12話 恋バナ
『コンコンコン!』
「お二人さん、戻ってるー?」
「あ、はーい!」
どうやら若菜さんのようだ。私は凛花に目配せすると、扉のカギを開ける。
「ヤッホー! ・・・って悪いんだけど、少し入っても良いかなあ?」
お風呂の時は裸眼でよく分からなかったが、若菜さんも顔もほんのりと赤い。言葉の調子からも少し酔っているのだろうか。
しかし、お風呂上がりにもかかわらず、いつものように真っ赤な口紅だけは忘れていない。これが大人の女性の
「あ、全然! どうぞ入って下さい」
「そう、悪いわね」
そう言う若菜さんの片手にはビニール袋がぶら下げられている。
「部屋で飲んでたんだけど、一人じゃつまんなくてさ」
そう言うとその袋から、缶ビールやおつまみを取り出す。私たち用なのだろうか、ジュースやスナック類もある。
「雪乃さんはまだ戻らないんですか?」
「そうね。もう九時過ぎてるし、今日はあのままゲストルームで寝るつもりじゃないかしら。十二時になると管理棟も施錠されるしね」
「そうなんですね」
私たちは備え付けの小さなローテーブルの上に、若菜さんが持って来てくれた食料品を並べると、簡易ベッドに腰掛けた。
「彼女も色々と疲れることが多いのよ。まじめちゃんだからさ」
そう言うとさっそく缶ビールのプルタブをプシュッ! と開ける。
「ねえ、そんなことよりあななたち、太刀川君たちとデキてるの? どっちがどっちの彼女?」
「えっ? いえ・・・」ストレート過ぎる若菜さんの質問につい口ごもる。するといきなり凛花が息を吹き返したように話を引き取る。
「やめて下さいよ。別にオレたち付き合ってませんから! アイツらがどうしてもここに来よう、って言うから」胸のことを引きずっているのか、少し不機嫌そうにそう答える。
「あら、そうなのね。でも彼氏たち、ずっとあなたたちを見ていたわよ。う~んと、きっと色白の彼氏はあなたに気があるわね」
「ま、真冬がオレをですか!? それはないない!」
慌てる凛花、私も唖然として彼女を見る。そんな私に向かって若菜さんは続ける。
「で、太刀川君はあなた狙いね」
―――えっ!? 太刀川が私・・・?
突然のカウンター・・・いや、クロスカウンターを食らい、言葉に詰まる。
「どう? 当たってるんじゃない?」
若菜さんは缶に口を付けると、ゴクリと一口飲み込む。
「残念だけどそれは違いますね。真冬はもっと・・・なんて言うか、大人しい女が好きなはず。いいヤツだけど覇気がねえから、オレみたいなのを好きにはならないですよ」
「そうかしら? 間違いないと思ったんだけどな。私、こう見えてそういうの
―――はい、確かに目敏そうです!
・・・ん? ってことは・・・??
「じゃあ聞きますけど、若菜さんは今、彼氏とかいるんですか?」凛花が少しだけ挑発的に聞き返す。
「私? 私はいつもフリーよ。特定の彼氏は作らない主義なの。だって面倒でしょ」
「面倒、ですか?」これは私。
「そうよ。一人の男に縛られるのはイヤなのよね。ちょっと一緒にいただけで浮気したとか、不倫だとか。私は好きな時に好きな人と居たい。これってワガママなのかなあ?」
―――ワガママと言うより・・・。
今の私には若菜さんの考えを肯定できそうにない。でもさっきから話を聞いていてわかった。若菜さんは男好きとか、浮気性とではなく・・・そう、自由でいたい人なんだと思う。
結局、若菜さんとは二時間以上も恋バナに花を咲かせた。
日付が変る頃、もう遅いからとお互いアドレスを交換して若菜さんは帰って行った。
ベッドに入った私たちも、日中の慣れない環境での疲れからか、あっという間に眠りに着いていた。
=====
『今、部屋を出て行ったわ』
『あとはヤツが帰るのを待つだけだな。いったいヤツは何をやっているんだ』
『そうね。・・・あ、今出て来た。帰るみたいよ』
『よし! うまくやれよ』
『ええ、わかっているわ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます