13話 事件の幕開け

『おい、起きてるか?』

『ん? ああ・・・なんだ、今度はお前か』

『さっきトイレに行ったんだが、今日は満月がキレイだぞ』

『あぁ? 満月?』

『そうだ。なんか甘い香りもしてたが、アレは何だろうな』

『香り?』

『ああ。まあいい、それより例のコンテスト、ガンバレよ!』



=====



『ドンドンドン! おおい、凛花ちゃん! 玲ちゃん!』


 何時間くらい眠ったのだろう、私は扉を強く叩く音で起こされた。まだ外は暗いようだ。

 寝ぼけまなこで扉を開けると、そこには懐中電灯を手に、慌てた様子の太刀川と真冬君が立っていた。


「どうしたの?」

「い、いないんだ!」

「いない?」

「叔父さんがいないんだ。どこを探しても!」


 私は一瞬、彼が何を言っているのか事態が飲み込めなかった。


「で、まさかとは思うけど、こっちの部屋に来てないかってよ」

「はぁ? なんで飯島さんオレたちのトコにいるんだよ」


 同じく目を擦りながら起きてきた凛花がそれに答える。


「飯島さんがいなくなっちゃって今、みんなで探しているの」


 凛花の返事を聞くなり、すぐにどこかに行ってしまった太刀川に代わり、真冬君が教えてくれる。


「わ、わかったわ。私たちもすぐに行くから」そう言っていったん扉を閉めると、私たちは急いで着替えた。


***


 広場のバンガロー寄り、昼間タープが張られていた辺りにみんなが集まり始めていた。

 ゲストルームに泊まっていたはずの雪乃さんも、浅見さんと菅野さんに支えられるようにして立ち尽くしている。緊急事態に時間外の管理棟も解錠したのだろう。

 最後に部屋から出て来た若菜さんが揃うと、浅見さんが今までの顛末てんまつを話してくれた。


 それによると午前三時過ぎ、体調が悪くなった雪乃さんはフィアンセである飯島さんに電話を掛けた。薬の入ったポシェットを飯島さんに預けたままだったからだそうだ。


 しかし、ゲストルームから見える彼の部屋には灯が点いているにも関わらず、一向に彼は電話に出ない。

 夕方かなり酔っていたこともあり、逆に彼が心配になった雪乃さんは、今度は浅見さんに電話を掛けた。様子を見てきてくれないかと。


 その連絡を受けた浅見さんはすぐさま飯島さんの部屋を訪れたが、カギは開いていたものの中はもぬけのカラ! 電気も点けたまま忽然こつぜんと彼が消えていた。


 最初はトイレか、若しくは眠れなくて辺りをブラブラしているものと思っていたが、一向に帰ってくる気配がない。

 さすがに心配になった浅見さんは、管理人の菅野さんを起こし、同室の音田さんと共に辺りを探した。しかしどこにも手がかりはなく、彼を見付けることはできなかった、と言うことだ。


 彼曰く、彼の部屋からはご自慢のカメラが無くなっている、とのことだ。彼は昨日見せてもらったカメラと、もう一つ小型のデシカメを持参していたらしいのだが、その両方が彼の部屋から紛失しているらしい。


「夜中に何かを撮影に行って、事故にでも遭ったのではないか」


 そう考えた浅見さんは、全員を起こし、もう一度周辺を探してみよう、と言うことになったらしい。


 スマホの時計を見ると午前三時五十分。夜明けが近いとは言えまだ辺りは暗い。

 結局、浅見さんの言葉を受けて、全員で飯島さんを探すことになった。『ミイラ取りがミイラにならないよう』ケガや事故に遭わないようにと、複数人ずつに分かれての捜索だ。


 私は凛花、雪乃さんの三人でテントサントや駐車場方面を探す。女子だけだが三人いれば平気だろう。


 菅野さんは太刀川たちと共に、体調の優れない雪乃さんを一旦、ゲストルームに戻しつつ、管理棟周辺のトイレや水場などを、浅見さんと音田さんは林の中や、更にその先を探すことになった。彼がカメラを持ったまま居なくなっていることからも、何かを撮影するためにある程度遠くまで行った可能性もあるからだ。


「それではみんな気を付けて」と言う浅見さんの言葉を受けて、私たちは三方に散った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る