フランスのエース姫

「やあぁぁ!」


リズが宙に浮く球形の敵を正面から槍で一突き。弱々しい鳴き声と共に、落ちてゆくネビー。

群れの一体が、リズの攻撃を逃れ、反対側へ


『・・・——まかせて』


フワフワと、パームボールのような軌道をする敵を、ベルが難なく仕留めた。


「もうっ!一体何匹いるのよ!!」


先ほどから数えて数百は敵を落としているはずなのだが、見た感じ全く減っていない様子だ。


というよりも先ほどより明らかに数が増えている。

まるで蜂の巣を刺激したかのような反応に戸惑う姉妹。



——————

「今回の作戦は、二人一組で二手に分かれてもらう。」


「司令!それは・・・」


この指示に待ったをかけたのは部隊長のアスカ。


「ただでさえ人数が少なく、実戦経験も豊富ではない我々が割れれば、それこそ勝ち目はありません!」


司令の指示に真っ向から反論して見せるアスカ。司令はそれを聞いて静かに頷く。


「確かにアスカの言う通り、今のフランス部隊では今回の敵との戦いで勝つのは難しいだろう。」


「逆に言えば、四人で行こうが二人で行こうが結果は変わらない。」


ベルジの淡々としたしかし、普段とは違う本気度の籠った言葉に息をのむ四人。


「全員死ぬより、二人死んで二人助かった方が、これからのためになる。俺はそう思った。」


一瞬の沈黙の後に、カリンが言葉を発する。


『その、犠牲になる二人って、誰なんですか?』


「・・———k」


『私とアスカちゃんで行きます。』


司令の言葉よりも先に申し出たのは、最年少のカリンだった。


「・・・——。」


『まだ経験の浅い二人にはとても任せられません。』


リズとベルは三年前に


『それに、未知の敵ならば、今後の撃破するためにも攻撃や特徴などの情報を得る必要があります。』


『そのためには、それなりに相手と戦えなければなりません。』


『この隊でそれができるのは、私と・・・私とアスカちゃんだけです。』


カリンの普段は見ることのない、凛々しい姿とキッパリとした物言いに、思わず目を丸くするベルジ。

少女の圧に、口に出そうとした言葉を引っ込めた。


「第十期フランス戦姫隊隊長、アスカ・ライラット!並びに、第十期フランス戦姫隊副隊長、カリン・スプラッタ!両名に命じる!」



——————

空一面を埋め尽くす球体のネビー。

そのあまりの数の多さに弱音を吐きそうになるも、司令室での事を思い出し、槍を持つ手に一層力が入る。


《そうだ!今アスカ達は・・・。》


「ベル!とっとと終わらせて二人の元へ行くよ!!」

「がん・・ばる!」


勝たなくちゃ二人のためにも。


そう自分に言い聞かせながら。



——————

『アスカちゃんッ!アスカちゃんッ!!』


少女の声は届かない。目に光を失い、抜け殻になった彼女に届くすべはない。


少女を拘束していた触手の力が強まる。手足を縛られ、身動きが取れない少女の下半身に触手の魔の手が伸びる。


『いやッ!いやぁッ!』

「くっひっひ!」


少年が不敵な笑みを浮かべながら、少女の肢体に眠る秘境へと触手を伸ばす。

すると、太腿に到着したあたりで、なにやら液体が流れ落ちてくるのを感じた。


液体の出所を探るため視線を上に向けると、少女の肢体の頂に大きなシミを作る原因があった。

少年はなんのことか理解できず、液体に濡れた触手を自らの顔に近づけた。

すると、たちまち彼の鼻腔にわずかな芳香臭とアンモニアが立ち込めた。


さらに今度は上から少年に先ほどの液体が降り注いだ。

液体の正体に気づいた少年は、あまりの屈辱ぶりにわなないた。


「ボクの、ボクの顔が!顔がぁ!!」


触手を縮め、少女の身体を自分の腕が届くところまで移動させる。そして、


『ぐはッ!?』


少女の腹部を拳で殴りだした。


「このッ!このッ!よくもボクの顔を!!」

『お゛ぐッ!?』


計20発ほど殴り続けたとこで、少女の痛みに耐える声は聞こえなくなった。

