第2章 第二の事件
9話 新たなる事件
7月23日(木曜日)―――
終業式を明日に控えた教室は、直前に迫った夏休みを前に浮き足立っていた。
授業は今日で終わり、明日半日だけ終業式に顔を出せば約一ヶ月の自由な時間が待っている。
しかし終業式って何を「終業」するの? 勉強はずっと続くのに・・・。
三限の体育が終わって戻って来ると、教室はサウナのようだった。エネルギー資源の節約で、空き教室になる時間帯はエアコンを切っておかなければならない。
もっとも凛花に言わせると、それはあくまで『SDGs』と言う流行りのワードを盾に、アタマに「ど」が付くほどケチな学園長が「この機を逃してなるものか」と、学習環境、労働環境など度外視で、経費節減をしまくっているだけ、と言うことらしいが・・・。
ま、それはそうと、運動して火照ったカラダに教室の暑さ。とどまるところを知らずに流れて出てくる汗は、いっこうに治まる気配がない。しかし早く着替えないと男子が入って来てしまう。私はタオルで簡単に汗を拭うと急いでブラウスに着替えた。
*****
「いったいいつまで掛ってんだよ」
しばらくして、文句タラタラで男子が入って来た。廊下で待たされた彼等のオデコには、玉のような汗が噴き出している。
「悪い悪い!」「ごめんねー!」「教室、暑すぎだろ」
あちこちでそんな会話が交わされている。
太刀川と真冬君も席に着くなり「暑い暑い」と言いながら下敷きで顔を仰いでいる。半袖から覗いた腕には水でも浴びたかのように汗が光っている。
私たちも着替えたはいいが、いまだに汗が背中を流れて落ちて行く。こんな状態で四限が数学だなんて地獄だ。
それにこの暑さのせいか、どうも最近アタマがぼーっとすることが多い。これが夏バテなのかしら? ちゃんとご飯、食べているのに。
そんなことを思っていると、なにやら廊下側の席がザワ付いてきた。こちらから見るに、どうも騒動の中心は萌絵の席のあたりだ。
「ちゃんと探したの?」
「忘れて来たんじゃない?」
そんなささやき声がいくつもに重なり合って聞こえて来る。しばらくすると、萌絵の隣の男子が、クラスの誰とはなしに向かって叫んだ。
「萌絵のテキストが無いんだけど、誰か知らね!!?」
その声にみんな一斉に彼の方を見る。私も汗を拭く手を休めてそちらを伺う。教科書とは別に、全員が新学期に購入したテキスト。どうやら萌絵のそれが紛失したらしい。
しかし、みんな心当たりがないのか「知らねー」「さあー?」と口にしては、すぐに授業の準備を続ける。凛花も「忘れて来たんじゃね」と言いながら、自分のテキストを広げている。
そんな中、今度はすぐ斜め前の太刀川が叫んだ。
「オイ! 俺のテキストがねえんだけど!!」彼は大きなカラダを曲げて、机の中やバックの中を覗き込むと、顔を上げて更に大きな声で叫ぶ。
「誰だよ、俺のテキスト盗ったヤツは!?」
―――ん? 太刀川のテキストも??
「数学のテキストがないの?」真冬君が心配そうにそれに答える。
「ああ、ずっとこの中に入れておいたんだが見当たらねんだ!」と言いながら机の中を指さす。
どう言うことだろう??
昨日まで、自転車のサドルがいくつも無くなったかと思えば、今度は数学のテキスト! これって偶然なの? それともやっぱ事件??
夏バテ気味の脳ミソを必死に動かそうとする私を尻目に、後ろを振り向いた太刀川がひと言。
「おい真冬! テキスト貸せ!」
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