第2話 プロローグ2 〜治療〜

「失礼します」

扉を開けると、消毒液の強烈な匂いが鼻を突く。思わず顔をしかめた俺は、歩みを進め、保健室の左奥にある養護教諭の机を目指す。


そこには2つの顔があった。1つは見慣れた中年女性の顔、もう1つは、先輩だろうか、とても大人びている美人の顔だった。俺と同じ制服を着ているので、同じ高校の生徒だとわかるが、とても同学年には見えない。そんな彼女に一応目礼する。

「お、広哉じゃん。どうしたー?」

「体育の授業で転んじゃって」

「ありゃりゃ、結構傷でかいね、座ってー」


そう言って、俺に近くの長椅子に座るよう促したのは、この学校で養護教諭、つまりは保健室の先生を務める、指田理子さしだりこである。そして、この人こそが、俺がさっきまで保健室に入るのを躊躇ためらっていた理由そのものである。

「相変わらずドジっ子だねぇ、広哉ひろやは」

「やめてくださいよ」


俺の母親である南條美里と大学からの友人である理子は、俺が小さい頃はよく我が家にも遊びに(?)来た。俺のことを気に入っているのか、ちょうどいいからかいの対象と思っているのか定かではないが、俺を校内で見かけるたびに友人のように話しかけてくる。

そして、話したいだけ話した後に、鼻につく言葉を放って去っていくのだ。

「美里ちゃんは元気?最近会えてなくてさ」

「元気にしてますよ。今朝も俺がなかなか起きて来ないことにブチ切れてそのまま仕事に行きました。長生きしそうですよ」

「そっかそっか、何よりだね」

ふふっと愉快そうに笑いながらも、俺の足を慣れた手つきで手当てしていく。そこは流石に慣れているだけあるなと思わされる。


「はいっ、おしまい。もう転ぶなよー、女子の前でコケたらダサいぞー?」

「はいはい、気をつけますよ」

これまた一言余計だ。これ以上ここにいても、理子に何か言われかねないので、俺は教室に戻ろうと長椅子から腰を浮かした。

「ありがとうございました、帰ります」

「あ、ちょっと待って。君に紹介しておかないとね」

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