10話 柳都祭開幕!

 一旦、教室に集まった私たちはショートホームルームのあと、それぞれの持ち場に向うことになった。あと一時間ほどで柳都祭りゅうとさいが始まるのだ。

 半数近くの生徒はこの教室で行なわれる催し物『ぎゃくメイドカフェ』の開店準備に取りかかる。そんな中、申し訳なく思いながらも私は一人、教室を後にした。


 図書室には早くも舞子まいこちゃんが来ていた。開始してからは手伝えないから、せめて準備だけはちゃんとやろうと言う彼女の真面目さが表れている。

 すでに並べられた機関誌の机の内側、真剣にクーラーボックスの飲み物のチェックをしているようだ。


「おはよう、舞子ちゃん!」

「あっ、先輩。おはようございます」

「あら、イスもみんな並べてくれたのね。ごめんね、全部やらせちゃって」

「いいえ、私こそ手伝えなくてすみません」

「いいのよ。それより舞子ちゃんも縁日屋台えんにちやたい、頑張ってね!」

「はい! あっ、飲み物ってオール五十円で良かったですよね」

「ええ、そうね」

「じゃあ、ホワイトボードに書いておきますね」


 図書事務室から借りてきたホワイトボード、

『文芸部へようこそ! 機関誌「やなぎの下で 新刊百円 既刊五十円』

 その下にペンで書き加える。

『ドリンクありま~す♡ 全品五十円~☆』

―――うんうん、盛り上がって来たわね!


 そこへ扉が開いて、ミズキちゃん、その後を追うかのように凛花りんかが入って来た。


「ミズキちゃん、今日は頑張ろうね!」

「はい、任せて下さい!!」

「おう、任せろ!」

「・・・って、なんでアンタがいるのよ」


 私は当然のような顔をしてイスに腰掛ける凛花に尋ねる。


「いいじゃんか。教室にいてもヒマなんだよ」

「ヒマってあなた、広報でしょ! 人集めはどうなったのよ」

「ああ、もう少ししたらやるよ。その前に少し休ませてくれよ」

「休むって今学校に来たばかりでしょ」


 そう言う私の話を無視すると、積まれていた機関誌に手を伸ばす。


「これが例の雑誌ねえ・・・なになに、『美術室の殺人』?・・・」

「もう!」


 私は親友を無視してお釣りに使う小銭のチェックを始める。


「あっ、みませんけど私、そろそろ戻りますね」


 時計を確認した舞子ちゃんが私たちに言う。


「うん、頑張ってね!」

「後で私も遊びに行くから!」


 ミズキちゃんも手を振る。

 その時、九時半のチャイムが鳴った。いよいよ柳都祭の幕開けだ。


***


 開場時間になった。きっと生徒玄関は近隣の住民や他の学校の生徒などであふれかえっているだろう。その人の波がここまで到達するのは果たしていつ頃になるだろうか。


 広々とした図書室はパーテーションでその三分の二を隠してもまだ広かった。その中にたたずむのは三人のJK、文芸部のミズキちゃんと私、そしていまだサボリ中の凛花だ。


「しっかし、こんな奥地まで人は来るんかねえ」

「奥地って何よ! ちゃんと来るに決まってるでしょ」

「そうです、ちゃんと来てくれますよ」


 ほぼ初対面のミズキちゃんにまで反論されて、仕方なしに凛花はまたも機関誌に目を落とす。まあ、大人しくしてくれていればそれでいいか。


***


 開場からしばらくすると外の様子が騒がしくなって来た。きっと高倉たかくら先輩の独演会どくえんかいを聴きに来た人たちだろう。


 扉を開けて廊下の様子を見てみると、三つ先にある音楽室の前だけが賑わっていた。やはり高倉先輩目当てのようだ。その他には階段脇にゾンビの格好をした男子がプラカードを持って立っている。おそらく三年生の催し物『殺戮さつりくの教室』の呼び込みだろう。高倉先輩の演奏後に、そこでのお客さんをゴッソリと誘導しようとの算段だろうか。


「しっかし、誰も来ねえなあ」


 振り返ると『読書』に飽きたのか凛花が両手を伸ばして大あくびしている。開始から二十分、お客さんはかおるこ先生が今年の機関誌を買いに来ただけだ。


「もうそろそろ来てくれても良いんですけどね・・・」


 ミズキちゃんも少し不安げな表情だ。

 その時、私が閉めたばかりの扉が開いて一人の男子が入って来た。

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