃああーーー!!」
「うわぁ!」
方々から悲鳴が上がる。
激しく燃えているのに、火災探知機もスプリンクラーも作動しない。
誰かが、
「消火器、どこだ!?」
と叫んだ。
美田はただ火だるまを満足そうに見ているだけで何もする気配が無い。
司会者を自称する不気味な男が、人を焼き殺している光景にほとんどの参加者たちは恐怖した。
何人かが消火器を探している間も炎は燃え続けた。
4027番の周囲には物が置かれていなかったため、燃え移ることは無かった。
美田がぼそりと
「もう、いいか」
とつぶやくと、ようやくスプリンクラーが作動して、すぐに炎は消された。
「あと、これをどうぞ、今、燃えた男のお話です」
美田が何かのファイルを床に投げ捨てた。
「それじゃあ、私は帰ります」
美田がゆっくりと玄関から出て行く。
本当なら、静止しなければいけないシチュエーションだが、
誰もそれが出来なかった。
それよりも、自分が逃げ出すことを何人かが選んだ。
しかし、玄関から出ようとすると、足が止まり、
バタッ、バタ、バタ……
倒れ込んだ。
我先に!と、外へ出ようとした3人全員が、一斉にである。
そして、気を失ったまま、痙攣し始めた。
異常を知った参加者たちが駆け寄り、身体を引きずって入口から離した。
そのあと、介抱をすると、3人は目を覚ましたが、ぐったりと疲れた表情を浮かべている。
参加者の何人かが気が付く。
デスゲームのセオリー通りだ、と。
そして、そのセオリーとは、簡単には脱出出来ない……ということだ。
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