第22話 視線
5,6時間目の授業をなんとか乗り切って、俺は放課後を迎えていた。
6時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、教室は放課後特有の、気だるさと開放感が入り混じった空気に包まれた。
俺は大きく伸びをして、帰る支度を始めた。今日は、というか、今日も写真部の活動はない。基本的に写真部は、部費や部旅行についての打ち合わせ以外に集まることはないため、休日や放課後に各自で撮りたいものを撮る、という活動形態だ。
「いやー、今日も頑張ったなぁ。広哉、明日から土日だぞ!土日!たまんねぇな」
「あ、そっか土日か。でも泰正昨日、土日は部活って言ってなかった?」
明日は土曜日だということをすっかり失念していたことを、泰正に言われて気づいた。
「うーわ、そうだった。土曜は練習で、日曜が先輩の引退試合なんだよ〜。でも日曜の午後は暇だろうからさ、どっかで飯でも食わねぇか?」
「あーいいね。13時くらいでいい?」
「おう、いいぜ。じゃ、俺は部活〜」
そう言って泰正は、大きなスポーツバッグを肩に引っ提げ、教室を出ていった。
日曜に楽しみな用事ができた。俺は土日は基本的に家でぐうたらしているか、どこかにふらっと出かけて写真を撮っているかの2択なので、ちょっとした用事があるのは暇で何もすることがないよりよっぽどいい。
真っ白なスケジュールが楽しみというインクに染まったような満足感を抱え、帰る支度をしていた俺だったが、突如として右側に悪寒を覚えた。
「なーんか、楽しそうじゃん」
理子だ…憎たらしいほどにニヤついた表情で、廊下からこちらを見ている。
「何の用ですか、指田先生」
「あら、急に楽しくなさそうな顔になるのね」
(誰のせいじゃ!)
そんなことを思うが、さすがにそんなことは言えない。俺は取り繕った笑みを浮かべ、
「いえ!そんなことないですよ!私に御用ですか?指田先生」
「うへぇ、なんか気持ち悪い…」
「おいごるぁ!」
たまらず俺は仮にも教員に対して全力のツッコミを入れてしまった。
「それで、何の用ですか?」
気を取り直して俺が尋ねると、理子はその口を開いた。
「柚希ちゃん帰ったんだけどさ、なんか、教えてもらったのに、全然できなくて申し訳ないみたいなこと言って帰ってったの。まさかとは思うけど、広哉、気にしてないよね?」
「当たり前じゃないですか。最初からできる人なんかいないよ。頼まれた以上、投げ出すつもりはありませんよ」
珍しく真面目に理子にそう言われた俺は、精一杯の言葉で返した。
「そっか、よかった安心したよ〜。じゃ、また来週もよろしく〜」
胸を撫で下ろした理子は、満足そうに帰っていった。
俺の心の中も、温かい気持ちで満たされていた。
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