12話 愛のポーション
お昼時のわがクラスは大盛況だった。
二年七組の出し物は『
何やらまぜこぜになったお題目だが、要するに男子がメイドになってサンドイッチ(ウイッチ?)を振る舞う、と言うありがちな内容だ。
そしてその一番人気は『ハムサンド 愛のポーション入り』一個二百円也!
文芸部の方はミズキちゃんに任せ、お昼休憩を取った私は自分のクラスに来ていた。唯一空いていた廊下側の席、そこのに着くとさっそく近くの男子に注文をする。
「ねえ
「あ、
「うん。悪いわね、ココの当番、免除させてもらって」
そう、私を始め各部活で催し物のある生徒は、特別にクラスでの役割が免除されている。
そうは言ってもこの繁盛振りと慌ただしく動き回るクラスメイトを見ていると罪悪感に苛まれてしまう。
「全然大丈夫だよ。それに今年は男子が主役だからな」
そう言って足早にオーダー係のところへ走って行く根岸君。なんか悪いなあ。私がその後ろ姿を追いかけていると突然、大きな声とともに肩を叩かれる。
「お疲れい! カツカレー!」
「いった~っ、何よ!」
見上げると
「休憩か?」
「そうよ。あなたは? 広報活動しなくていいの?」
「あ、オレ? ちゃんとやってるさ。そんで今は休憩中」
「・・・とかなんとか言って、あなた朝からずっと休憩してない?」
「そんなことねえよ。それに宣伝しなくてもこんだけ流行ってるんだ。これ以上繁盛したら
見ると
「それよりさ、玲にクイズがあるんだけど解いてみるか?」
「クイズ?」
「そ、推理クイズ」
彼女のいつもの
「で、問題ってなんなの?」
「おう! ヤル気になったか」
そう言うと凛花は手にしたぬいぐるみを机の上に置く。
「このぬいぐるみ、ある条件を満たすと一年六組の
そう言うと手にしたぬいぐるみの頭をちょいちょいと
「貰えなかったって言ってあなた、現に持ってるじゃないのよ」
「ああ、これか? これはアレだ。オレが貰えなくてガッカリしてたら優子がくれたんだ」
「? ひょっとしてあなた、貰えなくてダダこねたんじゃないの?」
「そんなことねーよ。ただオレは機械に
「・・・・」
―――要するに貰えなかった腹いせに文句を
「どうだ、わかるかコノ問題?」
「あのね、いくらなんでもそれだけで解るわけないでしょ! そもそもぬいぐるみを貰うことと、機械に詳いのがどう関係してくるのよ」
「くぅ~鋭い! じゃあ説明すっからな」
私は段々相手をするのが馬鹿らしくなってきていたが、凛花は勝手に説明を始めてしまう。まあ、取りあえず話だけでも聞いてあげようかしらね。
「まずな、このぬいぐるみを貰える条件、それが一年六組のインスタの『動画』をスクショして見せるってのが引き換えの条件だったんだ」
「うん、それで?」
「それでな、その二十秒弱の動画の中で二秒ずつ画面が止まって「一」「の」「六」って三つの文字が現れるんだよ」
「うん」
「その瞬間の写メを三枚撮って見せれば良かったんだが・・・」
「凛花にはできなかったの?」
「そう」
「優子はできたの?」
「ああ、優子や
「それって同じ一年六組のアカウントなの?」
「ああ、間違いない。『公式の』一年六組のインスタのアカウントだ。それに生徒会に聞いたらちゃんと動画が流れているのは確認した、と言い張る。だから優子や萌絵がオレをだまそうとしているわけでもない」
「優子たち、ウソは言ってないのね?」
「ああ、言ってない。そんで生徒会の言うことも本当だったらしい」
「優子と萌絵が見たインスタにはその動画が流れていて、凛花が見た動画には流れていない、と」
「ちなみにヒントだけど、玲が今インスタを見てもその動画には流れて来ないはず。これが大ヒントだ」
そう言うと彼女は挑発的な目で私を見下ろす。
―――う~ん、もしかしてそれって『インスタの何の動画か』って言うオチかしら? でもそんな事をわざわざ得意げに問題にするなんて・・・。イマドキのJKが、しかも自称『JK探偵』がこんな知識量で良いのだろうか。
しかし彼女は勝ち誇ったかのように得意そうな表情で腕を組んでいる。
「まあ、一応制限時間は・・・そうだな、玲のサンドイッチが来るまで・・・」
―――ふぅ~・・・。私は心の中でだけ呟く。
「わかったわ、その『謎』」
「へっ? もう?」
「ええ、たぶん」
私は彼女の手からそのぬいぐるみを奪うと、優しく撫でながら言った。
「同じインスタの動画でも優子と萌絵が見たのは丸一日で動画が消える『ストーリー』、凛花が見たのはずっと残る『リール』もしくは『ハイライト』、タイムサービス感を出すためか何かで、ストーリー以外の動画ではその部分がカットされたのが載っている、そう言うオチでしょ」
「えっ? なんで解った?」
―――逆になんで解らないと思った? ノドまで出掛かった声を飲み込む。
「凛花、あなたもう少しだけイマドキのITも勉強した方がいいわよ」
「チッ! そんな常識的なことなのかよ」
「ええ、かなり常識的かもね」
その時、真冬君がサンドイッチを手にやって来た。
「川島さん、お待ちどうさでした!!」
「あ、ありがとう!」
春のパン祭りのような白いお皿に、何の
「じゃあ、行くね~『サンドイッチ、美味しくな~れ~、
―――ま、真冬君・・・。こ、これが愛のポーション!!!
するとすかさず凛花が私の顔色を
「なんだ玲、な~に赤くなってんだよ?」
「あ、赤くなんてなってないわよ!」
「まあ、アレだな、玲ももっと男女交際について勉強した方がいいな」
「何よ、あなたに言われたくないわよ!」
思わず大きな声を出した私を、真冬君が優しく見つめていた。
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