第8話 放課後1

1時間目が始まる前は、今日も長い一日が始まった、6時間もある授業をどう乗り切ろうかと考えてしまうものだが、実際授業が始まってしまえば、案外短くはかないものである。


この日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、

「じゃ、ミーティング行ってくる」

「わかった」

そう言って颯爽と教室を出て行った泰正を見送り、俺は自分の机で持ってきた文庫本を開いた。


すると、廊下から女子たちの楽しそうな声が聞こえてきた。

「何それうける!あはははははは!」

「いやマジでないわー」

俺の席は、最も廊下側の列の、1番後ろに位置しているため、よく聞こえる。


女子たちが俺の教室の後ろのドアを通過した時、顔が見えた。学年によく知れ渡った顔であった。名前は確か、渡辺風香だったような。濃いメイクが施された顔は、男子の人気を集めそうで、実際、入学してからすでに10人以上から告白されていると言う噂を耳にしたことがある。


「てかさー、最近うちのクラスの古賀さんって子が学校来てなくてさー。」

「誰それー?」

「聞いたことなーい」

不意に風香が柚希の名前を出したので、俺は半分ほど文庫本に行っていた意識のほぼ全てをそちらに向けた。

「なんか入学式のあとから来なくなっちゃったんだけどさ、最近保健室登校してるらしいよ」

「なんじゃそりゃ、あはははは!」

俺は得体の知れない不快感、嫌悪感を覚えたが、彼女たちの声が遠くなってしまい、立ち上がることも、声をかけることも、できなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る