24話 着信履歴
太刀川からの二通目のメールにはこう書かれていた。
警察が飯島さんから押収したスマホの着信履歴、その中に数度に亘って雪乃さんからのモノがあった。時間は午前零時過ぎに一回、あとは午前三時前後に四回の計五回。午前零時の時点では飯島さんの身にはまだ何も起きていないはずだし、午前三時前後と言えば私たちが彼を発見する一時間ほど前だ。
そしてその着信に対して、午前零時のものを除いて、午前三時前後、計四度に亘って掛かってきた電話に彼は出ていない。
彼が事故に遭ったのは午前零時三十五分以降、それもその直後の可能性が高い。恐らくすでにガケの下に横たわっていた彼が三時前後の電話に出ることは不可能だったはずだ。
この二つの時間、計五回わたりなぜ雪乃さんは彼に連絡をして来たのか? 彼女の証言によれば・・・。
ここまで太刀川のメールを読み上げると凛花が口を開く。
「確か雪乃さんは薬の入ったポシェットが必要で飯島さんに連絡した、って言ってたよな」
「ええ、三時前後の電話についてはそのようなことを言ってたわね」
凛花も私の脳裏に浮かんだ記憶と同じ事を反芻しているらしい。
「じゃあよ、やっぱ着信があったって怪しくはないよな」
「それはそうだけど・・・」
「ん? なんだ、疑っているのか?」
「そう言うワケじゃないけど・・・」
「まあ確かに何度も・・・四回か? 四回も掛けて来るのは少ししつこい気もするけどさ。でもよ、それを疑い出したら音田さんと若菜さんだってそうだろ。証拠は本人の証言だけなんだから」
「それはそうね。ただ・・・」
「ん? なんだよ? 他に何かあるのか?」
私は今まで言い
「私、見たのよね、マスク」
「マスク?」
「そう」
そう言うと私は凛花の手から自分のスマホを受け取ると、写真アプリを開く。昨日の早朝、ガケの下飯島さんを何人かが見に行っていた時に撮った写真・・・。
そこには月見の丘の隅の方、月下美人のすぐ脇に捨てられている一枚のマスクが写っている。それを凛花に見せる。
「ん? なんだこのマスク?」
「よく見て、その真ん中あたり」
「真ん中? ・・・なんか口紅が付いてんな」
そう言って更に画面に顔を近づける彼女。
「これ口紅か? なんか紫っぽい色だけど・・・あっ!」
私はまだ薄暗い丘の上でフラッシュを炊いてその写真を撮った。そこに写るマスクの中央、ちょうど口が当たる部分はハッキリと紫色に塗りつぶされている。
「これって雪乃さんの口紅の色と同じだよな」
「そうなの。ピンクや赤なら分かるけど、紫のリップってそう多くわないわ。しかも見ても分かるように、まだその口紅の色、滲んでいないのよ。昨日は夕立があったでしょ。滲んでいない口紅・・・私たちの誰かのマスクと考えるのが自然よね」
「まあ、確かにそうなるかな・・・?」
「そして私たちのうち、私と凛花は口紅を付けていない」
「うん」
「若菜さんはご存知のとおり真っ赤な口紅」
「確かに」
「となるとコレは雪乃さんのマスクの可能性が高いのよ」
「そっか、再三電話を掛けてきた雪乃さん、彼女の口紅は紫色。その雪乃さんのモノと思われるマスクが現場に残っていた・・・これって・・・」
「そう。それに午前零時、飯島さんがまだ元気だったと思われる時間にもある彼女からの着信。これにも何らかの意味があると考えたら・・・」
「雪乃さんが・・・」
さすがの凛花も少し驚いているようだ。
そんなに仲は良さそうには見えなかったけど、一応、飯島さんの婚約者の雪乃さん。やはり彼女は限りなくクロに近いグレーなのだろうか。
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