3話 お昼休み

「しかし猫も杓子しゃくしも学園祭一色だな」


 お昼休み、お弁当を食べ終わった凛花りんかは私の机に頬杖を付きながらクラス中を眺める。


 確かに最近はクラスの催し物や各所属部の発表の準備などで、みんな忙しそうだ。


 そう言う私も今日はようやくまとまった部員からの原稿を元に、学園祭で販売する機関誌きかんしの印刷をしなければならない。


 部員三人が書いた小説。私はミステリー、あとの二人は異世界モノと恋愛モノと言うバラエティーに飛んだ・・・悪く言えばごった煮的な一冊になりそうだ。その活動で放課後は忙しいと言ったことに対してのひと言が冒頭の凛花のつぶやきにも繋がっている。


「そう言う凛花も何か役割があるんでしょ?」

「ああオレか? オレはアレだ、チンドン屋だ」

「チンドン屋?」

「ああ、例のプラカードを持って構内中をうろつくやつ」

「うろつくってあなた。要は広報こうほう係でしょ」

「まあ、そんな感じだな・・・」

 どうもこの美少女は学園祭なるものに興味がないらしい。


広報係こうほうがかり―――

 わが柳都祭りゅうとさいでは、各クラスや各部活でそれぞれの催し物がある。その教室や開催場所にお客さんを呼び込むために、プラカードなどを持って宣伝を行なう。生徒玄関に立ってPRする者、構内中を練り歩いて来場を呼びかける者、はたまた『夜の街』さながらにその会場の入り口で呼び込みを行なう者・・・。今年の凛花の役割はその係らしい。

 まあ、確かに凛花には少し地味な役どころである感は否めないが。


「もう少しヤル気を出したら? 広報だって大事な仕事なんだから」

「ふぇ~そうかね。こんなガキっぽいことを必死にやれるヤツの気が知れないね」

「悪かったわね『ガキっぽいこと』で」

「あ、いやいやれいのは立派さ。なんたってオレの活躍がベースのミステリーなんだからよ」

「別にあなただけが活躍した話じゃないけどね」


 私の描いたミステリー。その内容はこの七月に校内で起こった暴力事件をベースに匿名性を持たせ、アレンジを加えて描き上げたものだ。その中には確かに凛花をモデルとしたJK探偵が登場する。


「あ~あ、太刀川たちかわのヤツあんな大声で指示出して。なに張り切ってんだか」


 そんな凛花の視線の先、教室の一番前に立った太刀川は真冬君はじめ、クラスのスタッフたちにしきりにげきを飛ばしている。


飯島いいじまさんの容体が落ち着いたから、安心したのもあるのかもね」

「かもな」


 またもやそう興味なさそうに頷く凛花。しかし「飯島さん」と言うワードに反応したのかすぐさま顔をこちらに向けると急に目を輝かせて話しかけてくる。


「そう言や飯島の件って言えばよ」

「なによ」

「あの夜、玲に話しかけてきたヤツは結局なんだったんだ? 先回の一件は浅見あさみが犯人でヤツは関係してなかったんだろ?」

「えっ、あ、そ、そうね・・・」

「それに確か管理人の菅野かんのさんの話じゃ、夕方キャンプ場に来て、深夜にはすぐに帰っていったんだろ? アヤシ過ぎないか?」

「そ、そうよね・・・」


 私はあの夜の事を思い出していた。そう、あれから約半月、この事を思い返すのは何度目だろう。つい先日もおじいちゃんや真田さなださんの前でも話したばかりだ。


 下を向く私に向かって小首を傾げながら凛花が聞いてくる。


「なあれい、オレになんか隠してないか?」


―――えっ!? 凛花ってこんなに鋭かったっけ? 表情に出てた??


 内心、焦っている私に彼女は続ける。


「あーあ、図星ずぼしか。残念だよな~」

「残念・・・?」

「あーそうだよ、残念だよ! オレと玲は何でもハラを割って話せる仲だと思ってたのによ。そう思ってたのはオレだけだったようだな。あーあ、残念残念!」

「ちょ、勝手に決めつけないでよ! それにもし隠し事があったって別にいいじゃない。いくら仲が良くたって話せないことだってあるわよね!」

「ん? そっかなぁ? オレにはないけどなあ・・・?」

「・・・・。」


―――そうね、直球ストレート少女のあなたにはないのかもしれないわね。


「そんじゃあ玲、オレ飲み物でも買ってくるからまたな!」


 そう言って席を立とうとする凛花。たった今、水筒の飲み物を飲んでいたばかりなのに。

 私は慌ててそれを制する。


「ちょっと待ってよ!」

「あん? なに? 話す気になったか!?」


 急に目を輝かせて浮かせた腰を戻す彼女。


 そうだ、この先も凛花とはずっと一緒にいるだろう。だとしたら確かに彼女には話しておいた方が良いかも知れない。彼女の言うとおり私たちは家族も同様の仲、それになにより私と一緒にいることで彼女に災いが降りかからないよう、用心しておいてもらうに越したことはない。


「もう! 誰にも言わないでよね!」


 そうクギを刺すと、私はあまり言いたくはない昔話を彼女に聞かせることにした。

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