15話 事故?
丘の上は、今通って来た林の中同様、その砂地の部分や芝生は若干湿っていた。昨日の夕立や、林の北側に位置するこの丘全体が、日中でも日当たりが悪いせいだろうか。
眼下に倒れている飯島さんらしき男性、その
その光景を見て瞬時に思ったのは、飯島さんがこの丘から滑落したのではないか、と言うことだった。暗さのせいで丘の端が見えなかったのかもしれない。
でもなんでこんなところに? 満月でも撮影しに来た?
するとその様子を見ていたわが相棒が近づいて来る。
「も、もしかしてよ、こ、ここから落ちたのかなあ・・・?」
彼女も同じことを考えているのであろう、実は豆腐メンタルの彼女は早くもビビリの様相を呈している。
「そうかもしれないわね」
「ま、ま、まさか○んでないよな・・・?」
「それは・・・わからないわ」
「ひ、ひぇ・・・」
私たちがそんな会話をしている中、懐中電灯を手にゆっくりと斜面を降りて行った音田さんたちも横たわる彼に近付く。
「飯島! 大丈夫か!?」
「お、叔父さん・・・!!」
そこから太刀川のうろたえた声も聞こえてくる。
「ああ、触らないように! 頭を打っているようだ」これは菅野さんの声だ。
「ひ、ひっ、血! 血だーーっ!!」今度は太刀川の声。どうやら近くに血痕でも見付けたのだろうか。
その様子を丘の上から見ていた私は、自分のスマホを確認すると凛花に指示を出す。
「凛花! 救急車よ! 早く! ココ、電波届いてない!」
「えっ、あ、お、おう! ・・・救急車救急車・・・110番だっけ? 119番?・・・」
「僕も一緒に行きますから!」
すかさず隣にいた真冬君が凛花に声を掛ける。
「お、おう! い、行こうぜ!」
そう言うと二人は管理棟の方へ急ぎ足で戻って行く。
「あら、意外と彼、冷静な子なのね」
もう一人、私のそばに残り、その様子を見ていた若菜さんが言う。確かに真冬君は見た目とはウラハラにいつも意外と落ち着いている。
それに引き換えわが相棒は、イザと言うとどうして急に腰抜けになるのだろう・・・。
***
飯島さんは音田さんたちに囲まれたまま、動かされずそのままにされている。菅野さんがとにかく動かすことを制止しているためだ。
丘の上からではあるが、みんなのやり取りを聞く限り、どうやら飯島さんはかろうじて息はしているものの、浅見さんたちからの呼びかけには全く反応しないようだ。
「叔父さん! 叔父さん・・・!」
時折、下から太刀川の泣き叫ぶような声が聞こえてくる。
丘の上に残った私は、救急車が到着するまでの間、飯島さんが滑落したと思われる付近を中心に、丘の上をウロウロしていた。何か当時の状況が分かるモノはないか―――。
おそらく救急車と一緒に警察も来るだろう。なので仮に何かを見付けても手は触れずに、スマホで撮影するつもりだ。
「ん? この草・・・って言うかこの花はなにかしら・・・」
明るくなり始めた丘の上、その端の一角に何本かの草がキレイに揃って生えている。茎は一本立ちしていて、その先には少ししおれた白い花が、その時期を終えたようにしな
「ああ、その花ね」
私の呟きに若菜さんが答える。
「その花は月下美人よ。菅野さんが養殖で植えているの」
「月下美人、ですか・・・」
「そう、一晩しか咲かない幻の花。どうやら昨日の夜がその一晩だったようね」
私の脇に
「そうなんですね」
そう、そう言えば昨晩は満月だった。満月の下の月下美人。
この花を撮影に来て誤ってガケから滑り落ちた。その可能性もあるのだろうか。
私は様々な可能性を探りながらなおも近辺をウロウロする。もちろん、地面はまだ多少滑るから、足元には最新の注意が必要だ。そんな足元に気を付けて歩いていると・・・。
―――おや? なんでこんなところに?
その時、遠くの方から救急車のサイレン音が聞こえてきた。
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