訳あって、保健室登校の美少女に勉強を教えることになりまして。

山代悠

プロローグ

第1話 プロローグ1 〜保健室〜

所々汚れた白い扉の前に俺は立つ。

銀のプレートに手をかけ、扉を引くと、鼻に飛び込んでくる消毒液の匂い。もうずいぶん嗅ぎ慣れて、以前のように顔をしかめるといったことはなくなった。

「やっほー、遅かったね」

丸椅子に腰掛け、こちらに控えめに手を振る美少女の名前は、古賀柚希こがゆずき。いわゆる、"保健室登校"をしている生徒だ。


同じ高校1年生とは思えない大人っぽい雰囲気と、抜群の容姿をの当たりにすれば、クラスにはすぐに馴染み、たくさんの友達に囲まれて、よく漫画や小説で見るような青春を送るのだろうと想像するのは難しくない。

そんな彼女が保健室登校をするに至った経緯を説明するには、少し昔話をしなければならない…


5月も半ばとなったある日。俺は保健室の扉の前に立っていた。


別に俺には保健室の周りを徘徊するとかいう、怪しい趣味があるわけでも、保健室にいった友人を見舞いに来たわけでもない。ただ単に4時間目の体育の授業中、ほどけた靴紐に足を取られ、転んでしまったからだ。特に理由がないなら、怪我の治療を早くしてもらいたい一心で、迷うことなく扉を開けるだろう。しかし、俺が扉を開けるのを戸惑うのには、ある理由があった。


その理由について考えを巡らせた際のストレスのせいかは知らないが、足の傷の痛みも強くなってきたので、俺は意を決して扉を開けた。


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