18話 引き揚げ
結局、警察が引き上げた頃には昼近くになっていた。
聴取から戻った雪乃さんは、いつもにも増して顔色が悪かった。よほど心労が祟っているのだろう、目の周りにはクマまでできている。
もちろん、もともとの体調のせいもあるのだろうが、自らのフィアンセがこんなことになり、心中察するものがある。
そんな雪乃さんの肩をポンポンと励ますように軽く叩くと、浅見さんはみんなに向かって言う。
「警察の取り調べも終わったし、俺たちもそろそろ帰ろう」
「そうだな」
音田さんも同調する。
私もどこか釈然としない気持ちはあるものの、特に異議を唱える理由もなく、その言葉に従う。
それにしても雪乃さんは分かるが真冬君の元気がなすぎるのが気になる。太刀川でさえ、さっきの電話で少しはカラ元気を出し始めていると言うのに、彼は先ほどからまともに相槌さえも打って来ない。久し振りの野外と寝不足で疲れているのかしら。
それに引き換え浅見さんはすっかり元気を取り戻したようだ。飯島さんがいない今となっては、自分がリーダー的な役割を果たさなくてはと、頑張っているのだろうか。盛んにみんなを励まそうとしてか明るく振る舞っていた。
***
帰りの車は飯島さんの『ドルファイア』を浅見さんが運転し、私たちを家まで送ってくれることになった。音田さんはもう一台の車で若菜さんと帰るらしい。
それに先立ち、私は自分の荷物をまとめると、真冬君と彼等の部屋に入った。救急車に飛び乗った太刀川の荷物を手分けして持って帰るためだ。
もともと手荷物のほとんどない凛花は、若菜さんと一緒に飯島さんの部屋で彼の荷物を片付けるのを手伝った。
明らかに昨日より更に具合の悪そうな雪乃さんは、出発までゲストルームで待機だ。
私は真冬君をサポートしながら、部屋を片付ける。
そんな中、真冬君がその手を止めると小さな声で言う。
「ねえ、川島さん」
「え、なに?」
「あのさ・・・」
私は黙って彼の言葉を待つ。
しばらくして彼の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「飯島さんは転落して頭を打ったんじゃない。もしかしたら太刀川君に殴られたのかも!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます