3話 S.A(サービスエリア)


 湯ノ瀬村ゆのせむらのキャンプ場までは車で二時間とのことだった。


 途中で高速道路に乗った車は渋滞もなく、スムーズに進んで行く。そんな車内では相変わらず太刀川と飯島さんが話の中心だった。


「それにしてもこの車は運転しやすいな~。さすが高級車!」

「そうでしょ! オヤジの車はみんなふかふかのピカピカだぜ」

「そうだな。俺も兄さんみたいにこんな高級車を何台も持ちたいよ」


 話の流れからすると、この車は太刀川のお父さんからのレンタルなのだろうか。そう言えば飯島さんはさっきからやたらにハンドリングが楽だ、サスペンションが柔らかい、最新のドラレコ搭載だ、などと車を褒めちぎっている。


 米国製の『動く応接室』とも言われる高級ミニバン『ドルファイア』、確かにその広さだけでなく、乗り心地も最高だ。

 私も二人だけに話をさせては失礼かと、少しだけ会話に参加する。


「この車って太刀川君のお父さんの車なの?」

「ん? ああそうだよ。オヤジが持ってるウチの一台」

「健作の家は資産家だからね! 今日はそのうちの一台を借りたってわけ」


 運転席から飯島さんも会話に加わる。


「今日は俺の大学時代の仲間も来るけど、みんないいヤツだから気楽にやってね」


 そう、今回のキャンプは私たちの他に太刀川の叔父さん・・・飯島さんの友達も何人か参加するらしい。もっともそのうちの一人が婚約者だとは初めて知ったが。

 まあ、向こうに着いてからは大人班と学生班に分かれて行動するらしいから、あまり関係はなのかも知れないが。

 ふと横を見るとそんなことに興味がないのか、凛花は一人スマホをいじくり回していた。


*****


 途中、サービスエリアで休憩を取ることになった。

 少し大きめのサービスエリアはなんでも揃っていた。売店にファーストフード店、トイレ、自販機。奥には日帰り温泉もあるらしい。


 トイレに行ってくる、と言う他の四人を見送り、私と凛花はパラソル付きの四角いウッドテーブルに腰掛けた。


「それにしてもやっぱり暑いわね」


 私は手のひらをうちわ代わりにパタパタと顔を仰ぐ。それに対して座るなり再びスマホをいじりだした凛花が失笑しながら私にその画面を見せてくる。


「ほら、優子のヤツ本当にオレたちの写真上げてるぞ」

「本当だ! さっき撮った写真ね」


 画像アプリ『写写しゃしゃくらぶ』の優子のアカウント、そこにはこっちを向いて微笑みかける三人の美少女・・・いや、三人の女子高生がそのコメントとともに映っている。


「ええ~と、なになに『友達は湯ノ瀬村でキャンプ、私はバイト! とほほ・・・』だってよ」


 ご丁寧に私たちの『写写くらぶ』でのアカウントタグまで付いている。


「もう優子ったら勝手に」

「まあ優子は承認欲求強いからな。これくらい許してやろうぜ」


 そう言う凛花。やはり太刀川たちとお出かけしている負い目があるようだ。

 そんなことを話していると、太刀川たちが戻ってきた。


***


 大きなパラソル付きの四角いウッドデッキに腰掛ける六人。

 自然の流れでパラソルが作る日陰に女子三人がかたまり、その対面に太刀川たちが座った。


 日陰に陣取った私は、太刀川が買って来てくれたジュースに口を付けながら、あらためて雪乃さんの横顔を見る。


 その肌は雪のように白く、七分袖から覗いた腕にはうっすらと血管が浮かんでいるが、それさえも透き通って見えるほどだ。ジュースを飲むために外したマスクの下から、紫色に塗られた唇が覗く。


―――なんでもっと健康的な色にしないのかしら? 私はお節介にもその美しい横顔を眺めながら思う。


 さすがに屋外ではパラソルの下でも汗が浮かんで来る。まして曇り空とは言え日なたともなればアスファルトの照り返しもあってかなりの温度だろう。

 しかし私たち女子三人を前にすこぶる機嫌の良い太刀川は饒舌に話し続ける。


「そう言えば叔父さんはカメラのプロなんだぜ」


 そう言って飯島さんの方を見る。


「プロってほどじゃないよ」

「だって前に市展で入選したじゃん!」

「ああ、あれか」

「えー、スゴイですね!」


 凛花が一切心の籠もってない声で合せる。


―――この子、絶対に思ってないでしょ?


「いやー、昔大学のサークルでちょっとやってただけだよ。まあ、今でも出かける時はいつも持って来てるけどね」そう言って首にぶら下げたカメラをデッキの上に乗せてくる。詳しくないのでよく解らないが、いかにも重厚で高価そうなカメラだ。


 しかし観光地に着いてからならわかるが、サービスエリアでいったい何を撮るつもりなのだろう? そう思ったが、同じ文化系の私としては少しだけ共感もあり、話を繋げる。


「どんな写真を撮るんですか?」

「そうだな、一口に言ってしまえばかな」

「キレイなもの、ですか?」

「そうだよ、キレイなものならなんでもね。建築物とか風景とか。あと玲ちゃんみたいな美人さんもね!」

「は、はあ・・・」一瞬、引いてしまった私の心情など知らずに、太刀川がかぶせてくる。

「そう、それで前は雪乃さんを撮って入選したんだ。ね、雪乃さん!」

「ええ、そうだったわね・・・」


 急に振られてテレているのか、雪乃さんは顔も上げずに小さく返事をする。


「向こうに着いたら撮ってあげるよ。玲ちゃんも凛花ちゃんも可愛いから、良いモデルになると思うよ」

「あ、ありがとうございます・・・」


―――う~ん、それしか言えないなあ。


「ちょっと叔父さん! でも雪乃さんの時みたいな写真はNGだぜ!」

「ははは、いきなりヌードは撮らないよ」


 えーっ、写真てそっち!??


 私の中で飯島さんの評価がジェットコースター並に急降下して行く。

 まあ、それも芸術ではあるのだろうが。隣で凛花の「キッモ!」と言う声が聞こえてくる。


「ところで健作、オマエまだ切手集めとかやってんのか?」

「もう、やだな叔父さん。それ、小学生の時の話だろ。今はゲーム一筋さ」

「ゲームか」

「そうなんですよ、太刀川君はゲームの天才なんですよ」今まで黙っていた真冬君まで話しに加わり、男子三人で盛り上がり始める。

「ゲームなら俺も負けないぞ!」

「お、いいね叔父さん! 今度勝負しようよ!」


 そんな様子を見ながらまたもや隣の美少女が小さく呟く。


「ちっ! ゲームにエロ写真かよ。まさにオタクの王道だな」


―――・・・・・。


 一部、 不適切な表現が含まれていたことをお詫びいたします ―――

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