26話 結局犯人は誰?
「浅見さん!?」
私がその名前を出すと、凛花は驚いたような顔で聞き返す。
「なんで浅見さんが左利きだってわかるんだよ。それも『左手で食べていたから』ってことか?」
私はすぐにそれに答える。
「そう、彼だけ左手で食べていた。それに彼は右手に腕時計をしていたの。いかにも高級そうな時計をね」
「ああ、そう言えば・・・」
彼女もその時の光景を思い出しだのだろう、夕方、バーベキューを打ち切る際に彼が目をやった腕時計、その時間を見て浅見さんは「そろそろ言い時間だから」と言って切り上げたのだ。その時、右手に金色に輝いていたいかにも高級そうな腕時計! 『だから即、左利きだ』とはならないが、『自称探偵』の凛花に見逃してもらっては困る。
「ってことはどうなるんだ? 浅見さんがアヤシイってことか?」
「うーん、それもわからないのよね」
「なぜ昨日の早朝、あそこに雪乃さんのマスクが落ちていたのか? そして左利きと思われる浅見さんがどう関係してくるのか? とかか・・・」
「そうね、浅見さんと雪乃さんがグルって可能性もあるし。もっとも浅見さんの場合『左利きかも』ってだけで他になんの証拠もないんだけどね・・・」
「だよな。さすがに『唯一の左利きだからアナタが犯人です』なんてオチ、素人が描いたミステリーでも許されないよな」
「・・・・。」
―――あなた、事件のことを考えている? それとも小説化した時のことを心配してくれているの? まあ良い。
私は頬杖を付く腕を左手に変える。
図書室の時計は午前十時を回っている。私たちが推理を始めてからすでに二時間が経っていた。私は再びペンを取ると、浅見さんと雪乃さんの頭に『? マーク』を書き込む。
しばらくの黙考の後・・・。
「そう言えばよ!」
静まりかえった図書室に凛花の声が響く。私は少しビクッっとして顔を上げる。
「どうしたの?」
「いや・・・これはあくまでオレの感覚なんだけどよ」
そう言うと彼女は少し身を乗り出すようにして話し出す。
「浅見さんって言えば、昨日の朝の態度、おかしくなかったか?」
「態度?」
「ああ、態度・・・って言うか、表情って言うか」
私は必死に当時の彼の様子を思い出す。
「警察の尋問から戻ってきた浅見さん、最初は疲れ果てたような表情で珍しく口数も少なかっただろ?」
「ええ、確かにそうだったわね」
「でもよ、どこかのタイミングで急に元気になった」
そう、元気のなかった浅見さんはいつからかいつもの調子を取り戻し、帰る頃には『自分がリーダーだ』と言わんばかりに元気があると言うか、張り切っているように見えた。あれは・・・。
「それでオレ、思い返したんだ、浅見さんが元気になったタイミング」
そう言うと彼女は少し得意げにツンと尖った鼻を人差し指でなぞるとこう言った。
「アレはよ、確か太刀川からの電話があった時からだぜ」
太刀川からの電話―――
昨日の朝、救急車に同乗し、病院に着いた彼から私宛に電話があった。病院で治療中の飯島さんの意識がまだ戻らないと。
そうだ、そしてそのあと、そのことを伝え聞いた菅野さんは「この時間まで意識が戻らないと、万が一のことも考えないと」と、暗に希望が持てないようなセリフを吐いた。元看護師のこのセリフ。この辺りを契機に・・・。
だとしたならこうは考えられないだろうか、
『自分が殴り殺したはずの飯島が生きていたので焦っていた。しかし、容体を聞くにどうやら彼が意識を取り戻すのは難しいことを知った途端、元気になった』
とは・・・?
「それによ」
私が考えている事を凛花も思っていたのだろう、凛花が続ける。
「それに零時半頃、アリバイがなく一人でいたのも雪乃さんと浅見だけだ。そのうち雪乃さんは玲が言った通り難しかったと仮定すると、犯人は一人!」
「浅見さん!」
「ああ、そう言う事になるな」
凛花の言葉を合図に、私たちは顔を見合わせた。
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