11話 駅前で
放課後、当番のモップ掛けを終えると凛花がやって来た。
掃除の最中も彼女は不審者のごとく、教室内をウロウロしていた。お昼に彼女が言っていたことが本当なら、事件の解決を前に、落ち着かないでいるのかもしれない。
「玲、これから付き合ってくんない?」
自らのバックをその細い肩に掛けながら私を誘って来る。
私は図書室で、ミステリーの原稿書きでもしようかと思っていたのだが、凛花の用事の方が優先だ。彼女いわく「今日中にカタが付くだろう」とのことなのだから。
彼女の予想が当たっているにしろ外れているにしろ、私もそばにいた方が良いだろう。彼女は「美少女」であり「探偵」でもあるのだが、同時に放ってはおけない「危うさ」も持ち合わせている。
「うん、わかった」
私は机の片隅に残っていた消しカスを軽く払うと、一緒に教室を後にした。
*****
学校前からバスに乗って連れて来られたのは、柳都駅前だった。
なんだかんだと最近は行動範囲が狭まり学校と家の往復をするだけ、あとは祖父の病院に行くくらいで、こうして駅前まで来るのは久し振りだ。
この街の中心部でもあるこの駅前周辺には、市役所や銀行、ショッピングモールなどが建ち並ぶ。まだ帰宅ラッシュには早い時間にもかかわらず歩道は人で溢れていた。
そんな人混みをかき分けながら歩いていると、前方から見慣れた顔が近付いて来た。祖父の昔の後輩、真田さんだ。長身のがっちりした体軀、アタマに多少白いモノが混じっていてはいるが、背筋をピンと伸ばして歩く姿はとても還暦間近とは思えない。
「真田さん!」
「あ、玲ちゃん!」
何故か真田さんは少しばつ悪そうにアタマを掻きながら挨拶を返してくる。
「この辺にご用なんですか?」
「うん、ちょっとね」
そう言いながらも彼は遙か前方を気にする素振り。
「ごめん、玲ちゃん、ちょっと急いでいるからまた今度ね!」
「あ、は、はい!」
そう言うと彼は私の返事も聞かずにまた早足で去って行ってしまった。
「ん? あのおっさん誰?」
凛花が不思議そうに聞いて来る。
「あ、ああ、あの方ね、おじいちゃんが昔働いていた会社の後輩。真田さんって言うんだけどね」
「ふ~ん」
さして興味もなさそうにそう言うと、凛花は私の手を握り「早く行こうぜ」と先を急ぐ素振り。相変わらずの人混みは、確かに手でも繋いでいないと迷子になりそうだ。私は凛花に引きずられるようにして着いて行く。
そして歩くとこ五分後、私たちはとある建物の前にたどり着いた。
*****
「ここって・・・」
目の前にそびえ立つグレーの建物を見上げながら思わずつぶやく。五階建のその一~二階を占めているのは『
「ああ、砂山堂書店、ウチらの学校指定テキストを扱ってる本屋だな」
「確かここって萌絵のバイト先だよね」
「そうだな」
いつになく無愛想にそう言う凛花に思わず尋ねる。
「ねえ凛花、あなたひょっとして萌絵を疑っているの?」
萌絵と言えば今日、太刀川とともにテキストが紛失した、言うなれば被害者だ。相棒はそんな彼女がアヤシイと睨んだのだろうか? 確かにミステリーでは犯人の「自作自演」と言うのもテッパンではあるが・・・。
「まあ見てろって」
そう言いながら私のブラウスをそっと掴むと、歩道脇にある自販機の影に身を隠す。ちょうどこそこからは本屋の入り口が丸見えだ。
「オレの予想だと、そろそろ現れると思うんだが・・・」
「萌絵ちゃんならバイトが終わるまで出て来ないんじゃない?」
「まあまあ。」
そう言う彼女は自販機から半分だけ顔を突き出し、本屋のほうを向いたまま微動たりともしない。後ろ髪のキューティクルがキラキラと輝いている。私がその長くて艶やかな黒髪に見とれていると凛花が背中越しに小声で叫んだ。
「出て来たぞ!」
自販機の影から歩道へと身を出した凛花に私も続く。
私たちの視線の先、本屋さんから出て来たのは真冬君だった。
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