31話 新学期

 新学期が始まった。

 日焼けしたどの顔も、この夏休みが有意義だったことを物語っている。


 そんな中、季節外れな色白の美少年が私たちの隣に腰掛ける。


「市之瀬さん、川島さん、この間はどうもありがとう」

「ああ、真冬君。先日はお疲れ様!」

「ってかお前、いつまでも白いな」

「ちょっと凛花! 『美白』って言いなさいよ」

「おっと! なんで玲が怒るんだ?」

「えっ? お、怒ってなんてないでしょ・・・」

「はは・・・」


 私たちのやり取りに思わず笑みがこぼれる真冬君。


「ところでよ、飯島さん、助かったらしいな」


 太刀川から私たちのところに、飯島さんが無事意識を取り戻したと言うメールが届いたのは一週間前のことだ。その後、奇跡的な回復を見せた飯島さん、今日はそんな彼がめでたく退院する日だ。


「うん、良かったよ無事で!」


 真冬君が急に満面の笑みで答える。


「だよな、一時はどうなるかと思ったけどよ」

「川島さんが救急車を呼ぶようにって迅速に指示してくれたもんね」


 そう言って彼はキラキラした大きな目で私を見つめる。


「わ、私は別に・・・誰でもアノ状況だったら救急車を呼ぶだろうし・・・」

「ん? 玲、なんか赤くなってねーか?」

「な、なんでよ。別に赤くなってなんてないわよ。日焼け・・・そうよキャンプ行って焼けしちゃったのよ」

「へえ~、あれだけ日焼け止め塗りまくってたのに? 玲だけが? ふ~ん・・・」

「なによ!」

「いや別に」ニヤリとする凛花。なんか面白くない。


 私は机の上に乗っていた消しゴムを彼女に投げつける。


「あっ、出た! 玲のテレ隠し暴力!」


 そんなじゃれ合う私たちに真冬君が言う。


「それで太刀川君ね、今日は飯島さんの退院に付き添うから学校休むんだって」

「え?」「はぁ?」


 組み合っていた私たちはキョトンとして真冬君を見る。


「叔父さんの退院においっ子が付き添うかフツー?」

「・・・まあ、それだけ仲が良いってことよ」

「確かに。なんだかんだでアノ二人、似ているのかもな。女好きなトコとか」


 すこし蔑んだ目で凛花が言う。


「飯島さんはともかく、太刀川君はだいぶ変ったと思うけどね」


 私は一応、彼をフォローする。


「うん、太刀川君、だいぶ変ったよ。なんか好きな人ができたみたいだし」


 またもや真冬君がキラキラまなこで話に加わる。

―――太刀川の好きな人?? 恋愛勇者の若菜さんに言わせるとそれは・・・。


「まあ、取りあえずはめでたしめでたしだな」

「うん、そうだね」


 目の前で笑い合っている凛花と真冬君。二人にとっても衝撃的ではあったが忘れられない夏休みとなったであろう。

 そして私にとっても・・・。


***


 A棟に宿泊していた山崎と名乗る男性。

 お風呂上がりに私の腕を掴もうとしてきたあの男だ。

 彼はやはり今回の事件には関係していないようだ。

 と言う事はやはり、彼のターゲットはこの私と言うことになる。


 何故彼は私があの日あのキャンプ場に居ることを知っていたのか?

 私がキャンプに行く事は誰も知らないはず。クラスの誰にも今回のことは言っていないし。

 ん? クラスの―――?


 一件落着し、安堵している凛花たちのそばで、私は自分の身に迫り来る危険をひしひしと感じていた。





――― File.3 名探偵 初めてのキャンプに浮かれる 解決!?

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