14話 捜査
「じゃあまずテントサイトを見に行こうぜ」そう言う凛花を制し、若菜さんに聞いてみる。
「先に飯島さんの部屋を見たいんですけど良いですかね?」
「う~ん、別に良いんじゃない。あ、でも万が一のこともあるから、あまりモノには触らない方が良いかもしれないわね」
もちろん、私もむやみに手を触れるつもりはない。そして万が一のことも当然、考えている。
若菜さんの言葉を『大人も承認済み』と勝手に判断させてもらい、私は二人を連れて彼の部屋に入った。
浅見さんが言っていたとおり、飯島さんの部屋『D棟』の扉にカギは掛かっていなかった。部屋の灯もそのまま点いている。まあこれは外からも窓の明かりでわかっていたが。
部屋の造りは私たちの『F棟』と同じ。
真四角の部屋の両サイドに簡易ベッド。その中央に小さなローテーブル。部屋の隅には小さな洗面台はあるが、私たちの部屋同様、トイレは付いていない。
部屋の中には飯島さんの荷物らしきものがいくつか散乱していた。
テーブルの上にはフタの開いた缶ビールが二本とおつまみらしきスナック類、あとはカメラの備品らしきモノがいつくか。
またベッドの上には下着と思われるシャツ類にタオル、更に周辺の床にはこれまたカメラの備品だろうか何本かのケーブルや充電器らしきもの、雑誌や何かのチラシが散乱し、壁際にある大きなバッグからはゲーム機のようなものが顔を覗かせている。
―――それにしてもこんなところに来てまでゲームとは! 太刀川君も顔負けね。
そんなことを思いながら、若菜さんの言うとおり、モノには一切触れず、その代わりにありとあらゆるモノをスマホのカメラに収めた。
「それにしてもよく半日でここまで散らかしたな」
写真を撮る私のそばで凛花が呆れ口調で言う。
「こう言っちゃなんだけど、彼、だらしないところがあるのよ。色々とね」
若菜さんも少し意味深に言う。
「もう良いんじゃね?」凛花の言葉に頷いた私は、飯島さんの部屋を後にした。
***
再び外に出た私たちは、当初の予定通りテントサイトや駐車場まで飯島さんを探しに行った。駐車場に車は四台。私たちの乗ってきた『ドルファイア』はもちろん、全ての車の中まで懐中電灯で照らして見たが、人っ子一人いなかった。
私たち三人の成果はなし。
三人並んで今来た道を広場に向かってトボトボと歩く。なんとなく東の空が白んで来たようだ。
と、その時―――
「おおーい、いたぞー!」
はるか前方、バンガローの中ほど、一本だけ植えられた松の木の脇で、大きく手を振る人がボンヤリ見える。音田さんだ!
駆け寄る私たちを確認した彼は、バンガローの裏手、林の中を指さす。
「こっちだ、こっち!!」
私たちが広場に戻るのと同時に、管理棟の方から太刀川たちも戻って来た。
音田さんが言うには、この林の先にある丘の下に、飯島さんらしき人が倒れていると言う。今は浅見さんが付いているそうだ。
雪乃さん以外の七人が揃うと、みんな音田さんに付いて林の中に入って行く。
ちょうどC棟とD棟のウラの林の中に、幅二十センチくらいのケモノ道ができている。日中でも日陰になっているであろうその道は、夕立の影響もあってかわずかに濡れている。懐中電灯の明かりの中、うっかりすると足を滑らせそうだ。
そんな林の中を二十メートルくらい進むと少し視界が開ける。
そこは幅十メートルくらいの小高い丘になっていた。芝草などに覆われたその斜面を注意しながら登り、大人の背丈ほどの丘の上に立つ。
あとで知った話では、満月の夜には月や星が綺麗に見れることから『月見の丘』と呼ばれているそうだ。
その直径十メートルほどの丘の更に向こう側、ゆるやかなガケの二~三メートル下。まだ薄暗い闇の中に彼は倒れていた。
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