第51話 友達2

俺は昨日のことをかいつまんで話した。

もちろん、ちょっと知られたくないなと思ったことは伏せて伝えたが、帰り際の柚希の様子についてだけは詳しく話した。


俺の話を聞き終わった日菜は、重々しい雰囲気をまとってこぼした。

「なるほどねぇ、やっぱりまだ立ち直ってなかったか…」

「立ち直ってない?何かあったの?」

聞き捨てならないフレーズが耳に残ったので、俺は尋ねる。


「あれ、知らなかった?柚希、高校入学してすぐにクラスでいじめみたいなことがあって、それで保健室登校になっちゃったんだよ。いじめる理由もすごい理不尽なものでさ。一方的な妬みだったんだよ?今でも私は許してない」

「え…」


知らなかった。

もちろん、保健室登校をすることになったのには何らかの理由があって、おそらくクラスでなじめなかったとか、人間関係で上手く行かないことがあったといったものだろうとは想像していたのだが、まさかいじめられていただなんて。

教室に行くこともできなくなるなんて、相当辛い思いをしたのだろう。

そのことを考えると、心臓をわしづかみにされた気分になる。


日菜の言葉の端々はしばしからは、友達を思う強い気持ちが感じられた。

そして今の彼女も俺と同じく、当時のことを想像し、いたたまれない気持ちになっているのだろう。眉間みけんにしわが寄っていた。


「最近の柚希は、当時のことを考えないようにするってことが少しずつだけどできてきて、この調子なら、期末テストは教室で受けられそうって言ってたんだよ。それにね」

そこまで言うと、日菜はポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。柚希との会話がそこには残されていた。


「南條君に勉強教えてもらってて、難しいところもあるけど頑張ってることは柚希から聞いてたし、日曜日だって、すっごい楽しみにしてたんだよ。でもなんで…」

俺の存在が、柚希に多少なりとも影響を与えているということが、日菜とのやり取りからは垣間見えた。


少しだけむずがゆい気持ちに包まれると同時に、何とも言えない申し訳なさが込み上げてきて、気が付けば俺は謝っていた。

「ごめん、なさい…古賀さんにそんな辛い過去があるなんて知らなかった。ううん、それも言い訳だ。なんか変だなとは思ったんだよ。でも、何もしてあげられなかった…ほんと、ごめん」

「南條君は悪くないよ。とりあえず今はそっとしておいて、また学校来てくれるの待とう」

「そうだね」

「呼び止めちゃってごめんね、私水泳部行かなきゃ、じゃあね!」

そう言って彼女は教室を出ていく。


部活に精を出すべく、教室から出ていく者。

教室に残って、友人とおしゃべりをする者。

各々が思い思いに放課後を過ごしている中、俺だけが波の中に取り残されたように、その場に突っ立っていた。

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