6話 バーベキュー

 与えられたバンガローは丸太でできた山小屋風の建物だった。


 設備としては簡易式のベッドが二つと小さな洗面台があるだけ。しかし質素な造りだがちゃんとエアコンは付いている。これなら暑くても平気だ。トイレはないから、きっと管理棟脇の共同トイレか、管理棟内のトイレを使うのだろう。


 そんな部屋に入るなり、少し興奮した声で凛花が聞いて来る。


「おい玲、見たか?」

「え? 何をよ?」

「あの若菜って人の胸だよ、胸! あれF? G・・・ん? 何カップあるんだ?」

「もう! あなた、やっぱりソコを見てたのね!」

「そりゃ、見るだろ! しかも半分覗いてるし! まさにあれは丘だな、丘!」

「もう、中学男子と一緒ね」

「だってよ、あんな胸であんな服で・・・むふっ!」

「ちょっと!」


 益々興奮状態の凛花を睨みつける。すると部屋の扉をノックする音が。


『コンコン!』


「凛花ちゃん、玲ちゃーん、準備できたかー!?」

「うん、今行くね~!」


 私は凛花の代わりに、もう一人の『中学男子』の呼びかけに答えた。


***


 外へ出ると先ほどからあったタープの隣に、もうひとつのタープが張られていた。どうやらバーベキューは大人班と学生班に分かれて行なうようだ。隣のタープの下では雪乃さんとお喋りをしながらも、浅見さんが必死で火を起こしている最中だ。


 太刀川は両手に抱えてきた折りたたみチェアーを広げると、私たちに腰掛けるように促す。さらに真冬君に指示すると、クーラーボックスに入った飲料を私たちに渡してくれる。


―――意外! 太刀川って結構気が利くところもあるのね!

 

 そう言う私たちも感心ばかりしているワケには行かない。勧められたイスに腰掛けることなく、太刀川に聞いてみる。


「私たちも手伝うよ。何をすれば良い?」

「おう、そっか。そうだな、じゃあ野菜を切ってきてくんね? クーラーボックスに入ってるから」

「わかったわ」そう彼に頷くと用意を始める。


 最初は「太刀川たちに任せておけばいいじゃんか」と言っていた凛花だったが、少しはヤル気になったのか「今日は何を作るんだ?」と聞いてくる。


「今日はアレだ。まず焼き肉、そんで夜はカレーだな」

「おお、焼き肉にカレーだってよ! なかなか良いセンスしてんじゃん!」


 焼き肉にカレー、センスが良いと言うよりもはやテッパンな気もするが。でもまあそれはそれで楽しいみだ。私は凛花と一緒に野菜を洗いに水場に向かった。


***


「なんか太刀川のヤツ、人が変ったみてえだな」


 野菜を洗いながら凛花が嘲笑する。


「そう言わないの! きっとみんなを楽しませようと張り切っているのよ」

「ふ~ん、みんなを楽しませるね」


 振り向いた先では、太刀川が浅見さんの指示に従い、炭を取りに管理棟に向かって走って行くところだ。


「ま、張り切りすぎてぶっ倒れんなよ」手を休めることなく凛花が言う。


 それにしても四人でこうしているなんて、少し前なら考えられないことだ。

 それに外でバーベキューなんて子供の頃以来。たまにはこう言うのもいいわね! 私はひとときの青春を謳歌しよう、そう心に決める。


「凛花ちゃーん、暑かったら休みながらやれよー!」


 大きな一輪車に炭と薪を乗せながら太刀川がタープの方へと戻って行く。


「失礼だけど、意外と気が利くわよね」

「だな。ホント、雪でも降るんじゃねえか?」


 そんな太刀川にも毒舌娘は容赦がない。しかし彼女も楽しいのだろう、さっきから頬が緩みっぱなしだ。私たちも切り終わった野菜をボウルに入れるとタープの下へと戻った。


***


 網状の鉄板の上にお肉を乗せる。

 ジュジューっと言う音と香ばしい薫り。

 太刀川が起こした炭火は、近付けるホホまで焦げてしまうのではないかと思うほどの火力で素材を焼いてくれる。


「小皿とハシはこれを使って。あと飲み物はここに置いておくね」


 真冬君も負けずと気を配ってくれる。


「ヤベッ! 焦げすぎた! コレは真冬が食え!」

「ええ~、焦げたのを食べるとガンになるよ~」

「そんなの迷信だろ!」

「じゃあ太刀川が食えばいいんじゃね?」

「オ、オレが? オレはダメだ。ニガイのは苦手だからな」

「もしかして太刀川君、コーヒーもダメだったりする?」

「ダメって言うか・・・砂糖を入れれば飲めるけど」

「太刀川君ってね、砂糖を三つも入れるんだよ!」

「三つ!? ガキかよ!」

「悪いかよ!」


 あははは・・・。


 私たちは食べているのか、飲んでいるのか、喋っているのか。もはや何がなんだか分からないくらい楽しかった。


 太刀川が調子に乗って凛花が突っ込む。それを真冬君がフォローして逆にツッコミ返される・・・。

 私は三人のやり取りが楽しくて、ずっと笑っていた。

 こんな時間がずっと続けばいいのにな。

 私はジンジャードリンクを飲みながら三人を見つめていた。

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