16話 現場検証
空が白みはじめてきたころ、ようやく救急車は到着した。スマホの時計は午前五時、太刀川たちに起こされてから一時間以上が経っていた。
救急隊員たちの手によって丘の下で横たわっていた飯島さんは救急車まで運び込まれる。
私の間近を運ばれて行く飯島さん。私はその様子を少しのことでも見落とすまいと食い入る様に見つめた。
左の側頭部から後ろ頭にかけて巻かれたタオル、それが血に染まって赤くなっている。その
付き添いには唯一の身内である太刀川が同乗することになった。もっとも凛花同様、かなり動揺している彼を付き添わせるのは若干、不安ではあるのだが。
続いてやってきた警察の聞き取り調査も行なわれた。夕方から夜に掛けての状況、彼がかなりお酒を飲んでいたことや、カメラが好きなことなどについても、浅見さんが一通り説明をしていた。
もちろん私たち学生組も一人一人、順番に聴取を受けた。
もっとも警察側は当初から『足を滑らせての転落事故』と半ば決めているらしかった。
夕立に濡れた丘の上、暗闇の中、そこで撮影に夢中になるあまりうっかり足を滑らせて転落。酔いが抜けきっていなかったのもその原因のひとつ。そして滑落先あった石に頭を打ち付けた、と。
すぐ隣に転がっていた石に血液が付着していたのが何よりの証拠と考えているらしい。
そんなこともあってか、その取り調べ、私たちへのヒアリングはあっけないほど簡単なものだった。
私が警察に少し対して多少の不信感を抱いているのを察してか、脇で見ていた若菜さんがため息まじりに言う。
「まあ、警察も忙しいから事故で片付けられるものは事故で処理したいのよ」
―――事故で片付けたい・・・。
確かにそれはあり得る話だろう。自殺だと判断されたら、警察はまともに取り合ってはくれない。その事は身をもって体験したことがあるからよく分かる。
とは言うものの、昨夜の行動についてはひと通り聞かれた。
まあ私と凛花は九時前にお風呂から戻って以降、若菜さんと十二時近くまで話していたし、一度一緒にトイレに行った以外は、早朝に呼び起こされるまでは部屋に籠もっていた。なので言う事もほとんどなかったのだが。
大人組が聞き取り調査を受けている間、私は凛花とキャンプ場内を調べてまわった。
落ち着きを取り戻した凛花は、ようやく自分がJK探偵であることを思い出したらしい。『事故』で片付けるのは簡単だが、それを疑うのが探偵の役目。もし警察が事故で片付けるつもりなら、私たちが真相を調べる、それだけだ。
私たちは管理棟の周辺から始まり、くまなく近辺を再調査した。月見の丘、水場、バンガロー・・・。
―――そう言えば・・・。
そう、昨夜、お風呂上がりのA棟にはあかりが付いていた。A棟は私に近寄って来た謎の男の人が消えて行った方向でもある。
私はそのA棟に近付くと、背の高さギリギリのその窓から中を覗こうと背を伸ばす。
「ああ、そこの人かい?」
いつの間にか背後に近付いて来ていた菅野さんに気付かずビクッ! とカラダが反応する。私はすぐさま態勢を整え、菅野さんに聞いてみる。
「そう言えばココって、昨夜あかりが付いてましたよね?」
すると菅野さんは少し不思議そうに首を傾る。
「うん、それがおかしいんだ。昨夜・・・七時頃だったかな、男の人が急に来て、空いている部屋はないか、って言うんだ」
「夜の七時に、ですか?」
「そう。それでちょうどA棟が空いていたから急遽お貸ししたんだが・・・」
「え? で、その人は今、どこにいるんですか?」
「それがね、昨夜のうちに帰ってしまったんだよ、急に仕事で呼び出されたとか言ってね」
「昨夜のうちに・・・?」
「うん、あれはお風呂を閉める直前だったから十二時前だったかな。無理矢理受付の奥にいた私を呼び出してね」
「なんか・・・奇妙な人ですね」
「そうなんだよ」
「おい玲、もしかしてそいつが飯島さんを丘の上から突き落とした、とかありえないか?」
ヨコから凛花も口を挟む。
「それはわからないわ。でも不審なことに変わりはないわね」
凛花の言うとおり、男の行動は謎だらけだ。
しかし私は別の理由で彼を疑っていた。きっと彼は飯島さんとは関係がない。
凛花には言えないが・・・。
私は凛花の発言を受けたテイで、その男について更に菅野さんに聞いてみる。もっとも菅野さんも顧客の個人情報だからと、私が教えてもらえたのは「
その時、取り調べを終えた浅見さんが私たちのところへ戻ってきた。
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