11話 ミズキの時計
文芸部の・・・正確には図書室のドアが開いて少しチャラそうな男子が入って来た。よその学校の生徒かしら。耳から下げたピアスが眩しい。
「あ、
すかさずその彼に近付くミズキ。友人なのだろうか、彼女はすかさずその男子の右腕を
「
「あ、こんにちは!」
「どうも・・・直哉っす・・・」
そう挨拶すると落ち着かない様子で教室内を見渡す彼氏。
「そんでこっちが
「あ、どうも」
「どうもっす」
続いて凛花への紹介を終えると、ミズキちゃんは機関誌が積まれた山の方へ彼を引っ張っていく。重心は残したままでミズキちゃんに引っ張られて行く彼氏。
「ねえ直哉、この雑誌に私の小説が載ってるの! 前にも言ったエイリアンと地球人が恋をする話なんだけどね・・・」
必死に自らの作品のPRをするミズキちゃん。対して彼氏はあまり興味がないのか、数年前の機関誌の表紙を横目で眺めている。
「ちっ、なんだよイチャイチャしやがって・・・」
「こら、凛花!」
すかさず文句を言う凛花。確かに彼女の言うように、一応先輩である私たちの目の前でこう遠慮なく仲良くできるなんてね。一年しか違わないミズキちゃんがとてもイマドキの子に思える。私も歳を取ったのかしら?
「ねえねえ、玲先輩! これ見て下さいよ!」
そんな私にミズキちゃんが見せてきたのは、彼氏の左腕にはめられた腕時計だ。
「これ、六月の彼の誕プレにミズキが買ってあげたヤツなの! どうです、可愛くないですか~!?」
グイ、と差し出された文字盤の大きなアナログ腕時計。流行りのキャラクター『ちびかわ』がモノトーンになって、すこしレトロチックに微笑んでいる。ちゃんと日付と曜日の表示まである。
「まあ、カワイイわね。ミズキちゃんが選んだの?」
「はい、ネットで見て買ったんですけど、直哉も喜んでくれて! ね!?」
「あ、う、うん、もちろん! 嬉しくてずっと肌身離さずなんっすよ」
そう言うと彼はその時計を私と凛花に交互に見せる。
「ふ~ん・・・。高かったんじゃないのか」
そう凛花が薄めに反応する。一応彼女も社交辞令と言う言葉は知っているらしい。
「はい! バイト代一ヶ月分、投入しちゃいまいしたー! な~んて! でもあれからずっと着けてくれてると思うと嬉しくて!」
「ああ、六月からだからもう百日以上、肌身離さずだよ」
「わぁ、嬉しい~~! ねえ直哉『
「ああ、そうだな・・・」
「ね、玲先輩。少しだけ・・・二十分だけ! この通りです!!」
そう言って両手で私を
「わかったわ。ちゃんと戻ってくるのよ」
「やったー、先輩、恩に着ます! さ、行こ行こ!」
そう言うと先ほどと同様、彼氏の腕を掴むとさっさと図書室を出て行ってしまう。
「ミズキちゃん、楽しそうでいいわね」
「ふん! どうせすぐに別れんだろ」
「ちょっと! なんてこと言うのよ。今が一番楽しい時期なのよ、きっと」
「まあミズキにとってはな」
「何やきもち焼いてんのよ。そんなの彼氏さんだって幸せに決まってるでしょ」
「ちっちっちっ! 甘いな~玲は。あいつらは長続きしないね」
「どうしてそんなこと解るのよ。あなた、ひょっとしてひがんでる?」
「そうじゃないさ。まあ、少なくても彼氏の方はウソを言ってる」
「ウソ? もしかしてあなた、探偵モードに入った? ウソなんて付いてないわよ」
私は少し呆れた風に受け応える。
「さあ、どうかな。玲には解らないのかよ、彼氏の付いたウソがよ」
「ウソも何も、彼氏、ほとんど喋ってなかったじゃない。腕時計が嬉しかった、ずっと着けてる、って言ったくらいで」
「はい、うそ~!」
「ん? ずっと着けてるってことが? そりゃあ、『ずっと』って言ったってお風呂に入る時とかは外すでしょうよ」
「ああ、そうじゃねえんだな」
「じゃあ何よ?」
「アイツ、『百日以上ずっと付けてる』って言ってただろ?」
「ええ、確かに言ったわ。・・・だからずっとって言うのは言葉のアヤで・・・」
「じゃあなんで日付が直ってないんだ? 今日は七日、ヤツの腕時計の日付は六日だった」
「ん? それってどう言うことよ?」
「だからよ、アナログの腕時計って時刻も日付も勝手に進むけど、大の月、小の月の対応は自分でやらなくちゃならないのも多い。ヤツが時計を贈られたのは六月、いわゆる小の月だ。七月一日には日付を手動で一日進めないと、文字盤の日付は三十一日になっていたはず」
「ああ、そっか」
「要するに彼はアノ時計なんてしてなかったんだよ。毎日腕に付けてる時計の日付が、二ヶ月以上もの間違っていればさすがに気付いて直すだろうからよ」
「言われれば! じゃあ、彼が言ってることは・・・」
「ああ、少なくともずっと着けていた、ってのは大嘘だな」
確かに凛花の言うとおり、日付を直さないで付け続けるのは不自然だ。彼はウソを言っているのかもしれない。
「でもそれだけですぐ別れる、とか長続きしない、とか言い過ぎよ」
「はいはい。後輩の幸せを祈りましょうね、理解ある先輩!」
そう言って私の肩を軽く叩くと、窓辺の席に座り、さして興味もないであろう機関誌を眺め始めた。
―――あなた、いったいいつまでココで油売る気なの?
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