触手から解放した少女がうつ伏せに倒れこむ。

少女にまだ息があることを確認し、触手の先端を性器と口に突っ込む。


「このメスガキが!身の程を知れ!!」


『うごッ!?ひぐッ!あ゛ッあ゛ッ!お゛っ!?』


身体を反らしながら、触手の動きに合わせてビクビクと震える幼体。

目に涙を溜め、悶え苦しむ少女の姿に、愉悦を感じる少年。


—————

「また泣いているのね。カリン。」

「う゛う゛ぅおねぇちゃん。」


「情けないわね!姉の私を見習いなさい!」

「おねえちゃみたいになんてムリだよぉ」


「ムリというのは噓つきの言葉よ。カリン」

「カリン嘘つきじゃないもん!」


「ならムリだなんて言わないことね。」

「う゛ぅ゛。でもぉおねぇちゃんみたいに強くなるにはどうすればいいの?」


「カリンはすでに充分強いわよ!」


「そんなことないよ。おねぇちゃんには負けてばっかりだもん。」


「まぁそれは当然ね!私は天才だから!」

「もう、それ自分で言うかなぁ。」


「ふふっ」

「へへ」


「「あははははははっは!」」


あまりに自信満々な姉の態度が可笑しくって、涙も忘れて大声で笑う。


「でもね、カリン。あなたはそんな私よりももっと強いわ」

「———。」


「カリンは私よりもすっごくすっごく凄いのよ!」


カリンは姉の、不器用ながらも真っすぐな誉め言葉に顔を少しだけ赤らめる。


「いずれはフランス隊を、いえ、世界を代表する戦姫になるのよ!」

「そんなぁ。むr」


「laferme(黙りなさい)!!」

カリンの否定の言葉をカリナが遮る。


「カリン。貴女は私の自慢の妹よ!だから、弱音を吐くことは許さないわ!!」

「はやく涙を止めなさい!じゃなきゃ夕飯のデザート、カリンの分も私が食べるわ!」


カリナの横暴とも言える態度が、カリンには彼女なりの不器用な優しさなのだと分かっていた。


「カリンッ!!!」


強くて優しい大好きな姉は、あの日、惨殺される仲間を見て、震えて動けずにいた私を庇って命を落とした。

年齢にして僅か12歳。フランス戦姫隊のホープとして隊の誰もが彼女に信頼を置いていた。


あの日以降カリンは、カリナが12歳の時に打ち立てた隊の最年少討伐記録を9歳で更新するなど、数々の戦果を揚げ、フランス戦姫隊の若きエースとして各国でもその名が知られる存在となった。


———

「ん゛ん゛ぅぅぅ~~!」

口からさっきの液体が侵入してくる。

アスカの腹を破裂させた攻撃だ。

カリンの抵抗は無駄に終わる。


みるみる膨張してゆく腹部。

死への恐怖と溢れ出す涙を堪え、心の中で詠唱を唱える。

自分の羽を一か所に収集、魔力を籠め形を作る。

《Joyeuse(ジョワユーズ)》


彼方まで灰色に覆われた背景に、大きな光の剣が顕現する。

瞬間、膨張しきった少女の腹に剣先が突き刺さる。


「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」


光を纏う大剣が少女の身体を貫くと同時に、枯れたうめき声が響いた。

ソレは痛みに悶える少女のモノではない。少女の腹の中から聞こえるようだった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


少女を侵していた液体は、大剣の光に当てられ、蒸発していった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


光が消え、灰色に戻る。


仰向けの少女の腹部には大量の赤羽が傷口を覆い隠すようにして積もっていく。


「ねぇ、おねぇちゃん。わたし上手くやれたのかなぁ?」

灰色の天を仰ぐ少女の顔は、晴れやかなものだった。

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片翼の戦姫 トサカザムライ @TK1115

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