第3章 またまた事件です

14話 事件起きる

 ゾンビ君が口を開く。


川島玲かわしまれいだな?」


―――!? やっぱりこの人、学生じゃない!


 急に身構える私に構わず、少し苛立った様子で彼が続ける。


「短刀を渡してもらおうか」


―――短刀!? やっぱその筋の人!?


「な、なんなんですか!?」

「早くしろ! お前がいつも持ち歩いてるのは解ってる。人が来る前に大人しく出せ! さもないとこいつをぶっ放すぞ!!」


 そう言ってその右手に持った鉛の銃口をこちらに向けてくる。


―――この人、本気だ! この場合、どうすれば良いの・・・?


 間違いなく彼は『村雨錦むらさめにしき』を狙っている。と言うことは品田組関係の人だ。もしかして、キャンプ場に来た人? ゾンビの格好をしていて良く分からないが、背格好からして似ている気もする。


 私が短刀を渡さなかったらどうなるか? 多分、彼は容赦せずにその引き金を弾いてでも短刀を奪って行くだろう。

 

 私は一呼吸置くと、静かにその場にしゃがみ込んだ。足元のバッグの中にはが入っている。机の影に半分カラダを隠すようにしてバッグの中に手を入れる。


―――この間になんとかできないものか?


 そんな私の思いを打ち消すように、すでに彼は机の脇までやって来ていた。

「早くしろ!」


 斜め上からその銃口が私に向けられている。私に逆襲のチャンスはなさそうだ。

仕方なく、バッグの中から・・・アレを取り出す。

「早く寄越せ!」


 そう言うと、もどかしいとばかりに私の手から例のモノの入った包みを奪い取る。一瞬、それを確かめるように目をやるその男。仕方ない、命には替えられない。しかし・・・。


 再び私を睨みつけた男は残酷なひと言を発する。


「悪いがお前さんが生きていたんじゃ後々面倒なんでね。アンタに恨みはねえがここで消えてもらわないとな」


 そう言いながら眼下の私に向けた右手に力を込める。


―――やっぱりそう言うこと!!?


 私はしゃがみ込んだまま彼を見上げる。いつの間にか上げていた両手が勝手に震えている。

 男は拳銃を握った右手に力を入れながらニヤリと笑う。


―――ああ、終わったのね・・・。と、その時―――


「チェストーーーっ!!!」


 パーテーションの間から飛び出す一つの影! その影は一瞬で男に近付くとそのアゴに膝蹴りを喰らわす。思わず窓際に突き飛ばされる男! 窓際のイスが何脚か音を立てて倒れる。

 しかしこう言った場面に慣れているのか、その男はすぐに起き上がると体勢を整える。左手には私から奪った布袋、右手に構えていた拳銃は・・・突き飛ばされた拍子にパーテーション側まで投げ出されていたようだ。


 その間にもその飛び出してきた影・・・えっ!? あかりちゃん!?!?


 混乱する私を差し置いてそのあかりちゃんらしき『影』は扉に近付くとその閉められていたそのカギを開け、扉を全開にする。


「誰かーーっ! 助けて下さいーーーっ!!」


 廊下に向って大声で叫ぶ彼女。

 一方、立ち上がった男は、拳銃には目もくれず、布袋を持ったまま扉に向ってダッシュを決めると、そこに立っていたあかりちゃんを突き飛ばし、廊下に逃げて行く。


「きゃっ!」

 尻餅をつきながらも相変わらず大声で叫ぶあかりちゃん。

「そいつを捕まえて下さいーーっ!」



 ゾンビ男が出て行ったのを確認すると、すぐにあかりちゃんが近寄って来る。


「先輩! 大丈夫ですか!?」

「えっ、ああ・・・」


 驚いている私を尻目に、入り口からは何人かの生徒が飛び込んで来た。きっと叫び声を聞いて駆け付けたのだろう。


「川島、どうした!?」「玲、大丈夫!?」


 呆然とする私にあかりちゃんが手を差し伸べてくれる。


「これ、オモチャですかね」


 手には男が握っていた拳銃を握っている。


「えっ? オモチャ? ・・・」


 そこへ凛花も駆け付けて来た。

「大丈夫か玲!」

「あ、私は大丈夫。それより男は?」


 少し冷静になった私は今入って来たばかりの彼女に聞いてみる。


「わからん! 玄関の方が大騒ぎになっているみたいだから、そっちに逃げたんじゃねえか!」

 そう言うと珍しく神妙な顔で聞いて来る。


「それより本当にケガとかないのか?」

「ええ、大丈夫。それより・・・」

 私は自分のバッグを見下ろして口ごもる。


 その目線を追った凛花も、何かに感づいたようで言いかけた言葉を飲み込む。


 いつの間にか図書室の文芸部スペースは人で埋め尽くされていた。生徒に混じって先生の顔も見える。中でも教頭先生は引きつった顔で私を見つめて「何があったんだ」と迫って来る。


―――さて、どこをどう話したら良いかしら?


 私は自分を落ち着かせようと深呼吸をした。

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