2話 夏休み明けの教室
九月に入っても今年の夏はまだまだ元気いっぱいだ。
エアコン全開の教室も、夜中に溜まった生暖かい空気がなかなか退散してくれない。
私は自分の席に着くと早速一時間目の用意を始める。そんな私に、少し遅れて登校して来た
「しかしいつになったら涼しくなるのかね。このまま永遠に夏が続くんじゃねえか」
「そうね、今年はいつまでも暑いわね」
なんでも今年の夏は各地で観測史上一番の連続猛暑日を記録したらしい。その暑さは今月に入っても続いている。下敷きをうちわ代わりにした凛花も、その自慢の黒髪が喉元にへばり付いている。
そんな私たちから遅れること十分、今度は
「よっ」
「あ、おはよう!」
「おう! ん?
「ああ、アイツか。あいつはこのところずっと創作活動に没頭している」
そう言いながら彼は真冬君の席に目をやる。
「創作活動? 何を作ってんだよ?」
「よくわからねえけど、なんか模型造りに必死みたいだな。あんなの何が面白いんだか」
「模型?」
「ああ、そうさ。夏休み前に美術教室に色々入っただろ、レーザーカッターとか3Dプリンターとか。それに夢中になってんだよ。アイツも意外と『オタク』だよな」
―――ゲームオタクのあなたがそれ言う? まあいい。
「なんでもな、今週の
「別に暗くはねーだろ」
「でも意外ね。真冬君にそんな趣味があるなんて知らなかったわ」
「ん? 何だよ玲、真冬の意外な一面を知って惚れ直したとか?」
急にまた凛花がイタズラっぽく聞いて来る。
「もう! そんなんじゃないわよ」
「惚れ直すってなんだ? まあそれより意外って言えばよ、そこの機械を管理してんのはかおるこなんだとよ。あんな文学オバサンが機械のことなんて解るのかね」
相変わらず太刀川が無神経な言葉をチョイスして行く。だからそう言うところよ! もっとも私はかおるこ先生のITスキルの高さをある程度知っているので、驚きはしないが。
そんな事を思っていると、急に凛花が話題を変える。
「それより太刀川、
「ああ、ピンピンしてるよ。もっともいまだに警察とかがアレコレ聞きに来てるみたいだから、ハッキリ決着が付くまでは忙しそうけだどな」
彼の叔父さん、
浅見に後頭部を殴られ、一時は意識がなかった飯島さんだったが、その二日後に無事意識を取り戻した。その後、奇跡的な回復を見せた彼は、事件当時のこともおぼろげながら覚えていたらしい。彼の証言やそれまで出揃っていた証拠品などから、友人の浅見の犯行と判明したのだ。
事件の詳細について、ここでは
まあ、それはそれとして・・・。
「まあ、何にせよ飯島さんが無事で良かったな」
「ああ。なんかお前たちも色々協力してくれたみたいでありがとうな」
―――おお珍しい! あの太刀川がお礼を言うなんて。
同じく物珍しそうな顔で彼を見つめる凛花。そこになにやらカラフルなプレートのようなモノを持って真冬君がやって来た。
「みんなおはよう」
「おう」「おはよう」
「なんだ真冬、また朝から作ってたのか?」
「あ、これ? うん、今回ウチのクラスで使う看板だよ」
そう言う彼のそのプレートには鮮やかな
そう、今週末にある我が学園の文化祭、通称『
私たち二年七組の催し物は男子生徒がメイドとなってお客様をおもてなしする『逆メイド喫茶』だ。そのプレートを作っていたのだろう。
「わあキレイね! これ真冬君が作ったの?」
「うん、3Dプリンターで文字を作ってね。あとこっちはレーザーカッターで作った木のプレートだよ」
そう言って今度は木の板に同じ文句を掘り刻んであるプレートを差し出してくる。
「すごいな真冬! よくこんなの作れるな!」
「いや、まだ思い通りに行かないんだけどね・・・」
凛花の言葉に顔を赤らめながらも嬉しそうな真冬君。
「まあ、それなりにはできてるんじゃね」
負け惜しみだろうか、太刀川は彼を
「今度、オレも何か作ってもらおうかな」
無邪気に凛花が言う。それに対し、更に赤面しながらも「うん、何でも作るから言ってよ」と目を輝かせながら答える真冬君。純朴なその瞳が眩し過ぎる! それに引き換え・・・。
「おう、真冬! 俺にも何んか作れよ!」
「え、あ、太刀川君も何か作って欲しいモノあるの?」
「ふんっ! どうせオマエ『美少女フィギュア』とか作らせるつもりだろ」
「ば、ばか言えー・・・」一瞬で真冬君以上に顔を赤くする太刀川。どうやらビンゴだったらしい。
太刀川が更に何か言おうとしたところで先生が入って来た。
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