4話 湯ノ瀬村キャンプ場
高速を降りて走ること三十分。車は山道に差し掛かっていた。
左右に蛇行しながら登って行くにつれ、道幅は狭くなって行く。
―――対向車でも来たらどうするのかしら? そんなコトを考えながら左右の窓からの景色を眺める。さっきからずっと左手には緑に覆われた山壁、逆に凛花越し、右の窓の外は崖が続いている。
やがてアスファルトの道路に終わりを告げ、車は砂利道に入って行く。さすがの高級ミニバンでもかなりの揺れを感じる。
よく、ミステリーだと冬山で道路が大雪のために遮断、その先にある洋館かなにかで連続○人が起こる・・・と言うのが定番だが・・・。
でも今は真夏、その心配はなさそうだ。
そんなことをボンヤリと考えていると、隣の美少女がたまに見せる不安げな表情で聞いて来る。
「なあ玲、さっきからずっと細い道を走ってるけどよ、急に暴風雨とか台風が来て道路が遮断、なんてコトにならないよなあ?」
「・・・・・。」
どうやら彼女も同じようなことを考えていたらしい。
「大丈夫よ」
そう言って私は彼女のももを軽く叩く。
そんな私たちの妄想をよそに、山道を登ることおよそ三十分、ようやく車は山頂近くのキャンプ場に辿り着いた。
*****
辺り一面の森林が終わると、開けた場所に出た。砂地になっているその場所は、どうやらココが駐車スペースなのだろう、すでに一台のワンボックスカーが停まっている。そのすぐ隣に停めた車から私たちはぞろぞろを外へ出る。
車を降りた瞬間、セミの大合唱が私たちを迎えてくれた。あたりに人工の音がなにもない分、その泣き声はアタマに響くほどだ。
そんなセミの声にも負けず、元気いっぱいな太刀川が私たちの荷物を持つなり、キャンプ場の紹介をしてくれる。
「この先にオレ達の泊まるバンガローや管理棟があるんだ!」
「へえー、結構広いのね」
「そりゃそうさ! この左手が普通のテントを張るスペースだな」
飯島さんに続き、太刀川たちと一緒に先へと進んでいく。駐車場は一番手前、その先の左手に十個くらいはテントを張れるだろうスペースがある。更に進むと右手に同じような形をした小さな建物が見えて来た。これが私たちが今日泊まるバンガローのようだ。正方形の胴体にとんがった茶色い屋根、同じ形に並んだ小さな建物が妙に可愛くておかしい。
―――なんか「タケノコの○」が連なっているみたいね。そう思っていると隣を歩いていた凛花も口を開く。
「なんかキノコの○みてえだな」
「・・・・。」
―――キノコ? いやタケノコでしょ? 言い返そうとしたが、ここで『キノコ・タケノコ論争』をしても始まらない。私は早くも額に浮かんだ汗を拭いながら先へと歩く。
「ここがこのキャンプ場の管理棟だ」
バンガローから広場を挟んだ反対側、テントサイトからは林に遮られたその奥に管理棟はあった。
「まずはここで入村の手続きをするから。みんなに中に入って!」
飯島さんの号令に、貴重品だけを持って管理棟に入る。リュックなどは入り口近くの自販機前で一時待機だ。
管理棟の中は手狭だが小綺麗に整理されていた。
入って右側にちょっとしたお土産品が並び、その奥に様々な観光関係のパンフだろうか、ラックが並んでいる。突き当たりは中の廊下に続いているようで『 風呂⇒ 』と言うプレートも見える。車内で太刀川が「管理棟には温泉もある」と言っていたのがこの先にあるのだろう。
左手には受付があり、初老の男性が座って私たちを迎えてくれる。
「
「おお、飯島君、久し振りだねー、昨年の夏以来かね?」
受付の中で立ち上がった男性について、飯島さんが紹介してくれる。
「このキャンプ村の村長の菅野さんだ」
「初めまして、ここで管理人をやっている菅野です」
「初めまして!」「お世話になります」初対面の私たちが挨拶する。
「菅野さんはいっとき、市内の病院で看護師もやっていたことがあるんだよ」
飯島さんが教えてくれる。
「そうなんですね」
「そう。だからみんな、安心して具合が悪くなれるよ!」
「え? あ、は、はい・・・」
―――もしかしてこれはフラグだろうか?
するとその菅野さんが私たちを見つめて言う。
「今日はまたかわい
「ああ、彼女たちは健作の同級生なんですよ」
「ほう、健作君のねえ~」
―――かわい子ちゃん? まぁいっか。二人の会話が盛り上がっている中、私たちは狭い売店内をウロウロする。
いかにも観光地と言った感じのストラップやペナント、絵はがき、よく分からないキャラクターのTシャツ・・・。
その隣のパンフレット置き場にも色んなパンフが置いてある。
『野外コンサート202×年夏』『村民フォトコンテスト』『湯ノ瀬村盆踊り大会・・・』
―――盆踊り? すでに終わった今年の旧盆。このチラシに違和感を持って小さな声で呟く。するとそれに気が付いたのか、会話が一段落したらしい菅野さんがそんな私に反応する。
「ああ、まだそのチラシあったんか。あとで捨てておかんとな」
「なんだ、盆踊りのチラシ?」凛花もそのチラシを覗き込む。
「そうなんだよ、村の若いもんや役場の連中が、色々なチラシを置いて行くんだがね」
「ああ、そうなんですね」
「まあ、勝手に持って来てくれるのはありがたいんだが、連中、終わっても始末してくれないから溜まる一方でね。ついこの間まで冬山ツアーのチラシが置いてあったからね。あははは・・・」そうおおらかに笑う菅野さん。きっとこのスペースは持ち込み自由、管理はしない、そう言うコーナーなのだろう。
(それにしても冬山ツアーって!)
「じゃあ、玲ちゃんたちも名前書いて-!」
飯島さんに促され、慌てて宿泊名簿に名前を書く。
「ここのバンガローは各部屋にトイレこそないが冷房が付いているし、簡易式のベッドもある。あとこの奥には交代制だが小さな温泉もある。全エリアでフリーWi-Fiも繋がるから若い子にも快適だと思うよ」
私が記入している横で菅野さんが教えてくれる。
確かにこんな山奥でWi-Fiが使えるなんてレアなのかもしれない。
そんなことを考えながら名前を書き終わると、勢いよく管理棟のドアが開いた。
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