25話 雪乃さん犯人説?

「でね、問題はここからなの」


 そう言うと私はマスクの写真から顔を上げ、キョトンとしている凛花に話し続ける。


「で、このマスクなんだけど、警察が聞き取りをやっている時、私たち現場を見にいったじゃない?」

「ああ、何か物証はないかキャンプ場を探したな」

「うん。それで月見の丘にも行った」

「ああ、真冬と三人でな。・・・あれ?」

「そう、あの時、あの丘の上、つまり私がコレを撮影した場所にマスクはあったと思う?」

「いや・・・いや、なかった。あの頃にはすっかり陽も昇って辺りはもう明るかった。あの花以外何もない丘の上にこんなマスクが落ちていたらオレだって気付くはずだ」

「そうよ、あの時にはもうなかったのよ」

「と、言う事は・・・どう言うことだ?」


 凛花は顔を上げて首を傾げる。


「警察の検分のあと、マスクがなくなっていた。となれば話は簡単よ」

「警察が持って行った!?」

「多分ね。問題はソコなのよ。彼女がグレーと判断されるかも、って話をしたけど、コレを押収した警察は十中八九雪乃さんを疑いの目で見るわ」

「まあ、確実な証拠、とまでではいかないが疑いはされるだろうな」

「そうなのよね・・・」

「・・・ん? 雪乃さんが犯人なのがショックだってか? まあ、そりゃそうだよな、何があったか知らねえけど、婚約者を殴打するなんてよ。大人しそうに見えたんだけどな・・・」

「そうじゃないの。釈然としないの」


 私はペンを置き、右手で頬杖を付く。


「釈然としない? 雪乃さん犯人説にか?」

「ええ、なんかシックリこないの」

「どこがだよ」

「管理棟はオートロックで午前零時にカギが掛かる。菅野さんに言わなければ雪乃さんは建物の中から出れないのよね」

「あ、そっか!」

「それに昨日も思ったんだけど、飯島さんのケガの状態からして単に二~三メートルの緩やかなガケから滑り落ちたんじゃなくて、やはり誰かしらに殴られた、そして突き落とされた可能性の方が高いと思うのね」

「まあ、確かに可能性としてはそっちの方が高いかもな」

「でもそうなった場合、飯島さんの頭を少なくても意識がなくなるほど殴打する。あの細い腕でできるかしら」

「意外と馬鹿力があったりしてな」

「でね、もう一つ気になることがあるの」

「ん? 今度はなんだ?」

「さっき、太刀川君は犯人じゃない、ってなったわよね。その時には言わなかったけど、飯島さん、左の後頭部を強打しているのよ」

「左の後ろ頭」

「うん、後ろ頭から左側頭部にかけてね」

「それってどう言うことだ?」

「つまり犯人がいた場合、その人物は左利きの可能性が高いのよ」

「ああ、確かに! 片手で何かを持ち上げるにしろ、両手で持つにしろ、どうしても利き手側に振り上げるよな」

「うん、普通はそうだと思うのよね。で、太刀川君は右利き、雪乃さんも右利き。バーベキューの時も右手で食べていたわ」

「なるほど! となると、左利きの人が怪しくなってくるワケか。でも今からオレたちだけじゃ調べられないよな、何利きかなんてよ」

「うん、でも一人だけ左利きと思われる人がいるの」

「え? ・・・そんなヤツいるのかよ?」

「ええ、いるわ。浅見さんよ」


 私の言葉に凛花の細くて整った眉がピクンと揺れた。

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