13話 ゾンビ君

 お昼休憩を終えた私は、急いで図書室に向っていた。ミズキちゃんとの交替時間が過ぎてしまっている。

 それもこれも凛花りんかがくだらないクイズを出してきたりするからだ。その推理クイズとやらには正解したものの、私は何やら彼女にバカにされたようで釈然としていなかった。

 

 特別棟への渡り廊下を渡りきると、相変わらずトイレの角に例のゾンビ君が首からプラカードを下げて立っている。


「お疲れ様です!」

「ギ、ギギーッ。」

 私の走りながらの挨拶にそう答えるゾンビ君。本当にゾンビの鳴き声ってあんな感じなのかしら? そんなことを考えながら図書室の扉を開くと中から元気な声が飛んできた。ミズキちゃんだ。


「あっ、遅いですよせんぱーい!」

「ごめんねー! 少し遅れちゃったわね」


 時計はすでに一時を少し回っている。朝から『お昼はメイド喫茶に行くんだ』とハリキっていた彼女はきっと待ちくたびれたのだろう。


「じゃ、私休憩入りますね!」

「あ、うん! 喫茶、少し空き始めたから座れると思うわよ」

「わーい、やったー! じゃ、先輩、あとお願いします!」


 そう元気のよい声で言うと手荷物を持って飛び出して行く素振り。


「あっ、そう言えば先輩・・・」

『ちょっとミズキ、遅いわよー!』

 ミズキちゃんが何か言いかけたところで女子生徒が扉の外から彼女に声を掛ける。きっと彼女を迎えに来たのだろう。


「あっ、ゴメン! 今行く!」


 慌てて扉方向に振り返ると、私に軽く頭を下げて出て行くミズキちゃん。

 うふふっ! そんなに急がなくてもいいのにね。あの様子じゃ相当楽しみにしていたのね『愛のポーション入りサンド』。


 彼女が出て行くと私は自分の持ち場に着き、今までの売上を確認する。


 新刊が六冊、既刊が五冊・・・。まあまあかしらね。

 続いて飲料の在庫をチェックだ。その場にしゃがみ込むと、舞子まいこちゃんが持って来てくれたクーラーボックスの中をチェックする。そこにはコーラやスポドリなどの飲料がまだ沢山残っていた。

 どうやらこっちも足りそうね。お釣りもまだ大丈夫そうだし・・・。

その時―――


 かがんだまま、ふと物音に気付き顔を上げる。機関誌が積まれた机越し、扉を入ってすぐの場所に、例のゾンビ君が立っていた。


―――わっ! 気付かなかったわ。


 あわてて腰を上げると営業スマイルを彼に向ける。


「いらっしゃいませー! ・・・ってもしかして休憩タイムですか?」

「ギ、ギギッ! ・・・」


 相変わらず発するのはゾンビの鳴き声だ。そこまで役に入りきるとは! 私は可笑しく思いながら、手元の機関誌を揃え始める。と、その時―――。


『カチッ!!』

―――ん? その音に再び顔を上げる。その目線の先、こちらに背を向け、ゾンビ君が扉にカギを閉める音、その音だったようだ。


―――えっ!?

 戸惑っている私に向かい、足早に近寄るゾンビ君。その右手には・・・黒く輝く鉛のような物体、あれは・・・拳銃!??


 これもお化け屋敷のアイテム? ち、違うわよね・・・!?

 静まりかえった図書室、私は息を吸い込んだまま動けないでいる。

 するとついにゾンビ君が人間の言葉を喋った。

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