第21話 勉強、苦手なの…

かくして、勉強会が始まったはいいものの…

「え、わかんなーい」

「えぇ…」

この有様である。そう、この美少女、全然勉強ができない。やる気はあるのに、やる気に実力がついてきていないのだ。

「なんでこれで新たにkとかいう文字が出てくるわけ?何者?」

「それは、kを使ってこいつを表した方が都合がいいと言うか、わかりやすいからだよ」

「なにそれぇ、そんなんひらめきじゃん」

「うーん…まぁ、そういう側面もある、かな?」

とはいえ、数学が苦手というだけなのかもしれない。そうであってほしい。根気強く教えていこう。


その後も、数式と格闘を繰り広げる柚希を眺めたり、ちょろっと教えたりしていると、予鈴が鳴った。

「さて、広哉は午後の授業、行ってきな」

「はい。じゃ、お疲れ様」

「うん!」

そう言って俺は保健室を後にした。

去り際に柚希が見せた満面の笑みについて俺は少し考えてみた。

苦手な勉強した後に、なんであんなに笑顔なんだ?


教室に戻ると、まだそこは喧騒に包まれていた。

「お帰り広哉。今日はどうだった?」

席に着くなり、泰正がそう尋ねてくる。

「今日は数学をやったんだけど、あんまり得意じゃないみたい。泰正よりできてなかったかも」

「あれま、意外だな。広哉の話聞いてると美人でなんでもできそうな感じだけど。ギャップ萌えしちゃった?」

ふざけた様子でニヤけながらそう言う泰正の脇腹に、俺は弱っちいパンチをお見舞いしてやった。


午後の初っ端の授業は、言語文化、つまり古典の授業だった。昼食後にこんな授業を受ければ、誰しも眠くなるに決まっている。

泰正に至っては、授業開始3分で夢の中へ飛び立ってしまったようだった。

俺も、序盤こそは耐えていたものの、授業が始まって20分ほど経つと、急激な睡魔に襲われた。

眠気に身を任せ、俺は眠りの淵へ落ちて行った…


そこは色とりどりの花が咲き乱れる花畑だった。

そこに立つのは、白いワンピースを着た女の子。

心なしか、柚希に似ているような…

こちらを向いて笑顔で手を振っている。

俺もその子に手を伸ばす。

あと少し、あと少しで手が届く…


ふと肩に優しい衝撃を感じ、俺は目覚めることとなった。どうやら誰かが俺の肩を揺すっているらしい。

夢とは、本当にいいところで覚めてしまうものだ。


目を開けると、俺の左側に泰正が立っていた。

「お、やっと起きたか。まったく、寝てるくせに成績いい奴ほど、憎い者はいないぜ〜」

そんなことを言っている。

まだ脳の半分くらいしか目覚めていないのか、ぼんやりとする視界をどうにかしようと俺は目を擦った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る