28話 雪乃さんのアパート
私たちが太刀川の家から再び図書室に戻った頃には、とっくにお昼を過ぎていた。
おなかをググーッと鳴らしながらも、凛花はかおるこ先生が開いたPCを左の席から覗き込んでいる。私も右側に座ると身を乗り出してその画面を眺める。IT関係に明るいと言うかおるこ先生だけに、よどみのないその操作に見とれてしまう。
「もっとボリューム上げるわね」
かおるこ先生がタッチパネルをトントンとクリックする。それと同時にPCから聞こえてきたもの・・・。
「やっぱそう言うことか」
屈んでいた姿勢を戻し、その場に仁王立ちする凛花。
「なんとなく解ってきたわね」
頷く私。
「これ、何の話をしているの?」
不思議そうに私たちの顔を見比べるかおるこ先生。
***
一時間後、私たちは雪乃さんのアパートに向かっていた。赤いミニマム・クーパーを運転するのは若菜さんだ。
あの後、私はすぐに若菜さんに電話を掛けた。夕方からのお仕事だと言う若菜さんは遅い昼食を採っていたところだった。私が大まかに今回の件について話すと、それならすぐにと学校まで迎えに来てくれたのだ。
雪乃さんへの連絡も若菜さんがしてくれた。昨日の今日で体調を崩し、お仕事を休んでいた雪乃さんは当初、私たちの訪問を頑なに拒んでいそうだ。しかし若菜さんが「今回の件をハッキリさせよう」と言うと思い当たる節があったようで、あっさりとOKしてくれたそうだ。
雪乃さんのアパートは昔ながらの木造二階建のアパートだった。階段を上がった一番奥の部屋、表札は出ていないがそこが彼女の部屋だった。
チャイムを鳴らすと静かにその扉が開く。
「・・・狭いけど、どうぞ・・・」
そう言う雪乃さんの顔は昨日と同様、全く血色が感じられない。きっとほとんど眠れずにいたのだはないだろうか。
雪乃さんの部屋はあっさりとしたモノだった。独身女性の部屋と言うことで、着飾った部屋をイメージしていたのだが、モノトーンに統一されたそこはキレイではあるものの、全くと言っていいほど生活感を感じさせない無機質な部屋だった。
ローテーブルを挟んで四人で腰を掛ける。みんなしばらくは無言で話し出すタイミングをうかがう。下を向いたままの雪乃さん、それを黙って見つめる私たち。
どれくらい経ったであろう、しばらくして入れてくれた麦茶の氷がカラン! と鳴った。それが合図かのように若菜さんが口を開く。
「ねえ雪乃、何があったのか私たちに教えて」
みんなの目が一斉に青白い顔をした雪乃さんを見つめる。
それに対し、相変わらず覇気のない表情で下を向いたまま、黙り込む雪乃さん。このままではラチが開かない、そう判断した私は単刀直入に切り出した。
「雪乃さん、申し訳ないのですが私たち、あの
「・・・あのあと?」
首を傾げる雪乃さん。
「はい、昨日の帰り、私たちを駅前で降ろしてからの二人の車内での会話です」
「ドライブレコーダーに録音されてたそうよ」
若菜さんが口を挟む。
「あ、ああ・・・」
「まだ雪乃さんにも解っていないんですね、本当のことが」
私は録音されていた会話をもとに話を進める。
そう、ドライブレコーダーに映っていた太刀川家までの映像、それと共に車内での会話もキレイに録音されていた。その中での二人の会話―――それを頭の中で反芻する。
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