10話 凛花の考え


 お昼休み、いつものように凛花と向かい合わせでお弁当を食べる。今日は二人ともお弁当持参だ。教室で食べるお昼ご飯も一学期はコレで「終業」だ。

 お互いのおかずを交換し合ったあと、私は当然のごとく例の『紛失事件』の話題を持ち出す。


 最初は優子のサドルが盗まれた。まあ「盗まれた」のか「消えた」のか原因は特定できないが、自然に消滅するモノでもない以上、何かしら人為的な力が働いているのは確かだ。


 翌日には、真冬君、かおるこ先生、あかりちゃんのサドルが同じく無くなった。


 そして今日、現状わかっているだけでも、萌絵、太刀川のテキストが紛失している。


 こうも連続して紛失騒ぎが起こるとなると、事件性を疑わざるを得ない。それに私たちは一応『探偵(仮)』だ。学校が介入して来ない今、解決するのは私たちしかいないのではないだろうか。

 私はだし巻き卵を必死に頬張る凛花に尋ねる。


「ねえ、凛花はどう思う?」

「んぐ? ぬぁにぐぁ? (ん? なにが?)」

「なにが、って決まってるでしょ、サドルとテキストよ」

「ん、そうらな・・・(うん、そうだな)・・・ゲホッ!」

「もう! ちゃんと飲み込んでから喋りなさいよ!」


 私に言われて彼女は水筒の麦茶を一口飲み込む。


「んー、まあ、また前回みたいに犯人がいるんじゃねえか」

「もう! それはわかってるわよ! いくつもがなくなっているんだもん、誰かがやったに決まっているでしょ」

「そうじゃなくてよ」


 彼女はそうひと言つぶやくと珍しく黙り込む。

 普段であれば知らないことでも得意になって知ったかぶりをするのが彼女の個性なのだが、今回はどうも様子が違う。そもそも彼女が推理に乗ってこないことすら珍しい。「事件」と言う彼女の大好物が目の前にあるにもかかわらずだ。


「何か考えでもあるの?」

「まあ、あるっちゃああるわな」


 どうも歯切れが悪い。


―――そう言えば! 私はふと思い出した。昨日の帰り、バスに乗る前に彼女が発したセリフをだ。


「そう言えば凛花、たしか昨日別れ際に『もうサドルは盗まれない』って言ってたわよね? 結局アレはどう言う意味だったの?」


 昨日の放課後、駐輪場で犯人を捕まえようと張り込みをしていた太刀川。彼に対して、彼女はそう言っていた。その時はすぐにバスが来たため彼女と別れたが、その言葉の真意を聞いていないままだった。


「・・・ああ、あれか」


 そう言うと彼女は一瞬、モトの彼女に戻ると悪戯をたくらむ子供のような表情で付け加えた。


「それはアノ言葉の通りだ。もう、サドルが盗まれることはないってな。現に昨日は誰のサドルも盗まれなかっただろ」


 そう言うと私に向かって小さくウインクをする。私は破壊力満点のその視線から目を逸らすと、少し語彙を強めて言う。


「だから、何か解ったの?」

「ううーん、わかったようなわからないような、だな。どうやら今回はオレの苦手な分野のようだし」

「苦手な分野?」

「いやぁ~・・・ようわからん!」

「もうなによ! ちゃんと経過報告しあうのがルールでしょ」

「いやいや、玲だって前回はオレに黙って勝手に行動したじゃんか」

「あ、あれは・・・」

「まあいいや。多分、今日中にカタが付くと思う」

「ならいいけど。無理して危なっかしいことしないでよね」

「前回の玲みたいに、ってか?」

「もう! あの話はもういいでしょ!」

「ははは! ああ、わかってるって」


 彼女は水筒に口を付けると、ゴクゴクといっきに飲み干してしまった。まだ二時間も授業あるのに、ノド乾くわよ・・・。

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