27話 かおるこ先生がくれたもの

「けどよ、証拠も何もねえ。オレたちの憶測に過ぎねえよな」

「そうね。それに共犯だって可能性もまだ残るしね」

「ふぅ~っ! やっぱ『推理ごっこ』はここまでかな・・・」


 凛花は盛大にため息を付くと、肩を落としてうつむく。確かにお手上げ、私たちにはこれ以上どうしようもない。しかし・・・。


「でもこのままでは雪乃さんだけが疑われるわ」

「えっ!? あ、そうか、そうだった」

「その潔白だけは晴らさないと」

「でもどうやってだよ。それに雪乃さんの無実だって、オレたちがそう思っているだけで、グレーにはグレーだぜ、彼女だってよ」

「それは分かっているけど、このままじゃ・・・」


 このままでは雪乃さんだけが犯人ってことになりかねない。なんと言っても警察はマスクを入手している。しかも、彼女からの再三に亘る着信履歴。うう~ん・・・。

 どう考えてもこれ以上の勝負手が思い浮かばない。


『ガラガラッ!』


 その時、私たちしかいない図書室のドアが開いた。


「遅くなってごめんなさい!」


 入って来たのは司書のかおるこ先生だった。


***


「遅れちゃってごめんなさいね!」


 私たちにそう挨拶すると一旦カウンターの中に消えたかおるこ先生は、すぐに出て来ると私たちの隣に腰掛ける。


「参っちゃったわ、朝、事故に遭っちゃってね!」

「えっ!? 事故、ですか!?」

「あ、いえいえ、私は巻き込まれただけよ。私の前を走っていた車が、曲がって来た車と接触事故を起こしちゃってね」

「大丈夫だったんですか?」

「うん、私は大丈夫よ。でもね、前の車、おじいちゃんでね。すぐに警察が来たんだけど瞬間のことを良く覚えていなくて。きっと動揺もあったのだろうけどね」

「それで今まで先生も付き合っていたんですか?」

「そうなのよ。あ~あ、もうこんな時間ね」


 図書室の時計は十一時を指している。いつもは八時には学校に来ているかおるこ先生は三時間も足止めを食らったことになる。


「大変だったんですね。それで決着は着いたのですか?」

「ええ、おじいちゃんは悪くないのよ。前方から右折して来た車との接触だったんだけど、そう言う場合、向こうが悪いってことになるのよ、道路法上ね」

「そうなんですね」

「ええ。まあ100%ではないけど、過失は向こうにあるわね」


 私はまだ免許を持っていないので、その辺は良く分からないけど、要するに右折車より直進車の方が優先、ってことのようだ。

 するとその会話を聞いていた凛花が先生に尋ねる。


「でもさ、警察はよく先生の言い分を聞いてくれましたね。やっぱ教師だからですかね?」

「まさか、警察はその人の職業でなんか判断したりしないわ」

「じゃあ、なんでですか?」

「ああ、私の車のドラレコよ。そこにバッチリ写っていたのよ」


 車の前方を常に撮影している、って言うアレ。ドライブレコーダー。かおるこ先生の車にもそれが搭載されていたのだろう。


「それが証拠になったってコトか」

「すごい! それってかおるこ先生のファインプレーですね」

「まあ、たまたまよね。お陰でわたしが驚いている声まで記録されてたけどね」

「でもそう言う映像って警察への証拠にもなるんですね」

「まあ、そもそもがこう言う場合の責任をハッキリさせるのがドラレコの本来の目的だしね」


 私がかおるこ先生とそんな会話をしている時だった。


「あっ!」


 そう短く発すると正面の美少女が思いっきり立ち上がる。その勢いで彼女のイスが後方に倒れる。静かな図書室に響く『ガタンッ!!』と言う大きな音。


「そうだ! それだぜ玲!!」

「えっ?」

「そうだ、こうしちゃ居られねえ! 急ぐぞ玲!」

「えっ? ちょ、どこに行くのよ?」

「決まってる! 太刀川の家だ!」



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