16話 警察
校門前でパトカーの音が止まってからも、しばらく警察は入ってこなかった。
イライラした教頭が玄関まで見に行こうかと校長に話していると、急にまたサイレン音がして、今度はその音が遠ざかって行く。
―――どう言うこと? 職員室にみんな揃っていること、知らないで帰っちゃったの?
しかし私の心配をよそに、すぐに二人の警官が校長室に入って来た。二十代後半の若い警官と、少し頭の薄くなった年配の警官だ。どうやら彼等は別のパトカーで来たようだ。
彼等に対し、校長先生がことの経緯を話す。私もさきほど先生達にした話を再度繰り返す。一通りの説明をメモを取りながら聞いていた若い方の警官は、白い手袋をはめると机の上に置かれた金庫と拳銃を物珍しそうに触ってみる。
「こんな金庫を取ろうとしたのか・・・」
確かに重厚そうな手提げ金庫ではあるが、学園祭で使用する金庫である。そんな大金が入っていないことは普通であれば予想がつきそうなものである。中には二~三枚の千円札とあとは小銭が何枚か入っているだけ。全部かき集めても一万円も入っていないはずだ。
「そしてこっちはオモチャの拳銃と・・・」
今度はゾンビ男が私に突きつけてきた拳銃を軽く掴む。私は触っていないが、どうやらあかりちゃんが言ってたようにオモチャの拳銃のようだ。
―――こんな拳銃と引き替えにアノ短刀を奪われるなんて・・・。
私は事件そのものよりも、短刀を失ったショックに改めて悔しさがこみ上げてくる。
「参考までにコレは預かって行きます」
機械的にそう言うと、若い警官は二つの物証を抱える。
「そう言えば
―――えっ!? 犯人、捕まったの!?
驚いたのはもちろん、私だけではない。教頭先生も真っ先に食って掛かるように警察に詰め寄る。
「ど、どこにいますか!? 犯人は誰です!?」
するとまあまあと教頭先生をなだめるように、年配の方の警官が教頭先生を軽く制すと、話し出す。
「今さっき、校門近くの路上で確保したところです」
「校門近くで・・・? 捕まったとおっしゃると・・・逃げていなかったんですか?」
「いや、逃げたらしいんですが、たまたま通り掛かった方が何人かで取り押さえたようです。まあ、市民に感謝ですな」
「じゃ、じゃあ・・・」
私は思わず横から口を出す。
「犯人は何か持ってませんでしたか? バッグとか包みとか・・・?」
「いや、特に何も持ってなかったようだったが・・・」
「ん? なんだ川島? ヤツは何か持って逃げたと言うのか?」
「あ、いえ・・・そう言うワケじゃあ・・・」
「じゃあ、なんでそんなことを聞くんだ?」
するとその年配の警官の目がギラリと光る。
「何か気がかりな点でもあるのかな?」
「いえ、別に・・・」
―――マズイ、ここで聞くとこではなかった。そんな後悔空しく、警察はしつこく聞いて来る。
「何か気になることがあったら言って下さい。彼は何か持って出ていったんですかな?」
―――どうしよう。やっぱり言わなくちゃならない? その時。
「は、犯人が出て行くときに叫んでたんです。何か金目のモノはないか、って。だから・・・そう、帰り際に廊下とか玄関とかで何か盗んだんじゃないかって!」
急に口を開いたあかりちゃんの一声に、みんなの視線が彼女に集まる。
「だから私も先輩も、何か学校のものとか取られてないかな、って心配になっちゃって」
えへへ、と頭を掻く素振りのあかりちゃん。この子、普段は天然だけど、頭の回転速すぎ!
「・・・なんだ、そう言うことか」
「それは心配ありません。彼は手ぶらでした。もっとも犯人の確保は別の者が行なったので、詳しくは知りませんがね。まあ、それもこれもすぐにハッキリするでしょう」
そう言うと、金庫を抱え直し、二人の警官は校長室を出て行った。
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